上 下
4 / 9

学院での様子

しおりを挟む
 休み明け、レティシアはヘザーとともに登校した。ヘザーは今日から王立学院で勉強するのだ。

「あなたの学年は西の棟です。二年生の私は東の棟にいますから何か用がある時はそちらへ」

「お姉様、ではジョナス様は三年生だから南の棟にいらっしゃるのね?」

 レティシアは眉をひそめたがヘザーは気にする様子もない。

「ジョナス様にも後でご挨拶に行ってくるわ。だって未来のお兄様ですものね」

「ご迷惑にならないように、あまり騒がないようになさいね」

「はいはい。では、行ってきます」

 振り返ることもなくヘザーは立ち去った。

 教室に入ると友人のアリスが走り寄って来た。

「レティシア! 待ってたのよ。あなた、ジョナス・ハワードと婚約するんですって!」

「ええ……まあね」

「やるわねえ、みんな狙ってたのに。やっぱり、次期当主様にはかなわないわ」

 女生徒に人気のあるジョナスだが、彼が次男であることが大きな障害となっていた。爵位を継ぐことが出来ない彼は、『爵位を継ぐであろう女性』と結婚することが必要なのだ。そして今のところその条件に当てはまるのは学院ではレティシアしかいない。

「昨日顔合わせを済ませたの。私が卒業したら結婚する予定よ」

「おめでとう! 良かったわね」

 心からお祝いを言ってくれているアリスだが、レティシアは素直に喜んでいいのかわからない。なぜか嫌な予感がするからだ。そしてその予感は当たった。

「ちょっとレティシア、あれ誰なの? ジョナスったら婚約したばかりでどういうつもり?」

 昼休みのカフェテリア、ジョナスと同じテーブルに座り、楽しそうに話すヘザー。アリスはまだヘザーの存在を知らないのだ。

「実はね、アリス。あれは私の異母妹いもうとなの」

 レティシアはこれまでの事情と昨日の出来事をアリスに話した。

「それは、狙われているわね」

「やっぱり?」

「ええ。レティシアからジョナスを奪おうとしてるんじゃないかしら。もしくは、邪魔をして喜ぶタイプか」

「邪魔をして喜ぶ……」

「とにかく、あなたも参戦してらっしゃい! そうでなきゃ、あのままあの二人が公認カップルに思われてしまうわよ」

「え、ええ、わかったわ」

 レティシアが近寄って行くと、気づいたヘザーが手を振って大声を出す。

「お姉様、ここよ!」

 それまで四人掛けの席でジョナスと向かい合って座っていたヘザーは席を立ち、なんとジョナスの隣に移動した。

「ヘザー、反対側に移動しなさい。婚約者でもない男性とそのような近い距離で座るものではありません」

「えー、だって、婚約者ではないけど兄妹じゃないですか。家族なら、これくらい近くても当たり前でしょう?」

 ヘザーはまたしてもジョナスに腕を絡ませる。ジョナスは腕を抜こうという素振りは見せるが顔は嬉しそうだ。どんなに綺麗な顔をした男性でも鼻の下が伸びれば情けない顔になるものね、とレティシアは思った。

「まだ結婚していないのだからその理屈は通用しません。こちらに移りなさい」

 ヘザーは腕をほどき、しぶしぶ席を移った。そしていざ三人になると、シン……としてしまった。ジョナスは気まずそうだしヘザーは膨れているし、レティシアは元々話上手ではない。沈黙に耐えかねてかヘザーは席を立ってどこかへ行ってしまった。

「二人で何を話していらしたの?」

「あ? ああ……たわいもないことだよ。学院のことなどをね、教えてあげていたんだ」

 そしてまた沈黙。ジョナスは明らかにヘザーを目で追っていた。ヘザーは、二、三人の男子生徒と一緒に食事をとることにしたようだ。

(ああ、そんなことをしたら変な噂が立ってしまうのに……帰ったら注意しておかなくては)

「彼女はとても気さくで自由だね。やはり平民として育ってきたからだろうか」

「そうですね。母は基本的な礼儀作法は教えてあると言っていましたが」

「貴族のしがらみに縛られている僕らには、彼女の奔放さが眩しく感じるよ」

 せっかく二人でいるのにヘザーの話ばかり。レティシアは砂を噛むような思いでジョナスの横顔を見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は、妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは、婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でも、ある時、マリアは、妾の子であると、知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして、次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

離婚された夫人は、学生時代を思いだして、結婚をやり直します。

甘い秋空
恋愛
夫婦として何事もなく過ごした15年間だったのに、離婚され、一人娘とも離され、急遽、屋敷を追い出された夫人。 さらに、異世界からの聖女召喚が成功したため、聖女の職も失いました。 これまで誤って召喚されてしまった女性たちを、保護している王弟陛下の隠し部屋で、暮らすことになりましたが……

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

処理中です...