24 / 36
とりあえず、共同生活
しおりを挟む
突然の展開に頭が追いつかなかったけれど、あの後着替えやメイク道具、パソコンその他必要なものをスーツケースや段ボールに詰め込んで、また悠李の部屋に戻ってきた。
「月葉、ここならお母さんに知られてないから安心して暮らせるよ」
「うん……悠李、最初からそのつもりだったの?」
「まあね。お父さんに反対されたらやめるつもりだったけど、むしろ賛成して勧めてくれたから良かった!」
私が荷物を準備している間に父は母に電話をかけていた。
今後月葉に金をせびるな、と強く言ったところ、母からは自分がどれだけ金銭面で苦労しているか、それは全て一方的に離婚した父のせいだと非難の嵐だったという。
だが父も強くなった。昔の父は母に歯向かうことができなかったけれど、モラハラの呪縛から逃れた今はきちんと反論して電話を切った。もちろん会話内容は録音済みだ。
「もうこれで私のところには電話してこないだろう。だからこそ、月葉にまた会おうとするはずだ。悠李くん、すまないが月葉のことを頼むよ」
「はい。大丈夫です、必ず僕が守ります」
そして私は父と祖母に見送られ、悠李の車に乗ったのだ。
「こうなるとこの部屋じゃ狭いなぁ。クローゼットも二人分には足りないし。2LDKの部屋を探さないとな」
「悠李、私はここで十分よ。服だってそんなにないし」
「だってさ、俺これから月葉にいろんな服プレゼントしたいんだ……ずっと金の使い道なくて困ってたからさ、もう今後は月葉に全給料貢ぐつもりなんだよ」
「ぜ、全給料……?」
どこまで本気かわからないけど、今すぐ部屋探しを始めようとする悠李を落ち着かせてしばらくはここでいいんだと説得した。
「だってここは悠李と初めて結ばれた場所だよ? 大事な記念の部屋だもの、もっとここにいたい」
そう言うとへにゃっとした顔になって絆された様子。まったくもう、可愛いんだから。
「それもそっか。じゃあ少しでも月葉が快適に過ごせるように、どんどん模様替えしていいからね。俺は今週も忙しいから平日は手伝えないけど、大きな家具の移動は土日にやるから」
「うん。その時はお願いね」
そして私たちの共同生活が始まった。いずれもう少し広い場所に引っ越して同棲することになるだろうけど、まずはお試しの期間。ずっと一緒となるとホントの素をさらけ出すことになる……幻滅されたりしないかちょっと不安。
それにしても平日の悠李の朝は早い。ランニングに行ってシャワーを浴び、新聞をチェックする。一人の時はコーヒーしか飲んでなかったらしいけど、一緒に住み始めてからは朝食をきちんと作ってくれる。
私が作ろうとすると「月葉はいいから! 朝はメイクとかで忙しいだろ? 今月は俺忙しくて夜一緒にご飯食べられないから、朝だけは俺の作ったのを食べて欲しい」と言われるので、もう全面的にお任せしている。和食、洋食、中華粥とバラエティも豊富でどれも美味しい。
後片付けは食洗機に任せて私たちは一緒に家を出る。改札で手を振ってそれぞれの電車に乗り職場へ向かう。
(なんだかめっちゃ幸せだな……悠李ってヤンデレというよりスパダリなのかも)
呑気にそんな風に過ごしていた私だけど、木曜日の夜、父からかかってきた電話で現実に引き戻された。
「陽子が家に来ていたんだよ」
「え……お父さん、話をしたの?」
「いや、中に入っては来なかった。悠李くんが設置してくれた防犯カメラの映像を毎晩チェックしているんだけど、昨日の7時頃に門の前でうろうろしているのが映っていた」
「その時間って、もしかして……」
「いつもなら月葉が帰ってくる時間だ」
(嘘……本当にそんなこと)
「月葉」
父が少し強い口調で言う。
「母さんが本当に困っているならお金を渡さなきゃ、なんて絶対に思っちゃいけないよ」
まるで心を読まれたような父の言葉に頷く私。
「困っていたとしてもそれは母さんが自分で何とかするべきことだ。ちゃんとパートもしているし陽菜も一緒に暮らしてるんだから、月葉が背負う必要はない」
「うん。わかった。ありがとう、知らせてくれて」
電話を切ったあとため息が出た。母はどうしてそんなにお金を欲しがっているんだろう。でも、お父さんの言う通り、それは私が考えることじゃない。
夜遅く帰ってきた悠李にこのことを話すと同じ意見だった。
「やっぱり防犯カメラ付けておいてよかったよ」
「うん、ていうか悠李いつの間にそんなことしてくれてたの……?」
「月曜日に業者に電話して、お父さんが家にいる時間に手配したんだ。絶対来るだろうと思ってたし」
そして悠李は私の両肩に手を置いて、しっかり目を見て言った。
「月葉、もしかしたらお母さんは会社に来るかもしれない。その時は、わかってるね」
「ええ。きっぱり断る。二人だけで会わない」
「そう。ちゃんと、けりをつけなきゃダメだよ。気持ちを強く持つこと。いいね」
悠李は私をぎゅっと胸の中に抱きしめた。
「ああ、ホントはもう家の中に閉じ込めて隠しておきたいんだけど。そんな訳にもいかないからなぁ」
「そうね。ずっと隠れて守られていたんじゃ、ダメだから。私自身で母から卒業するわ」
「月葉、ここならお母さんに知られてないから安心して暮らせるよ」
「うん……悠李、最初からそのつもりだったの?」
「まあね。お父さんに反対されたらやめるつもりだったけど、むしろ賛成して勧めてくれたから良かった!」
私が荷物を準備している間に父は母に電話をかけていた。
