追う者

篠原

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第十四章  人生の春冬劇  ~関東で暴かれてくる秘密~

第十四章 ④

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その後、私たちは、二人で、駅までの
夜道を歩きました。
女一人だと怖いところもありますが、
彼と一緒に歩いているのです。
数時間前は、1人で、戦々恐々と、
同じ道を歩いていました、ホテルに
向かって…。
私は、「帰り道、二人で歩いてるかな、
それとも、一人で歩いてるのかな」と
考えながら、歩きました。




結果、帰り道は、『勝利の凱旋』に
なりました!
なんて言ったって、私は、最愛の人の
妻になることが決まって、そして、
その人と一緒に歩いていたのです
から!!






その千葉の某駅の改札を抜けて、
二つの階段の前で、私たちは、
別れました。
彼は、いすみ方面。
私は、東京方面です。


「じゃあ、おやすみなさい。
家に着いたらメールします」と言う
私を義時君が呼び止めました。
そして、「ま、真子さん……!
年明けにでも、うちの両親に、
会ってくれるかな?」と言うのです。
真剣な表情で……。
私は、驚きました。
そんなこと想像もしていなかったの
です。
でも、確かに、結婚を本気で考えて
いるのですから、当たり前のことです。
避けて通れないと言うか、絶対に、
するべき『重大儀式』なのです。
私は、意を決して、答えました。
「はい。分かりました」と。



杉並へと戻る電車の中で、私は、
考えました。
「とうとう私も来年には、奥さん、
人妻かぁ」と。

今までには、考えられなかったような
幸せが待っている……。
同時に、その前には、膨大な準備、
雑用、そして、緊張する事案の連続
なんだ……。
「でも、義時君と一緒になら、
大丈夫!」と思えました。








その年の年末は、それまでの年末とは
違う思いで、過ごしました。
「これが、独身最後の年末なんだ」と…。
また、「来年の大晦日は、義時君と
一緒に年越しそばを食べながら過ごす
んだよね」とも思いました。





そして、新年……。
今までにはなかった、栄義時君と
不動みどりちゃんからの「あけまして
おめでとう!」と言うメール。

それと、将来の夫からの年賀状。
再会を果たした大親友からの
年賀状。


あと、そうです。
雪子おばさんと、元日に、長電話を
しました。
「結婚する。相手は、小学時代の同級生。
今は、家族で、銭湯や不動産の仕事を
している人だよ」と言う内容を、
丁寧に説明、報告しました。

雪子おばさんは、泣いて喜んでくれ
ました。
そして、「絶対に結婚式には行く
からね!
それまで、お祈りして、健康に気を
つけて、一番良い体調で、そっちに
行かないとネ!!」と言ってくれ
ました。
自分のことのように喜んでくれて
いるのが分かって、私は、嬉しくて、
泣けてしまいました……。




それから、その年末年始は、義時君と
電話でやり取りをしながら、色々と
結婚のための準備もしました。
なので、ゆっくりは過ごせず、
本当に忙しい年末年始でした。
でも、幸せいっぱいの年末年始でした。
そうだッ!29日には、義時君と、
彼のカワイイ……、あッ、その話は、
また今度しますね……。


それでですね。
私は、義時君には内緒でしたが、
パソコンを使って、調べました。
いいえ、調べ尽くしました!!
彼のご両親に挨拶へ行く際の注意点や
服装、お土産のこととか……。
なぜって、時間がなかったからです!
ピーナ共みたいに楽しんでるだけじゃ
ダメなんです!
ボヤボヤしてる『時間切れ』になり
ますから……!



実は、義時君から、大晦日の夕方に
電話があり、「年明けそうそうだけど、
5日の昼は、どうかな?
うちの両親と……」と言われたのです。
だから、私は、その年末年始、
猛スピードで調べました。


それと、義時君は、電話で言って
いました。
「うちの方が最初になるけど、
真子さんのお母さん……、雪子さんにも
挨拶しに行かないといけないよね……。
愛媛県だから、日帰りじゃ無理だろう
けど、絶対に行くから、予定を訊いて
おいてくれる?」と。
すぐに、雪子おばさんに電話しました。



そんなかんなで、非常に忙しい
年末年始でした。







年明けの1月4日。
とうとう翌日は、義時君のご両親と、
初めて会うのです!
ここで粗相したら、アウトです!
私は、身を引き締めました。
何度もしたのですが、もう一度、
着て行くもののチェック、それと、
お土産も。

私は、パソコンが起動するのを
待ちました。
「明日に備えて、もう一度、予習
しておこう」と思ったのです。
コーヒーを片手に、パソコンの画面が
明るくなるのを、ぼんやり待ちます。


お正月です……。
静かです……。
そして、私一人だけの部屋には、
太陽の日差しがサンサンと……。
何か気持ち良い……。


「新しい門出にふさわしいなぁ。
今までと違って……。
今までは、ゴミだらけで、タバコ臭
イッパイだったもんなぁ」と思います。

我ながら、片付いて、きちんと
整理され、気持ちの良い部屋になって
います。



そうなのです。
あの11月の『再会の日』から、私の
生活パターンも生活リズムも変わり
ました。それに、食生活も……。
生活習慣もですね。
特に、仕事を辞めたので、夜型から
朝型に戻れました。
そして、大親友と再会し、その大親友
みどりちゃんが遊びに来ることに
なったので、大掃除が出来たのです!
それまで、掃除なんて、ほぼして
いませんでした!
私が、『夜の世界』で生きていた頃の
私の部屋の様子なんて……、皆さんは
想像できないでしょう!!
それほどの状況でした。


