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17 嫉妬

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 リンファはシャオリンの部屋に通された。こんなに広く美しい部屋に入ったのは初めてだった。
 異国情緒あふれる美術品が飾られ、大きな食卓、ゆったりした椅子。これらに囲まれたリンファは夢の中にいる心地だった。

「座りなさい、リンファ」

 シャオリンにそう言われたが、こんな素晴らしい椅子に下女の自分が腰掛けるわけにはいかない。

「いえ、わたくしはこちらで」

 リンファはシャオリンが座る椅子の側にひざまづいた。シャオリンはそれ以上何も言わず、話し始めた。

「お前は王と知り合いだったのですか」
「は、はい……いえ、知り合いなどというものではありません。後宮に入る前日に、とある森で出会いました。その時は名前も知らず、どこの誰かもわからぬまま別れていたのです」
「もう王に抱かれているのですか?」

 リンファは慌てて顔を上げ、首を横に振った。

「いえ、とんでもございません! その時は少しだけ会話をして……私は後宮に入るのだから男性と接触をしてはならないことを思い出し、すぐにその場を離れました」

(では、そのほんの少しの間に、王はリンファを見初めたのか。私とそうは変わらぬ年頃の娘を)

 シャオリンの胸に苦い感情が湧いた。シャオリンは初めてのこの感情をなんと呼べばいいのかわからず、とりあえず胸の奥底にしまい込んだ。

「そう。……では、王に会うために後宮に入ってきたのではないのですね」
「はい、シャオリン様。私はあの方と二度と会うことはないだろうと思っておりました。ですから後宮での仕事に打ち込む決意を持ってここに来たのです」
「王に会うためにこのシャオリンを利用したのではないと心から言えますか」

 リンファは青ざめた。王に近づく目的で後宮に入り、そ知らぬ顔でシャオリンに仕えていたのではないかと疑われているのだ。

「違います、シャオリン様! わたくしは、決してそのような下心は持っておりません! どうか、信じてくださいませ」

 リンファは深く頭を下げ許しを請うた。もしやこのまま処罰されてしまうのではないだろうか。そうなると、ガクやフォンファ、子供たちはどうなってしまうのか……。

 その時、チンリンが部屋に入ってきた。

「失礼いたします。シャオリン様、リンファの部屋の用意ができました」

 頭を下げたままのリンファにはシャオリンの顔が見えなかったが、シャオリンは唇だけを動かして固い笑みを作ると、顔を上げなさい、とリンファに言った。

「女官に手伝わせるから、湯を使い王のための装いをなさい。夜着は私のものだから少し丈が短いでしょうが、今日は仕方がありません。部屋については王をお迎えするのですから、恥ずかしい準備は出来ません。チンリン、わかっていますね」
「はい、シャオリン様。王が一晩心地良く過ごせるよう、整えてございます」
「ではチンリン。リンファを磨いてきなさい。王のお相手としてふさわしくなるように」

 そしてシャオリンはリンファに言った。

「よいですか。あなたが王のご気分を損ねれば四ノ宮全体の責任になるのです。王の仰せのままに、精一杯歓待するように。わかりましたね」
「はい、シャオリン様。深く心に刻んでおきます」

 タイラン王――あの方――との再会が、このようなことになるとはまったく想像していなかった。リンファは事の重大さに愕然として身体が震えた。

 それからリンファは湯殿で女官たちに磨かれ、薄く化粧を施された。その間、女官たちは一言も話しかけることはなかった。
 リンファは、自分への反感がその無言の中に込められているのをひしひしと感じていた。
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