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金沢旅行

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 最近、悠李はまた少し仕事に余裕のある時期に入った。残業も出張も少なくなり、一緒にいられる時間が多くなっている。

「旅行とかは、こういう時期に行くんだよ」
「そうなんだ。今まで、どんなところに行ったの?」
「……俺は、どこにも行ってないけどね。同僚がさ、そう言ってただけ」

 ベッドの中で私を後ろから抱きしめたままの悠李が拗ねたように言う。

「ほんとに勉強ばかりの人生だったから、何の経験もしてなくて。このまま何も知らずに死ぬのかと、夜一人で怯えたこともあったよ」
「ふふっ、大袈裟ね。じゃあ悠李、これからいっぱい二人で遊びましょ」
「もちろんだよ。俺、月葉とやりたいことめっちゃある。で、まずは旅行、行こう」

 旅行と聞いて私はくるりと体の向きを変え、悠李の顔を覗き込んだ。

「ほんと? いつ?」
「今週末。月葉、予定何もないって言ってただろ? だから俺もう、予約しちゃった」
「えー、どこどこ? どこに行くの」

 悠李はちょっと得意そうな顔で言う。

「金沢」

 金沢! 以前私が行ってみたいって話したことを覚えててくれたんだ。

「嬉しい! ありがとう、悠李!」

 私は悠李の首に腕を絡め頬擦りする。

「俺も嬉しいよ……月葉がまた裸で抱きついてきてくれるから」

 さっきエッチしたところなんだけど、悠李はもう元気になっているのがわかる。それが愛しくて、そっと手で撫でてみた。

「……っ……月葉に触れられたら、すぐに出てしまいそうだよ」
「だめよ……もっと気持ちよくしてあげるから、我慢してね……」

 私は毛布の中に深く潜り込み、悠李の身体に唇を滑らせていく。
 自分だけじゃなくて悠李も喜ばせたい。そんな気持ちが私に芽生える日が来るなんて。

(好きよ、悠李……あなたの全部が愛しい)



 そして土曜日。北陸新幹線に乗って2時間半、私たちは金沢駅に到着した。

「わー! これ、よく見るよね! 鼓門! 素敵……」

 金沢駅のシンボル、鼓門。想像していたより大きくて重厚だ。駅を出て鼓門に向かう『もてなしドーム』の天井はガラス張りで、雨傘を差し出すイメージなんだそう。雨の多い金沢でも濡れないようにというおもてなしの心なのかな。

「月葉、写真撮ろう」

 他の観光客にお願いして、鼓門をバックに二人の写真を撮る。

「月葉、いい笑顔してる。可愛い」
「ありがと。悠李もかっこいいよ」
「え、ほんと? うれし……」

 また、痛いカップルになってる私たちだけど、せっかくの旅行だもの、思い切り楽しまなきゃ。

 まずはバスに乗って5分ほどにある近江町市場へ。市場ってとにかく歩くだけでもワクワクする。串焼きに蒲鉾、甘エビコロッケにアワビステーキ。食べ歩きにもめちゃくちゃ惹かれるけれど、まずはランチだ。狙うはもちろん海鮮丼! 今なら開店直後だからすぐに入れるかも……と思ったら、どのお店もすでに行列が!

「わぁ……すごいね」
「予約できないから混むのは仕方ないね。とにかく並ぼう」

 事前に調べておいた店の前に向かい、列の後ろに並んだ。しばらく待ってようやくご対面した海鮮丼は、ネタも新鮮で大きくて、とっても美味しかった!

 満足してお店を出た後はゆっくり歩いてひがし茶屋街へ向かった。石畳と町屋の格子が美しい、金沢といえば必ず紹介される有名な街並だ。

「でさ、月葉……お願いがあるんだけど」

 おずおずと切り出す悠李。不思議に思って聞き返す。

「お願い? なぁに?」
「レンタル着物、着てくれないかなぁ……? 着物姿、茶屋街にめっちゃ映えると思うから」
「え……いいの? 一度着てみたかったの!」
「良かった、予約してあるから今から行こう」

(え、予約してくれてるんだ。さすが……私が着たいと思ってたの、読まれてたのかな?)

 ちょうど予約の時間になったのでレンタル着物屋に入り、二人とも着付、私はヘアセットもしてもらった。悠李は紺色の着物、私はクラシックな柄だけど明るめの色で。年齢にちょうど合う、いい感じに仕上がった。

「月葉似合うよ……やっぱり着てもらってよかった」

 店員さんが呆れてるんじゃないかと思うくらい悠李は褒めてくれるので、恥ずかしい。けど、嬉しい。

 二人で並んで茶屋街を歩き、金箔を使ったお土産を選んだり町屋カフェでお茶したり。たっぷり着物デートを楽しんだ。

「宿泊は香林坊のホテル取ってあるから。ホテルで一休みしたら、夜は金沢おでん、食べに行こう」

 悠李の考えたデートが私にとって完璧すぎて驚いてしまう。実は私は予定を詰め込み過ぎるとそれだけで気持ちが疲れてしまうところがある。だけど悠李は余裕のある日程にしてくれるから、全然疲れないのだ。

 着物の返却時間が近づいてきた。レンタル屋さんに向かって歩く途中で私は立ち止まり悠李を見上げた。

「悠李、ありがとう。金沢、すごく気に入ったわ」
「月葉が楽しんでくれたら俺も嬉しい。月葉の可愛い写真もたくさん撮れたし」

 悠李も優しい目をして微笑んでくれる。

「悠李といると何をしてても楽しいの。どんどん好きな気持ちが増えていくみたい」
「俺もだよ……ねえ月葉」
「なあに? 悠李」
「こんな言葉を見かけたんだ。『結婚は一生遊べる友人を探すこと』って。俺さ、月葉のことを大切な恋人だと思うしそれは一生変わらない。でもそれと同時に、何をしても楽しい親友のような気持ちにもなっているんだ。ずっと一緒にいても疲れなくて笑っていられる。これって、すごく奇跡のような気がするんだ」

(そうね……そんな人に出会えることって確かに奇跡かもしれない。私はその奇跡に出会えた。なんて幸せなんだろう)
 
 
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