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隣の席の元カレ
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別れてから半月が経った頃、突然真吾からLIMEが来た。
(しまった……ブロックするの忘れてた……!)
なんだろう。もしかしてやり直したいとか? まさかね、そんなわけないか。複雑な気持ちになりながらトークを開いた。
『ワンドルのライブには行きたいんだけど、だめかな……』
(あ……)
思い出した。私が中学生の頃から大好きなバンド、ワンダードルフィン(通称ワンドル)。何度応募してもライブに当たらなかった私が、今回のツアーで初めて当たったのだ。しかも、ツアーファイナル! それが今度の日曜日だ。
(そうだった……真吾と一緒に行くつもりで応募してたんだった。電子チケットを分配してくれってことなんだろうけど……)
なんで、子供作って別れ話してきた元カレと隣り合わせで参戦しなくちゃいけないの。図々しいにもほどがある。初めてのワンドルライブが嫌な思い出になってしまうから絶対に一緒になんて行きたくない。
『あなたの分は公式チケットトレードに出しました』
本当はまだ出していないけど、嘘をつく。これくらい、二股に比べたら可愛いものだろう。
『わかった。ごめん』
ペコリ、というスタンプとともにそう送られてきた。
(こんなこと平気で言ってくるなんて。結局、私は舐められてたってことよね)
腹が立って、LIMEをブロックしたあとすぐさまチケットを売りに出した。ぼっち参戦になってしまうけどしょうがない。こうなったらグッズも買い込んで思い切り楽しんでやるんだから。
そして当日、日曜日。私は一人で幕張にいた。
(さあ、いよいよライブ……!)
今までCDやDVDでしか聞けなかった生歌が聞ける。それだけでテンション爆上がりだ。グッズは通販で先に購入していたけれどやっぱり並んで買い足してみたり、フォトスポットの列にも加わってスタッフさんに写真を撮ってもらったり。一人ではあるけれど存分にライブ前の空間を楽しんでいた。
そしてついに、入場が始まった。私の席はA3ブロックの14列目。左端から二番目だ。右にはカップルが仲良く座っているから、真吾の席は左端だったんだろう。
(やっぱり真吾に渡さなくてよかった。こんな至近距離で二時間も一緒にいたくない)
真吾が座るはずだったチケットは売れたのだろうか。開演時間近くになっても誰も来ていないのだ。ギリギリに出したせいで売れなかったのならもったいない話だ。
やがてライトが消え、音が流れ始めた。
(いよいよだわ……!)
そして、ワンドルのメンバーがステージに姿を現した。その瞬間、すべてのことが頭から吹き飛び、私は叫んでいた。
「礼くーん! 則さーん! アイジー! まさー!」
バンドメンバー全員の名を呼ぶ。イントロが流れ始めると私は入場口で配られたLEDバンドを着けた手を上げ歌い出す。ちょうどその時、私の左側に人がやって来て同じように手を上げ曲に乗り始めた。よかった、席が無駄にならなくて。
その人はとても背の高い男の人で、上げた手のLEDがめちゃくちゃ高いところで光っている。それがなんだか可笑しくて、笑いながら歌った。
(ああ、メンバーやお客さんとの一体感……これがライブ!)
そして私は人生初のワンドルライブを存分に堪能したのだった。
「……本日は規制退場となっております。ご着席のまま、指示をお待ちください」
ライブが終わり、会場が明るくなってアナウンスが流れる。汗だくの私は放心状態でパイプ椅子に座っていた。
(よかった……素晴らしかった……礼くんのボーカル、神……!)
右側のカップルは感想を言い合っていて楽しそうだ。私も本当なら真吾とこの感動を分かち合っていたんだろうけれど、残念ながら一人なので心の中だけにとどめておこう。帰ったらセトリを思い出してメモしておかなくちゃ。
ふと、左側から視線を感じた。開演ギリギリに来た隣の男の人だ。顔を覗き込んでじっと見られている気がする。そして突然、聞き覚えのある高めの声で突然話し掛けられた。
「なあ、もしかして……月葉じゃねぇ?」
「え?」
パッと顔を上げてその人をじっと見た。
「も、もしかして悠李?」
背が高く綺麗な顔をしたその人は中学の同級生で、一か月だけ付き合った元カレ、鷺宮悠李だった……。
(しまった……ブロックするの忘れてた……!)
