追う者

篠原

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第六章  受難~母の死より15年前の記憶~

第六章 ⑤

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周りは、真っ暗です。
月の明かりも、星の明かりも何も見えない、
ただ暗い空を見つめていました。

でも、涙がとどめなく溢れて来て、
次第に涙で何も見えなくなりました。
何の音も聞こえません。
いえ、聞こえるのは、聞きたくもない、
あいつの激しい息遣いと、
獣のうめき声のようなもの。
そして、ここに書きたくない、
思い出したくもない、
あいつの酷い言葉の数々。
私は、両耳を両手で覆うとしました、
雪子叔母さん。
すると、あいつが私の顔を激しく、
2度ビンタしてきました。
「ふざけたことするな!
動かず、おとなしくしてろッ!!」と。


真っ暗で、月明かりもない夜でしたが、
空地の奥に一本だけポツンと立つ、
古い電灯が、私とあいつを、
薄らと照らしていました。


私は、その夜、犯されたのです。
散々、弄ばれたのです。
鬼畜なあいつは、私の純潔、私の誇り、
私の自尊心を壊し、奪い去りました。


あいつは、私を汚し、弄びつくして、
私の体から離れました。
どれだけの時間だったでしょうか。
その時間の長かったこと長かったこと。
おそらく、30分弱、私はあいつの、
性欲のために弄ばれて、あいつは、
私の身体を自由に使い、私の精神と
肉体を破壊し尽くしたのです!!

ただただ、「早く終われ!
早く終わってよ。早く部屋に戻って
シャワー浴びたい。いや、もう、
死んだ方がマシ!!」と、
考えるだけでした、私は!



悪魔のあいつは、私の体から離れ、
全裸で仁王立ちになり、私を上から、
見下ろしました。
そして、ここに書きたくもない、
だけれども私の耳からいまだ離れない、
卑猥な言葉を、犯されて仰向けで、
倒れたままの無気力な私に、
投げつけて来ました。

また、「お前は6人目の女だ!
処女は初めてだったけどな」と。
悔しかった、殺したいと思いました。
こんな悪魔のために、こんな時のために、
今まで純潔を守ってきたわけじゃないのに。


私はショックで叫びました、
雪子叔母さん。
ガバッと背を起こし、涙を流しながら、
気が狂ったように叫んでいました。
ウァァーって感じで。


でも、すぐに、あいつが私を、しかも、
私の顔面を思いっきり殴って来ました。
「黙れ!本当に殺されたいのかッ!」と、
言いながら!
私は、あっけなく、また地面に、
倒されました。

その後も、それまで男性を知らなかった
私は、急に男の玩具にされてしまった私は、
さらに無慈悲で醜悪な言葉を、
浴びされ続けることになるのです。
仰向けで、ただ胸と下半身を両手で
覆うのみの私に向けて、あいつは、
容赦なく、その口を開き続けました。

私は、必死に声を抑えました。
私は、あいつを見上げました。
憎しみと怒りの視線で!
私の体は、震えていました。
「死んでも許さない!
末代まで呪ってやる!
いつか、殺してやる!」と思いながら、
あいつを見上げました。
そうすることしか、
出来ませんでしたから。




そして、雪子伯母さん、極めつけです。
あいつは、脱ぎ捨てていたコートの
ポケットから使い捨てのカメラを、
取り出したのです。
そして、仰向けで倒れる全裸の私を、
撮るのです。
フラッシュの光がパッと輝く度に、
私の自尊心、私の将来は、さらに、
打ち砕かれました。
私は、必死に右腕と右手で顔と両胸を
隠し、左手で下半身を覆っていました。
でも、あいつは、
「隠すな!手をどけろ!!」と言うのです。

雪子伯母さん。
そう言われても、女性が手を動かせると
思いますか?隠すのをやめれますか?
私は、そのまま右腕も左手も、
動かしませんでした。
すると、あいつは、何かを取り出すような
動きをしました。
右腕で顔を覆っているので、
見えませんでしたが、聞こえてきたのです、
音が。
そして、あいつは、「こっちを見ろ!」と、
強く言いました。
私は、右腕を動かし、あいつの方を
見ました。
上半身裸のあいつの左手には、鋭利な
ナイフが握られていました!
私が声も出せずに、ナイフを見つめ、
固まるのを、あいつは満足気に、
見つめていました、あの悪魔は。

