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とりあえず、共同生活

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 突然の展開に頭が追いつかなかったけれど、あの後着替えやメイク道具、パソコンその他必要なものをスーツケースや段ボールに詰め込んで、また悠李の部屋に戻ってきた。

「月葉、ここならお母さんに知られてないから安心して暮らせるよ」
「うん……悠李、最初からそのつもりだったの?」
「まあね。お父さんに反対されたらやめるつもりだったけど、むしろ賛成して勧めてくれたから良かった!」


 私が荷物を準備している間に父は母に電話をかけていた。
 今後月葉に金をせびるな、と強く言ったところ、母からは自分がどれだけ金銭面で苦労しているか、それは全て一方的に離婚した父のせいだと非難の嵐だったという。
 だが父も強くなった。昔の父は母に歯向かうことができなかったけれど、モラハラの呪縛から逃れた今はきちんと反論して電話を切った。もちろん会話内容は録音済みだ。

「もうこれで私のところには電話してこないだろう。だからこそ、月葉にまた会おうとするはずだ。悠李くん、すまないが月葉のことを頼むよ」
「はい。大丈夫です、必ず僕が守ります」

 そして私は父と祖母に見送られ、悠李の車に乗ったのだ。

「こうなるとこの部屋じゃ狭いなぁ。クローゼットも二人分には足りないし。2LDKの部屋を探さないとな」
「悠李、私はここで十分よ。服だってそんなにないし」
「だってさ、俺これから月葉にいろんな服プレゼントしたいんだ……ずっと金の使い道なくて困ってたからさ、もう今後は月葉に全給料貢ぐつもりなんだよ」
「ぜ、全給料……?」

 どこまで本気かわからないけど、今すぐ部屋探しを始めようとする悠李を落ち着かせてしばらくはここでいいんだと説得した。

「だってここは悠李と初めて結ばれた場所だよ? 大事な記念の部屋だもの、もっとここにいたい」

 そう言うとへにゃっとした顔になって絆された様子。まったくもう、可愛いんだから。

「それもそっか。じゃあ少しでも月葉が快適に過ごせるように、どんどん模様替えしていいからね。俺は今週も忙しいから平日は手伝えないけど、大きな家具の移動は土日にやるから」
「うん。その時はお願いね」

 そして私たちの共同生活が始まった。いずれもう少し広い場所に引っ越して同棲することになるだろうけど、まずはお試しの期間。ずっと一緒となるとホントの素をさらけ出すことになる……幻滅されたりしないかちょっと不安。

 それにしても平日の悠李の朝は早い。ランニングに行ってシャワーを浴び、新聞をチェックする。一人の時はコーヒーしか飲んでなかったらしいけど、一緒に住み始めてからは朝食をきちんと作ってくれる。
 私が作ろうとすると「月葉はいいから! 朝はメイクとかで忙しいだろ? 今月は俺忙しくて夜一緒にご飯食べられないから、朝だけは俺の作ったのを食べて欲しい」と言われるので、もう全面的にお任せしている。和食、洋食、中華粥とバラエティも豊富でどれも美味しい。
 後片付けは食洗機に任せて私たちは一緒に家を出る。改札で手を振ってそれぞれの電車に乗り職場へ向かう。

(なんだかめっちゃ幸せだな……悠李ってヤンデレというよりスパダリなのかも)

 呑気にそんな風に過ごしていた私だけど、木曜日の夜、父からかかってきた電話で現実に引き戻された。

「陽子が家に来ていたんだよ」
「え……お父さん、話をしたの?」
「いや、中に入っては来なかった。悠李くんが設置してくれた防犯カメラの映像を毎晩チェックしているんだけど、昨日の7時頃に門の前でうろうろしているのが映っていた」
「その時間って、もしかして……」
「いつもなら月葉が帰ってくる時間だ」

(嘘……本当にそんなこと)

「月葉」

 父が少し強い口調で言う。

「母さんが本当に困っているならお金を渡さなきゃ、なんて絶対に思っちゃいけないよ」

 まるで心を読まれたような父の言葉に頷く私。

「困っていたとしてもそれは母さんが自分で何とかするべきことだ。ちゃんとパートもしているし陽菜も一緒に暮らしてるんだから、月葉が背負う必要はない」
「うん。わかった。ありがとう、知らせてくれて」

 電話を切ったあとため息が出た。母はどうしてそんなにお金を欲しがっているんだろう。でも、お父さんの言う通り、それは私が考えることじゃない。

 夜遅く帰ってきた悠李にこのことを話すと同じ意見だった。

「やっぱり防犯カメラ付けておいてよかったよ」
「うん、ていうか悠李いつの間にそんなことしてくれてたの……?」
「月曜日に業者に電話して、お父さんが家にいる時間に手配したんだ。絶対来るだろうと思ってたし」

 そして悠李は私の両肩に手を置いて、しっかり目を見て言った。

「月葉、もしかしたらお母さんは会社に来るかもしれない。その時は、わかってるね」
「ええ。きっぱり断る。二人だけで会わない」
「そう。ちゃんと、けりをつけなきゃダメだよ。気持ちを強く持つこと。いいね」

 悠李は私をぎゅっと胸の中に抱きしめた。

「ああ、ホントはもう家の中に閉じ込めて隠しておきたいんだけど。そんな訳にもいかないからなぁ」
「そうね。ずっと隠れて守られていたんじゃ、ダメだから。私自身で母から卒業するわ」

 
 
 
 
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