なんだろう。もしかしてやり直したいとか? まさかね、そんなわけないか。複雑な気持ちになりながらトークを開いた。
『ワンドルのライブには行きたいんだけど、だめかな……』
(あ……)
思い出した。私が中学生の頃から大好きなバンド、ワンダードルフィン(通称ワンドル)。何度応募してもライブに当たらなかった私が、今回のツアーで初めて当たったのだ。しかも、ツアーファイナル! それが今度の日曜日だ。
(そうだった……真吾と一緒に行くつもりで応募してたんだった。電子チケットを分配してくれってことなんだろうけど……)
なんで、子供作って別れ話してきた元カレと隣り合わせで参戦しなくちゃいけないの。図々しいにもほどがある。初めてのワンドルライブが嫌な思い出になってしまうから絶対に一緒になんて行きたくない。
『あなたの分は公式チケットトレードに出しました』
本当はまだ出していないけど、嘘をつく。これくらい、二股に比べたら可愛いものだろう。
『わかった。ごめん』
ペコリ、というスタンプとともにそう送られてきた。
(こんなこと平気で言ってくるなんて。結局、私は舐められてたってことよね)
腹が立って、LIMEをブロックしたあとすぐさまチケットを売りに出した。ぼっち参戦になってしまうけどしょうがない。こうなったらグッズも買い込んで思い切り楽しんでやるんだから。
そして当日、日曜日。私は一人で幕張にいた。
(さあ、いよいよライブ……!)
今までCDやDVDでしか聞けなかった生歌が聞ける。それだけでテンション爆上がりだ。グッズは通販で先に購入していたけれどやっぱり並んで買い足してみたり、フォトスポットの列にも加わってスタッフさんに写真を撮ってもらったり。一人ではあるけれど存分にライブ前の空間を楽しんでいた。
そしてついに、入場が始まった。私の席はA3ブロックの14列目。左端から二番目だ。右にはカップルが仲良く座っているから、真吾の席は左端だったんだろう。
(やっぱり真吾に渡さなくてよかった。こんな至近距離で二時間も一緒にいたくない)
真吾が座るはずだったチケットは売れたのだろうか。開演時間近くになっても誰も来ていないのだ。ギリギリに出したせいで売れなかったのならもったいない話だ。
やがてライトが消え、音が流れ始めた。
(いよいよだわ……!)
そして、ワンドルのメンバーがステージに姿を現した。その瞬間、すべてのことが頭から吹き飛び、私は叫んでいた。
「礼くーん! 則さーん! アイジー! まさー!」
バンドメンバー全員の名を呼ぶ。イントロが流れ始めると私は入場口で配られたLEDバンドを着けた手を上げ歌い出す。ちょうどその時、私の左側に人がやって来て同じように手を上げ曲に乗り始めた。よかった、席が無駄にならなくて。
その人はとても背の高い男の人で、上げた手のLEDがめちゃくちゃ高いところで光っている。それがなんだか可笑しくて、笑いながら歌った。
(ああ、メンバーやお客さんとの一体感……これがライブ!)
そして私は人生初のワンドルライブを存分に堪能したのだった。
「……本日は規制退場となっております。ご着席のまま、指示をお待ちください」
ライブが終わり、会場が明るくなってアナウンスが流れる。汗だくの私は放心状態でパイプ椅子に座っていた。
(よかった……素晴らしかった……礼くんのボーカル、神……!)
右側のカップルは感想を言い合っていて楽しそうだ。私も本当なら真吾とこの感動を分かち合っていたんだろうけれど、残念ながら一人なので心の中だけにとどめておこう。帰ったらセトリを思い出してメモしておかなくちゃ。
ふと、左側から視線を感じた。開演ギリギリに来た隣の男の人だ。顔を覗き込んでじっと見られている気がする。そして突然、聞き覚えのある高めの声で突然話し掛けられた。
「なあ、もしかして……月葉じゃねぇ?」
「え?」
パッと顔を上げてその人をじっと見た。
「も、もしかして悠李?」
背が高く綺麗な顔をしたその人は中学の同級生で、一か月だけ付き合った元カレ、鷺宮悠李だった……。
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