そして、言ったのです。
「本気だぞ。刺されたいか?
刺殺体になりたくなければ、
両手をどけて、両足は横に広げろ」と。



もう、私はどうしようも、
ありませんでした。
右腕も左手も動かし、あいつの、
言うとおりにする以外ありませんでした。
今まで清純を保ってきた自分の全裸が、
犯された直後で乱れに乱れているであろう
姿が、一番恥しい、哀れな自分の姿が、
まさに、男に撮られている間、私は、
何にもできませんでした。
その間のどうしようもできない、
屈辱と無念さ……!!
もう、ただ「死んでしまいたい」の心です。
絶望感だけです!
もう息をするのも、体を動かすのも、
嫌になった、面倒くさくなりました。
このまま、ここで死にたい……、
そんな感じです。



雪子伯母さん。
あいつは、私を玩具のように弄び尽くし、
私の写真を満足いくまで撮って、
どうしたと思いますか?
私のすぐ横に放ってあった私のバックに、
手を伸ばし、私の財布を取り出し、
現金をそっくり抜き出して、自分の
ポケットに入れたのです。
あまりにも慣れた手つきでした。

でも、私は「やめて!」と言う気力すら、
もうありませんでした。
もう何もかも現実味がありませんでした。
現実世界に絶望しきったと言うべき
でしょうか。
ただ、ボーっと見ていることしか、
できませんでした。
そんな私を見下ろして、あいつは、
「黙ってろよ。警察になんか行くなよ。
行ってみろ、お前の恥しい裸の写真が、
どうなるか分かるよな……」と、
捨て台詞を残し、風のように、
そこから立ち去りました。

あの悪魔は、かなりの長身で、
そして、銀髪でした。
また、左目に眼帯をしていました。

あいつが立ち去った後、
私は、そのまま仰向けに倒れたまま、
泣き続けました。
真っ暗な空を見上げながら、
もう、あいつがいなくなったので、
声を上げて泣きました。
警察に駆け込む気力も家に帰ろうと言う、
意欲もありませんでした。
もう、このまま死にたい……、ただただ、
そう思っていました。
舌を噛み切ろうとさえしました。
うまくいきませんでしたが。



雪子伯母さん。
「とにかく部屋に。シャワーを……」と、
フラフラと何とか立ち上がり、あいつに、
物色されたバックの中から時計を
取り出して、時間を見ると、
0時30分を過ぎていました。


そして、私は、下着やスカートや服を
着ようと手を伸ばしました。
その時、私は、自分の下半身から流れる
血と白い液体に気づきました。
その瞬間感じた無念さ、悔しさ、
怒り、悲しみ……。

そして、その血とかを見た時、
全身に痛みが走りました。
それまで、痛みの感覚が、
ショックのせいで、なくなっていたのです。
そう、痛みを感じていなかったのです。
でも、純潔が奪われた証拠の血や悪魔の種を
見た瞬間、あいつに殴られた顔の痛み、
鬼に乱暴に扱われた体の至る所の痛みが、
突然ガンガン響いてきました。



アパートの自分の部屋に辿り着いたのは、
深夜1時過ぎでした。
玄関の扉を強く閉めた私は、
目の前の鏡に映る自分の姿を見て、
固まりました。
髪はほどけてぼさぼさでした。
顔の右頬のあたりには、大きな痣が。
そして、乱れて破けた服装の自分。
現実が、重たい事実が、
私を襲ってきました!
「私は、手籠めにされたんだ。
もう、汚れた女なんだ!!」と。
あまりもの悲しみ、痛み、ショックで、
その場、玄関にしゃがみこんで、
泣きました。
将来の夢も結婚願望も、
粉々に砕けました!


その後、私は風呂場で、夜明けまで必死に、
体を洗い続けました。
それこそ、強くこすりすぎて、
血が出てくるほど、私は自分の体を、
洗いました。震えて、洗い続けました。

雪子伯母さん。
その次の日、いいえ、
その犯された日ですね。
その日から、私の人生は、底辺の最底辺です。
光も何もなく、暗闇の人生です。
私は、あの写真のこともあり、そして、
恥ずかしさゆえに、警察には、
結局行けませんでした。
そして、雪子伯母さんにも、
何も言えませんでした、当時は。
そして、今日にいたるまで。





それから、雪子伯母さん。
私は、ある日、気づいてしまったのです。
恐ろしい事実に思い当たりました。
女としてあるべきものが、ない。
「もしかして……?」と思いました。
が、絶対に認めたくは、
ありませんでした。
絶対に、そうであってほしく、
ありませんでした。


(著作権は、篠原元にあります)

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