今後月葉に金をせびるな、と強く言ったところ、母からは自分がどれだけ金銭面で苦労しているか、それは全て一方的に離婚した父のせいだと非難の嵐だったという。
だが父も強くなった。昔の父は母に歯向かうことができなかったけれど、モラハラの呪縛から逃れた今はきちんと反論して電話を切った。もちろん会話内容は録音済みだ。
「もうこれで私のところには電話してこないだろう。だからこそ、月葉にまた会おうとするはずだ。悠李くん、すまないが月葉のことを頼むよ」
「はい。大丈夫です、必ず僕が守ります」
そして私は父と祖母に見送られ、悠李の車に乗ったのだ。
「こうなるとこの部屋じゃ狭いなぁ。クローゼットも二人分には足りないし。2LDKの部屋を探さないとな」
「悠李、私はここで十分よ。服だってそんなにないし」
「だってさ、俺これから月葉にいろんな服プレゼントしたいんだ……ずっと金の使い道なくて困ってたからさ、もう今後は月葉に全給料貢ぐつもりなんだよ」
「ぜ、全給料……?」
どこまで本気かわからないけど、今すぐ部屋探しを始めようとする悠李を落ち着かせてしばらくはここでいいんだと説得した。
「だってここは悠李と初めて結ばれた場所だよ? 大事な記念の部屋だもの、もっとここにいたい」
そう言うとへにゃっとした顔になって絆された様子。まったくもう、可愛いんだから。
「それもそっか。じゃあ少しでも月葉が快適に過ごせるように、どんどん模様替えしていいからね。俺は今週も忙しいから平日は手伝えないけど、大きな家具の移動は土日にやるから」
「うん。その時はお願いね」
そして私たちの共同生活が始まった。いずれもう少し広い場所に引っ越して同棲することになるだろうけど、まずはお試しの期間。ずっと一緒となるとホントの素をさらけ出すことになる……幻滅されたりしないかちょっと不安。
それにしても平日の悠李の朝は早い。ランニングに行ってシャワーを浴び、新聞をチェックする。一人の時はコーヒーしか飲んでなかったらしいけど、一緒に住み始めてからは朝食をきちんと作ってくれる。
私が作ろうとすると「月葉はいいから! 朝はメイクとかで忙しいだろ? 今月は俺忙しくて夜一緒にご飯食べられないから、朝だけは俺の作ったのを食べて欲しい」と言われるので、もう全面的にお任せしている。和食、洋食、中華粥とバラエティも豊富でどれも美味しい。
後片付けは食洗機に任せて私たちは一緒に家を出る。改札で手を振ってそれぞれの電車に乗り職場へ向かう。
(なんだかめっちゃ幸せだな……悠李ってヤンデレというよりスパダリなのかも)
呑気にそんな風に過ごしていた私だけど、木曜日の夜、父からかかってきた電話で現実に引き戻された。
「陽子が家に来ていたんだよ」
「え……お父さん、話をしたの?」
「いや、中に入っては来なかった。悠李くんが設置してくれた防犯カメラの映像を毎晩チェックしているんだけど、昨日の7時頃に門の前でうろうろしているのが映っていた」
「その時間って、もしかして……」
「いつもなら月葉が帰ってくる時間だ」
(嘘……本当にそんなこと)
「月葉」
父が少し強い口調で言う。
「母さんが本当に困っているならお金を渡さなきゃ、なんて絶対に思っちゃいけないよ」
まるで心を読まれたような父の言葉に頷く私。
「困っていたとしてもそれは母さんが自分で何とかするべきことだ。ちゃんとパートもしているし陽菜も一緒に暮らしてるんだから、月葉が背負う必要はない」
「うん。わかった。ありがとう、知らせてくれて」
電話を切ったあとため息が出た。母はどうしてそんなにお金を欲しがっているんだろう。でも、お父さんの言う通り、それは私が考えることじゃない。
夜遅く帰ってきた悠李にこのことを話すと同じ意見だった。
「やっぱり防犯カメラ付けておいてよかったよ」
「うん、ていうか悠李いつの間にそんなことしてくれてたの……?」
「月曜日に業者に電話して、お父さんが家にいる時間に手配したんだ。絶対来るだろうと思ってたし」
そして悠李は私の両肩に手を置いて、しっかり目を見て言った。
「月葉、もしかしたらお母さんは会社に来るかもしれない。その時は、わかってるね」
「ええ。きっぱり断る。二人だけで会わない」
「そう。ちゃんと、けりをつけなきゃダメだよ。気持ちを強く持つこと。いいね」
悠李は私をぎゅっと胸の中に抱きしめた。
「ああ、ホントはもう家の中に閉じ込めて隠しておきたいんだけど。そんな訳にもいかないからなぁ」
「そうね。ずっと隠れて守られていたんじゃ、ダメだから。私自身で母から卒業するわ」
13
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
幼馴染はファイターパイロット(アルファ版)
浅葱
恋愛
同じ日に同じ産院で生まれたお隣同士の、西條優香と柘植翔太。優香が幼い頃、翔太に言った「戦闘機パイロットになったらお嫁さんにして」の一言から始まった夢を叶えるため、医者を目指す彼女と戦闘機パイロットを目指す未来の航空自衛隊員の恋のお話です。
※小説家になろう、で更新中の作品をアルファ版に一部改変を加えています。
宜しければ、なろう版の作品もお読み頂ければ幸いです。(なろう版の方が先行していますのでネタバレについてはご自身で管理の程、お願い致します。)
当面、1話づつ定時にアップしていく予定です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる