上 下
53 / 53

53 伝説の国

しおりを挟む

 世継ぎが誕生したという知らせは都を駆け巡った。悪い宰相がいなくなり世の中が変わっていくと信じる人々は、この知らせを歓喜を持って受け取った。

 その十日後、ホアシャも無事出産した。銀色の髪の、可愛らしい女の子だった。ホアシャはたいそう喜び、ヒョウカと名付けた。

 そして……シャオリンはその二日後、女児を出産してひっそりと亡くなった。もともと身体も小さく弱く、ただでさえ妊娠に耐えられるかわからなかったのに、兄の事件以降まともに食事も取らず気力もなくす一方だったのだ。かなりの難産となり、結果として命を落としてしまった。

 タイランはシャオリンを丁重に弔った。そしてこの女児を誰に託すか思案していた時、三ノ宮妃シアユンが名乗りを上げた。

「だがシアユン。そなたとチンディエは後宮を出て新たな人生を歩むことになっていただろう」

 タイランはいたずらに後宮に妃を縛り付けることはやめようと考えていた。だからまだ懐妊していないチンディエとシアユンは、後宮を出て愛する人を探し結婚する道を勧め、二人ともそれを了承していたのだ。なのに、なぜ。

「私の実家はかなり裕福ですわ。生活に困ることはありませんのに誰かに嫁ぐのも面倒くさいですし、静かな後宮暮らしは気に入っていますの。ホアシャ様とのんびり、子育てするのも楽しいかと思いまして」

 そう言って女児を嬉しそうに抱いた。

「名前は、どうなさいますか? 私でよければつけてもよろしいでしょうか」
「なんという名前に?」
「ユーリン、と」

 タイランはシアユンに感謝した。シャオリンの名を一つ取って名付けてくれたことを。

「シアユン。ありがとう。ユーリンをよろしく頼む」
「はい、タイラン様。お任せくださいませ」


 
 半年が経ち、そろそろ暖かくなって移動も楽だろうと、スイランとフェイロン、リーシャは宮城へ移ることになった。

「正妃用の宮は少し広げたぞ。母の部屋とも行き来しやすいようにした。それから、四ノ宮の下女や女官も希望者は雇い入れた」
「まあ、タイラン! ありがとう! ビンスイさんやジンリー、メイユーはどうしました?」
「三人とも喜んで宮城に来たぞ。早くフェイロンが見たいそうだ」
「良かった。またみんなと楽しくお話しできそうだわ」

 ふえーん、とフェイロンがぐずる。

「あら、眠たくなっちゃったのかしら」
「貸してみろ。私が寝かしつけてやる」
「ふふ、できるかしら」

 タイランの大きな腕の中は居心地が良かったのか、フェイロンはしばらくぐずった後スヤスヤと寝始めた。

「ほら、上手だろう?」

 そう言って布団に寝かせようとすると、途端にわーん、と泣き始めた。

「ああ、もう一度か」

 慌てるタイランをスイランがクスクスと笑う。

「頑張ってください、お父様」

 幸せな、若い家族の姿がそこにあった。



 そしてスイランは正妃として宮城へ入り、その半年後に正式に婚姻の儀を交わした。
 国民は王の正妃が西国の容姿をしていることに驚き、しかも元アンダール王族の血を引く女性だと聞いて大いに喜んだ。反乱を起こしていた西の民も、自分たちの姫ともいえる娘が正妃になったことでようやく国の融合を認めるようになった。もちろん、タイランの優れた政治あってこそではあるが。

 スイランはその後二人の王子を産んだ。ホアシャとシアユンとも友情を築き、長い平和の世を幸せに生きていった。



 これは遠い遠い昔のこと。今はもう、伝説といわれる国の話である。


(完)
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

おゆう
2022.02.08 おゆう

スイランは男児ばっかりとは😂。ある意味、持ってるな(笑)。他の妃は全員女児か。シャオリン、亡くなったんだね・・・。シャオリンの死、ケイカは知らされるんだろうか・・・(´・ω・`)。

月(ユエ)/久瀬まりか
2022.02.08 月(ユエ)/久瀬まりか

おゆう様
いつも感想を下さり、本当にありがとうございました!
展開にウンウン悩んでいたもので、返信を書くことが出来ず申し訳ありません🙇‍♀️💦💦
ようやく完結できたので返信書きに参りました。
スイラン、男子ばかりとは確かに持ってますね笑 やんちゃな三兄弟とたくましいお母さんになってることでしょう。

ケイカ……ケイカもおそらく流刑地での辛い労働で亡くなってると思います。最初はいい奴だったんですがね、悪役になってしまいました、、、😥

おゆう様、最後までお付き合いいただきありがとうございました!!

解除
おゆう
2022.02.08 おゆう

スイラン、男児だと良いな。ケイカに目にもの見せてやりたいヽ(`Д´)ノプンプン。

解除
おゆう
2022.02.08 おゆう

ケイカは極刑で( ;゚皿゚)ノシ。

解除

あなたにおすすめの小説

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

「いいよな。女は着飾ってにこにこしてりゃそれでいいなんて、羨ましい限りだ」と、言われましたので・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
今日は、旦那様が数週間振りに帰って来る日。 旦那様に綺麗だって思ってもらいたいという女心で、久々に着飾って旦那様をお迎えしました。 今か今かと玄関先で旦那様を待って、帰って来た! と、満面の笑顔で。 「お帰りなさい、旦那様!」 そう言ったのですが・・・ 「はっ……いいよな。女は着飾ってにこにこしてりゃそれでいいなんて、羨ましい限りだ」  歪めた顔で、不機嫌な様子を隠すことなくわたしへ言いました。 なのでわたしは・・・ から始まる、奥さん達のオムニバス形式なお話。 1.「にこにこ着飾って、なにもしないでいられるくらいに稼いで来いやっ!!」と、ブチギレる。 2.「ごめんなさい……あなたがそんな風に思っていただなんて、知らなかったの……」と、謝る。 3.「では、旦那様の仰る通り。ただ着飾ってにこにこすることに致しましょう」と、にっこり微笑む。 4.「ありがとうございます旦那様! では早速男性の使用人を増やさなきゃ!」と、感謝して使用人の募集を掛ける。 5.「そう、ですか……わかりました! では、わたしもお国のために役立てるような立派な女になります!」と、修行の旅へ。 1話ごとの長さはまちまち。 設定はふわっと。好きなように読んでください。

【完結】目覚めたら、疎まれ第三夫人として初夜を拒否されていました

ユユ
恋愛
気が付いたら 大富豪の第三夫人になっていました。 通り魔に刺されたはずの私は お貴族様の世界へ飛ばされていました。 しかも初夜!? “お前のようなアバズレが シュヴァルに嫁げたことに感謝しろよ! カレン・ベネット!” どうやらアバズレカレンの体に入ったらしい。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

俺はゲームのモブなはずだが?

レラン
BL
 前世で、妹に無理やりプレーさせられたBLゲームに、モブとして転生してしまった男。  《海藤 魔羅》(かいとう まら)  モブだから、ゲームに干渉するつもりがなかったのに、まさかの従兄弟がゲームの主人公!?  ふざけんな!!俺はBLには興味が無いんだよ!!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。