上 下
20 / 53

20 贈り物

しおりを挟む

 その日の夕刻、リンファのもとに宮城から花が届けられた。今夜の王の来訪を告げる花である。

「リンファ様、花だけでなく贈り物がこんなに……!」

 ビンスイが大量に運ばれた荷を見せてくれた。美しい布やきらびやかな宝飾品、部屋に飾る置物や絵画、酒や各地の珍しい菓子。新しい布団や仕立て上がりの襦裙や夜着もたくさん届けられた。

「これだけあれば、新たに購入する必要はありませんね!」

 ビンスイは顔を輝かせて喜んでいる。

「こんなにしていただいても私には何もお返しできないのに。どうすればいいのでしょう、ビンスイさん」
「リンファ様。私の考えですけれど、リンファ様はタイラン様がこのお部屋で心地良く過ごせるようにして差し上げたら、それでいいのだと思います。そんな気がします」

 ビンスイの素直な言葉はリンファの心に響いた。

「そうですね。来ていただける嬉しさと贈り物への感謝をちゃんとお伝えすることにします」



 やがて鈴の音が鳴り、タイランがやって来た。今日のリンファは先程タイランが贈ってくれた水色の夜着を着ている。茶色い髪は元からのウェーブを活かしてふわふわと下ろしてあり、翠色の小さな耳飾りをつけていた。

「ようこそおいでくださいました、タイラン様」

 深く拝礼するリンファ。タイランは微笑んでリンファを立たせると髪にふわりと手を入れ、耳につけた飾りを見つめた。

「そなたの瞳と同じ翠の石を取り寄せたのだ。夜着も似合っている。昨日の夜着は丈も色もリンファには合っていなかったからな。これからも必要なものは私が贈るから、何でも言ってくれ」
「ありがとうございます、タイラン様」
「様、はいらぬぞ」
「……はい、……タイラン」

 王を呼び捨てにするなんてなんて畏れ多いことか。でも、それが王の望みなのだから。

「タイラン、本当にたくさんの贈り物をありがとうございました。私にはあれだけのもの、とても揃えることはできません」
「喜んでくれて良かった。リンファに肩身の狭い思いはさせたくないのだ。ところでリンファ、身体はどうだ? もう痛みはないか?」
「はい……いえ、本当を言うとまだ少し痛みます」

 そう言いつつ照れたように可愛らしく笑顔を見せるリンファを愛しく思い、タイランはそっと髪を撫でた。

「今日は無理をさせるつもりはない。もっとリンファのことが知りたいから、いろいろと話をしよう。酒は飲めるか?」
「まだ、飲んだことがありません」
「では少しずつだな」

 二人は食卓に並べられた料理と酒を食べながら話し始めた。

「リンファの書類を見た。商人の出なのだな」
「はい。ガクの店、という何でも取り扱う便利屋のようなお店に住んでおりました。私は拾われた子なので血の繋がりはないのですけど……」
「そうなのか? リンファの本当の親は?」
「わかりません。何も覚えていないのです」

 森で倒れていたところを拾われた、というのは言わなかった。もしかしたら親は悪いことをして殺されたのかもしれないとリンファはずっと思っていたのだ。もしも親が悪人だったらタイランには知られたくない。そう考えた。

「そうか。親の思い出が何もないというのも辛いものだな。拾ってくれたガクというのは優しくしてくれたか?」
「はい。身寄りのない私をちゃんと食べさせて、ここまで育ててくれました。店の手伝いを通して読み書きもできるようになりましたし、本当に感謝しています」
「では妃の実家としてふさわしいよう、いくらかの援助をしておこう。あまりにあばらやに住まれていたのではみっともないからな」
「……ありがとうございます! どんなにか喜ぶことでしょう!」

 ガクたちに恩返しができることをリンファは素直に喜んだ。

「私は、そなたの喜ぶ顔が見られればそれで満足なのだ」

 タイランはリンファの瞳の輝きを満足げに見つめた。

 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そういうとこだぞ

あとさん♪
恋愛
「そういえば、なぜオフィーリアが出迎えない? オフィーリアはどうした?」  ウィリアムが宮廷で宰相たちと激論を交わし、心身ともに疲れ果ててシャーウッド公爵家に帰ったとき。  いつもなら出迎えるはずの妻がいない。 「公爵閣下。奥さまはご不在です。ここ一週間ほど」 「――は?」  ウィリアムは元老院議員だ。彼が王宮で忙しく働いている間、公爵家を守るのは公爵夫人たるオフィーリアの役目である。主人のウィリアムに断りもなく出かけるとはいかがなものか。それも、息子を連れてなど……。 これは、どこにでもいる普通の貴族夫婦のお話。 彼らの選んだ未来。 ※設定はゆるんゆるん。 ※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。 ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子
恋愛
ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢には婚約者がいる。 王命での婚約。 クルト・メイナード公爵子息が。 最近、寄子貴族の男爵令嬢と懇意な様子。 一時の事として放っておくか、それとも・・・。悩ましいところ。 それというのも第一王女が婚礼式の当日に駆け落ちしていたため王侯貴族はピリピリしていたのだ。 なにしろ、王女は複数の男性と駆け落ちして王家の信頼は地の底状態。 これは自分にも当てはまる? 王女の結婚相手は「婚約破棄すれば?」と発破をかけてくるし。 そもそも、王女の結婚も王命だったのでは? それも王女が一目惚れしたというバカな理由で。 水面下で動く貴族達。 王家の影も動いているし・・・。 さてどうするべきか。 悩ましい伯爵令嬢は慎重に動く。

【完結】本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

処理中です...