だけど、大親友と再会して、その
女友達が遊びに来ることになった
ので、ちらかし放題のゴミ部屋を
念入りに掃除できたのです。
あれは、本当に、良いキッカケ
でした……。


おかげで、テーブルの上に山積みに
なっていた読みかけの雑誌の数々も、
多量のタバコの吸い殻、スナック菓子の
空き袋も、もう見当たりません!
それに、大量のビールの空き缶や
ワインの空き瓶も、すでに、ゴミ処理場
でしょう!!




「そのかいあって……」と呟きながら、
もう一度、私は部屋中を見渡しました。
今までと違って、さわやかな雰囲気です。
タバコ臭さも、ピークの時よりは、
マシになってるよね……。

立って、消臭剤を取りに行きます。
でも、実際、もうこれなら、
誰が突然来ても、大丈夫…!



実際、みどりちゃんが、
「キレイな部屋だねぇ!
しかもさ、うちと同じ位の広さ
じゃん!?一人でさ、広すぎない?
ってかさ、掃除、大変じゃない?」と
言ってくれました。
良かった……。
安心しました。
「キレイ」と言ってもらえて。
そして、実際、超久しぶりの大掃除は
超が付くほど大変でした。
埃がまうのでマスクをしながら……。
何度もゴミ置き場と部屋を往復。
冬なのに汗だくになって、数日間に
渡って実施した『マイルーム大掃除』
で、私の体重は、数キロ……ダウン
しました。
それは、式を控える身としては嬉しい
オマケでしたね……。




話を戻します。
彼の両親に初めて会うと言う
『拷問級顔合わせ』に向けて、
長い間パソコンに向かっていたの
ですが、ハッと、時計を眺めると、
もうお昼過ぎでした。
私は、「みどりちゃん、今日は、
非番かな?それとも、仕事かな?
もし警察署にいたとしても、今は
お昼休みだよね……」と考えて、
大親友のみどりちゃんに電話を
かけてみました。


有難いことに、みどりちゃんは、
お休みでした。
時間を気にせずに電話できます!
みどりちゃんは、じっくりと、
『経験済の先輩』として、
アドバイスをしてくれました。
それと、「いやさ、彼の実家に初めて
行った時さ、和室に通されたの。
畳のさ……。
で、話してる途中で、足がモノスゴク
痺れ出してさ……。
実家じゃないからさ、逃げることも、
立ち上がることもできないしさ……。
もう、本当に、ヤバいって思った!!」
と言う体験談も話してくれました。
電話を切った私が、すぐに、
正座の練習を始めたのは、
言うまでもありません。

……そして、私は、数分で、
音を上げました。
「義時君の実家で、絶対に、和室とかに
通されたらダメだ!!」と本気で
思いましたね、あの時は……。


他にも、みどりちゃんからの
アドバイスをまとめたり、それをもとに
予習をしたりもしてみました。
何もせずに緊張して、ビクビクしながら
翌日を迎えるよりは、出来ることは
ちゃんとやって、練習可能なことは
ちゃんと練習して、迎えた方が、絶対
良いです!
その意味でも、本当に、みどりちゃんと
再会できていて、良かったです!
先に結婚し、先輩花嫁となっていた
不動みどりちゃんという大親友は、
まさに、私に備えられた『助け手』
だったと思います。


そうですね。
ちょっと話がそれて、
『再会の日』直後のことになりますが、
みどりちゃんとは、すぐに、携帯で
頻繁にやり取りするようになりました。
それと、二人で出かけるようにも…。
まさに、小学3年のあの事件以前の
関係に戻れたのです!!
それで、大人女子2人で、
ショッピング行ったり、映画鑑賞。
それと、さっきもお話ししましたが、
部屋に来て「キレイ」と言ってくれた
のが、12月半ばのことでした。


うん。思い出します。
再会した、みどりちゃんと、初めて
2人で出かけたのが、11月28日
でした。
その日は、みどりちゃんは非番。

それで、その日、みどりちゃんに、
私は、アドバイスされたのです。
場所は、沢山のOLで賑わっている、
カフェでした。
時刻は、ちょうどランチ時……。

女性は……、私も含めて、声が大きく、
しかも大声で話しますから、
みどりちゃんも周囲の『女子トーク』の
嵐に負けじと大きな声で、言ってくれ
ました。
「真子ちゃんさ……。義時の連絡先、
あの日に聞いたの?
今度さ、真子ちゃん、義時を食事か
何かに誘ってあげたら?
あの日のお礼にってことでさ……」と。
そして……、イタズラっぽくウィンク
……。
頬が赤くなります。
「もしかして、私の気持ち、知って
いるの……?」と、恥しくなってしまい
ます。










(著作権は、篠原元にあります)
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