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43 庵にて

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(※この話から、リンファをスイランと表記することにいたします。ご了承ください※)




 趣味の良い絵が飾られ落ち着いた雰囲気の部屋にチュンレイたちは通された。そこにはもう一人、とても美しい女性がいた。歳は母と同じくらいだろうか、とチュンレイは考えていた。
 一人掛けの椅子に老婦人と女性がそれぞれ座り、チュンレイとジーマは長椅子を勧められ、スイランと共に座った。

「私はジンファン。この修道院を先王から任されている者じゃ。これはリーシャ。先王の正妃であり、現王の母である」

 つまり、この美しい女性は皇太后ということだ。だが流刑地に送られたのでは?

「宰相は罪を捏造して処分を下したがな、タイランが密かに匿うように私に頼んできたのじゃ。あんな所に送られたら命はない。母を死なせたくはなかったのじゃろう」

 そしてジンファンはまだ泣きながらチュンレイの腕にしがみついているスイランを見た。

「この娘、スイランも宰相に謀られてここに来たようじゃが、タイランからよくよく頼まれている。辛い思いをせぬようにと」
「ありがとうございます、ジンファン様。妹が顔色も良く、元気そうにしているのを見てホッといたしました。あなた様が世話をしてくださっているのですね」
「私は別に何も。スイランはよく働くし気立のいい娘じゃ」
「……ありがとうございます、ジンファン様」

 スイランが泣きはらした目のまま、はにかんで微笑む。

「では青年よ。チュンレイと言ったか。そなたはタイランに殺されたと聞いておったが、生きていたのか」
「はい。肩から胸にかけて大きな傷を負いましたが、こちらのジーマと、ライードという医師に助けられて一命を取り留めました。それから毎年、この都を訪れては妹を探していました。しかし六年間ずっと見つけられずようやく今日、情報を得てここに来たのです」
「男子禁制だというに、よく入ってこられたのう。兵士に見つかれば即斬られておるぞ」
「はい、危険は承知でしたが、いてもたってもいられなくて。こうして会えたのがまだ夢のようです」

「……チュンレイ、母さまが……母さまが亡くなっていたの」

 スイランは涙を流しながらチュンレイを見上げる。

「母さまは一人で亡くなってしまったんでしょう?」
「いいや、スイラン。俺も母さんが息を引き取る時に側にはいられなかったけれど、ライードがいてくれた。ライードは母さんの昔の知り合いだったんだ。母さんは最後に俺たちのことを頼むって言っていたそうだ。その後、怪我をして動けなかった俺のところに母さんを連れて来てくれて……お別れを言うことができたよ。お墓も作ってある。これから、二人で会いに行こう」

 スイランは泣きながら頷き、チュンレイの胸に顔を埋めた。昔と変わらない、優しい兄の胸に。

「そうだったの……ありがとう、チュンレイ。あなたが生きていてくれて本当に良かった……ジーマさん、チュンレイの命を救ってくれてありがとう……」

 そっとジーマに向けて手を伸ばすスイラン。ジーマはその手をギュッと握り返し、笑顔を見せた。

「息を吹き返したのはチュンレイ自身が頑張ったからだよ。私は何もしていない。……まあ、ライードはちょっと頑張ったかもしれないけど」

 何言ってんだ、お前が見つけてくれたからだよ、とチュンレイはジーマに微笑んだ。それを見たスイランは二人の間に強い絆があると感じた。

「ではスイラン。あれから何があったか、俺に教えてくれないか」
「ええ、チュンレイ。私は、あなたが斬られた時からスイランとしての記憶がなくなってしまったの。目が覚めたらガクとフォンファがいて、今日からお前はリンファだよって言われて。それからはお店や家事の手伝い、子供の世話などしながら育ててもらったわ。いつか後宮で働けるようにと読み書きや踊りも教えてくれたの」

 ガクがすまなさそうな顔をしていたのはそういうことか、とチュンレイは思った。支度金目当てに育てていたんだろうから。だがそれでも、森で拾ってくれて生活させてくれたことは感謝に値する。

「そして王に愛され、幸せに暮らしていた。でもある日思い出してしまったの……あなたを殺したのが王だったことを」

 スイランはハラハラと涙を流す。

「記憶を取り戻すまで、私は王の味方だった。でも思い出した途端に王は私の仇となってしまった。愛しているのに許せない、その狭間で苦しんでいたの」


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