上 下
27 / 53

27 血塗られた新年行事

しおりを挟む

 新年の夜が明けた。朝日と共に貴族や官吏たちが王への挨拶のために宮城に集まってくる。広い広い謁見の間に、たくさんの人が所狭しと並んで王を待っていた。

 やがて鈴の音と共に王が現れた。そして人々よりも二段高い場所にしつらえた立派な王の椅子に座る。その隣りにはそれより少し小降りな、正妃用の椅子があった。もちろん、まだそこは空席である。

 王の横、一段低い場所には宰相ケイカ。正妃用椅子の横にはホアシャが座り、チンディエ、シアユン、シャオリン、そしてリンファが続く。
 リンファからはタイランが少し遠い。こうして離れて見ると、部屋でのいつもの彼とは雰囲気がまた違って、堂々とした佇まいに王らしい威厳が感じられる。

「皆のもの、よく集まってくれた。本年もみな息災で、国のためにしかと働いてくれ」

 ははっ、と臣下たちが一斉に頭を下げる。その光景は壮観だった。

 次に龍の大きな人形を持った者たちが現れ、楽団と共に新年を祝う舞を披露する。龍の頭を一人が持ち、棒を付けた長い龍の体を十人ほどで持って支えている。波打つように動かすさまは、まるで本当に龍が生きているかのようだった。

(まあ、すごいわ……。町でも新年のお祝いで龍の舞を見たことがあるけれど、もっと小さかったわね。手作り感満載で、近所のおじさんが中に入っているのが見えたりして)

 リンファは目を輝かせて舞を見ていた。

 その時、龍の中から一人の男が飛び出して来た。

「おのれケイカ! コウカク様の恨み、思い知るがいい!」

 そう言ってタイランの横にいるケイカに斬りかかった。

「危ない……!」

 妃たちの悲鳴が上がる。ケイカの腕を剣がかすめ、左腕を押さえてケイカがうずくまる。タイランはケイカを庇おうと立ちはだかった。

「王よ、おどき下さい! この国のためにこの男は成敗しなくてはならないのです!」

 そう叫びもう一度ケイカに剣を振り下ろそうとしたその男を、護衛兵士が背中から斬り裂いた。

「ぐわあっ……!」

 血を噴き上げ、男は倒れた。苦しそうにうめいている男の顔を見たケイカは、舌打ちをして苦い顔をする。

「この男はコウカクの下で甘い汁を吸っていた奴です。コウカクの失脚以来、落ちぶれたと聞いていましたが……逆恨みをしたのでしょう」

 男の血はケイカやタイランにも飛び散っていた。

「せっかくの新年の祝いに水をさされたな。妃たちも驚いただろう」

 四人の妃は少し青ざめてはいたが平静な顔を装っていた。宮城では、昔からこういうことはよくあるのだ。正妃になるには、この程度のことでうろたえていては駄目なのであろう。

 その中でリンファの様子は違った。まるで心がここにないかのようにうつろな目をして男を見つめていたのだ。

(タイランに血がついている……銀色の髪……血が飛び散って……美しい黒い瞳の、あれは誰?……森?……森の中?……あれは誰なの?……私の愛しい人を殺したあの人は……)

 リンファは息をのんだ。頭の中に浮かんだ映像が一気に繋がり、すべてを思い出したのだ。

「ああっ……!」

 突然、両手で口を押さえて叫び声を上げたリンファ。タイランが驚いて駆け寄ってくる。

「リンファ! どうしたのだ」

 近づいてきたタイランが、あの時の少年と重なった。美しい顔をして兄を斬った少年。

「来ないで! 私に近付かないで……ああ、チュンレイ!!」

 リンファは目を閉じ両手で髪をかきむしりながら叫ぶと、気を失った。

「リンファ!」

 床に倒れる寸前にタイランがその身体を受け止める。リンファの顔は真っ青で、苦悶の表情を浮かべていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

処理中です...