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屋上デート

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 ライブの翌週、悠李から連絡が来た。

『次の予定だけど、週末、夢の国へ行かないか』

(え、早っ。もう連絡してきたの? しかもなんでそんなとこ)

 隣の県にある夢の国、通称ドワーフランド。小人たちのキャラが歌い踊る、一大テーマパークだ。いつ行っても混んでいるから真吾と一緒に行ったこともないし、行こうとも思わなかった。正直、私には似合わない場所だと思っている。

『ちょっとハードルが高い。遠いし』

 そう返信するとすぐに悲しそうな顔のスタンプが返ってきたけれど、彼はそこで諦めはしなかった。間を置かず次の提案がくる。

『じゃあ渋谷の屋上展望に行きたい』

(なんなの! なんでデートコースみたいなとこばかり)

『俺、全然遊んでなくてさ。普通の28歳なら行ってるようなとこも全然行けてないんだ』
『月葉ならバカにせず付き合ってくれるだろ?』
『頼む! 俺を助けると思って』

 私は返信していないのに、どんどんトークが送られてくる。

(まあ、そこまで頼まれたらしょうがないか……私もどうせ休日ヒマだし)

『いいよ。付き合う』
『やった! サンキュ!』

 そして私たちは土曜日、とあるビルの屋上に出掛けたのである。

 予約チケットが必要だと知らなかった私は当日並んでる人を見て驚いた。

「ええ! これ、今日は無理なんじゃないの?」
「大丈夫。チケットは取ってあるし、これは入場を待つ人の列だから」

 悠李の言う通り、しばらく並んでからエレベーターに案内された。
 全面が黒くなっている中に乗り込み、静かに動き出すと天井に映像が映し出される。身体の浮遊感に合わせて上へ上へ、宇宙の中を昇っていくような映像。思わず見惚れてしまう美しさで、長いはずの搭乗時間もあっという間に感じられた。
 エレベーターを降りると今度は長いエスカレーターへ。だんだんと明るくなっていくその先には――

「わあ!」

 広い屋上には人工芝が敷き詰められ、外国人カップルがあちこちでごろりと寝そべっている。天気も最高に良くて、本当に東京中を見渡すことができた。なんともいえない解放感。

「すごいね。こういうの、観光客が行きたがるだけだと思っていたけど、本当に素敵」
「だろ? 絶対行きたいって思ってたんだよ。月葉が一緒に来てくれてよかった。一人だとちょっと寂しいもんな」
「でも悠李、そのくらい付き合ってくれる友達いるでしょ?」
「んー、でもここ三年は長期出張で東京を離れてたし。友人もあちこちにばらけちまったから、俺今まじでぼっち」

 そう言う顔が捨てられた子犬みたいで、つい笑ってしまった。

「月葉、なんか中学生の頃より笑顔が明るくなった気がする」

 急に真面目な調子で話す悠李。

「そう? そうね、たぶんストレスの原因と離れたからかなあ」
「ストレスの原因? それって……聞いてもいいこと?」
「全然いいよ。高2の時にね、両親が離婚したの。私は母親がすごく苦手で……一緒にいるのがとても辛かったから。それから時間はかかったけど今はとてもラクに笑えるようになった」
「なんで苦手だったの」
「ずっと私のこと否定されててね。可愛くないから笑うなとか、とにかく見た目を貶されてた。高校に入学した直後はかなり精神状態も悪くなってて……学校にも行けなくなったりして」

 その一因が悠李と陽菜のキスだ、とはあえて言わないけど。悠李もやっぱり陽菜のほうを好きになるんだ、というショックがかなり尾を引いていた。
 両親が離婚して引っ越して、学校も転校して。全てまっさらになってからようやく私は前を向いて生きられるようになったのだ。

「……ごめん」
「え? 何が?」
「あの頃、そんな辛かったのに気づいてやれてなくて。何の力にもなれてなかったんだな」
「待って、悠李には関係ないから。私と母親の問題だし。気にしないで」

 なんとなく気まずくて出口に向かいかけた私の手首を悠李はぱっと掴んだ。

「それともう一つ謝らなきゃいけないことがある」

(謝らなきゃいけないこと……それって、やっぱりキスのことだよね……)

 あの時のトラウマにやっとケリがつくのだ。真剣な顔の悠李に、私も真剣に向き合った。

「俺、あの時月葉に突然振られて、理由を聞いても何も教えてくれなくて、すごく辛かった。俺のどこがいけなかったんだろうってめちゃくちゃ悩んで引きずって。だから、ライブで月葉に再会した時、思ったんだ。もう一度俺のこと好きにさせて、今度は俺が振ってやるって」
「……は?」
「だから今日も……月葉が俺を好きになるような楽しいデートにしてやろうって、悪い気持ちで誘った。まさかあの時の月葉が家庭で問題を抱えてて、俺のことどころじゃなかったなんて知らなかったから」

(……なんか違う。思ってた謝罪と)

「ごめん。もう復讐なんて考えない。今後は友人としてでもいいから仲良くしてくれないか」

 頭を下げて手を差し出す悠李。私は腹が立ってその手をパシンとはたいた。

「何勝手なこと言ってるのよ。私が謝ってほしいのはそこじゃない。悠李と陽菜がキスをしていたことだわ!」
「……は?」

 今度は、悠李の開いた口が塞がらなかった。
    
 
  
 
 
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