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20 贈り物

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 その日の夕刻、リンファのもとに宮城から花が届けられた。今夜の王の来訪を告げる花である。

「リンファ様、花だけでなく贈り物がこんなに……!」

 ビンスイが大量に運ばれた荷を見せてくれた。美しい布やきらびやかな宝飾品、部屋に飾る置物や絵画、酒や各地の珍しい菓子。新しい布団や仕立て上がりの襦裙や夜着もたくさん届けられた。

「これだけあれば、新たに購入する必要はありませんね!」

 ビンスイは顔を輝かせて喜んでいる。

「こんなにしていただいても私には何もお返しできないのに。どうすればいいのでしょう、ビンスイさん」
「リンファ様。私の考えですけれど、リンファ様はタイラン様がこのお部屋で心地良く過ごせるようにして差し上げたら、それでいいのだと思います。そんな気がします」

 ビンスイの素直な言葉はリンファの心に響いた。

「そうですね。来ていただける嬉しさと贈り物への感謝をちゃんとお伝えすることにします」



 やがて鈴の音が鳴り、タイランがやって来た。今日のリンファは先程タイランが贈ってくれた水色の夜着を着ている。茶色い髪は元からのウェーブを活かしてふわふわと下ろしてあり、翠色の小さな耳飾りをつけていた。

「ようこそおいでくださいました、タイラン様」

 深く拝礼するリンファ。タイランは微笑んでリンファを立たせると髪にふわりと手を入れ、耳につけた飾りを見つめた。

「そなたの瞳と同じ翠の石を取り寄せたのだ。夜着も似合っている。昨日の夜着は丈も色もリンファには合っていなかったからな。これからも必要なものは私が贈るから、何でも言ってくれ」
「ありがとうございます、タイラン様」
「様、はいらぬぞ」
「……はい、……タイラン」

 王を呼び捨てにするなんてなんて畏れ多いことか。でも、それが王の望みなのだから。

「タイラン、本当にたくさんの贈り物をありがとうございました。私にはあれだけのもの、とても揃えることはできません」
「喜んでくれて良かった。リンファに肩身の狭い思いはさせたくないのだ。ところでリンファ、身体はどうだ? もう痛みはないか?」
「はい……いえ、本当を言うとまだ少し痛みます」

 そう言いつつ照れたように可愛らしく笑顔を見せるリンファを愛しく思い、タイランはそっと髪を撫でた。

「今日は無理をさせるつもりはない。もっとリンファのことが知りたいから、いろいろと話をしよう。酒は飲めるか?」
「まだ、飲んだことがありません」
「では少しずつだな」

 二人は食卓に並べられた料理と酒を食べながら話し始めた。

「リンファの書類を見た。商人の出なのだな」
「はい。ガクの店、という何でも取り扱う便利屋のようなお店に住んでおりました。私は拾われた子なので血の繋がりはないのですけど……」
「そうなのか? リンファの本当の親は?」
「わかりません。何も覚えていないのです」

 森で倒れていたところを拾われた、というのは言わなかった。もしかしたら親は悪いことをして殺されたのかもしれないとリンファはずっと思っていたのだ。もしも親が悪人だったらタイランには知られたくない。そう考えた。

「そうか。親の思い出が何もないというのも辛いものだな。拾ってくれたガクというのは優しくしてくれたか?」
「はい。身寄りのない私をちゃんと食べさせて、ここまで育ててくれました。店の手伝いを通して読み書きもできるようになりましたし、本当に感謝しています」
「では妃の実家としてふさわしいよう、いくらかの援助をしておこう。あまりにあばらやに住まれていたのではみっともないからな」
「……ありがとうございます! どんなにか喜ぶことでしょう!」

 ガクたちに恩返しができることをリンファは素直に喜んだ。

「私は、そなたの喜ぶ顔が見られればそれで満足なのだ」

 タイランはリンファの瞳の輝きを満足げに見つめた。

 





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