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13 同じベッドで

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 三日間の旅を終えてタウンハウスに着くと、トピアスが出迎えてくれた。

「旦那さま、奥さま。お二人ともなんだか雰囲気が柔らかくなりましたね」
「そ、そうか? そんなふうに見えるか?」
「はい。あちらで充実した日々を過ごされているように見えます」

 私は恥ずかしくなって俯いた。きっと顔は赤くなっているはず。

 旅の途中で泊まった宿で、相変わらず部屋は別々だったのだけど……お休みのキスは毎晩になったのだ。小鳥のように軽く口づけるだけのキスだけど、それだけでふわりとした気持ちになって嬉しさが込み上げてくる。

「まずは昼食を取ってお休みください。その後、エイネが来ますから、ドレスの打ち合わせを」

 トピアスの口から出た初めて聞く名前にキョトンとしていると、ユリウスが教えてくれた。

「エイネはミルカの妻だ。王都で服飾やメイクの勉強をしている。いや、もう勉強という段階ではないな。立派に店を出せるほどの腕前だと聞いている」
「ええっ、ミルカさん結婚してるんですか!」
「私と同い年なんだから、普通はもう結婚しているだろう」
「そっか……そうよね。でも別々に暮らして、寂しくないのかしら」

 ユリウスはミルカのほうを振り向いて言った。

「ミルカ、リューディアが質問しているぞ。どうだ? 離れていて寂しいか?」

 するとミルカは照れもせずに答えた。

「リューディア様、寂しくはないですよ。僕らは強い愛で結ばれていますから。『会えない時間が愛を育てる』ってやつです」

 それを聞いた私たちのほうが照れてしまった。

「さ、さすがミルカ……」
「素敵……」

 そういえばトピアスとヘルガも離れて暮らしている。年に何回か、お休みを取って行き来しているとヘルガに教えてもらったことがある。

(みんな、長い時間をかけて愛と信頼を育んでいるのね。私とユリウスもそんなふうになっていけたらいいな)


 午後、エイネが屋敷を訪れた。長い黒髪をキリリと纏め、キチンとメイクを施したエイネはとても格好いい女性だった。見た目も、さっぱりした性格も。

「リューディア様、私の今期の新デザインをたくさん持って来ました。この中で、一番リューディア様に似合うのを見つけましょう」

 アシスタントの針子さんを三人引き連れてきたエイネは、領地からついてきた侍女二人も加えてチームを組み、パーティーに向けて大車輪でドレスを仕上げるつもりだ。

「エイネ、金はいくらでも出す。リューディアを一番引き立てる素材を使ってくれ」

 ユリウスの言葉にエイネの目が光る。

「その言葉、確かに聞きましたよ? わかりました、後で高いと文句言わないでくださいね」

(そんな、私なんかに勿体ない……)

 二人の会話にビビっておたおたしている私に、トピアスがにっこり笑って言う。

「大丈夫ですよ、奥さま。今まで何の贅沢もして来なかった旦那さまのせっかくの申し出です。気にせず、受け取っておけばよいのですよ」

 ヘルガとミルカも頷いている。ユリウスの顔を見ると、彼も蕩けそうな笑顔で私を見ていた。

「そうだぞ、リューディア。愛する妻のためにプレゼントをすることに長年憧れていたんだ。遠慮せずに好きなものを選んで欲しい」
「それに、結局それが回り回って僕ら夫婦を潤してくれるんで! ぜひ!」

 ミルカの言葉に思わず吹き出してしまった私。

「わかりました。エイネと相談して、ユリウスの隣に立つのに相応しいドレスを作ってもらいますね」

 それからは大忙しだった。たくさんのデザインから一つを選び出すことは本当に大変だった。どれもこれも最新で素敵なデザインだったから! 実家では既製服しか与えられなかった私は、オーダーメイドの経験も初めて。採寸も布地選びもすべてが楽しい。
 別の日には宝石商がやって来て、目の前にたくさんのアクセサリーを並べて見せてくれた。

「ではここからここまでいただくわ」

なんて、貴婦人ごっこをしてみたくなったぐらい。本当に、夢のような毎日が続いた。


 ところで……タウンハウスにいる間、私とユリウスは主寝室で一緒に休むことになった。ここは領地の屋敷のようにたくさんの部屋がないので、全員が休むためにはそうするしかなかったのだ。

(一緒の部屋で寝る……同じベッドで……! ついに、次の段階に……?)

 最初の日の夜、ドキドキしながらそう思っていた私だったけれど。こんな時に限ってやってくるものがある。

「ヘルガ……月のものが来ちゃった……」

 これでは気になってユリウスの横には寝られない。でも、余分な部屋もベッドもない。
 ということで、私はヘルガとミルカが寝る部屋に行き、ミルカのベッドへ。ミルカが、ユリウスと一緒に大きなベッドに寝ることになってしまった。

「ごめんなさい、ユリウス……あなたと一緒に寝たかったのに……」

 しょんぼりしてユリウスに謝ると、頭をよしよしと撫でてくれた。

「君の体にとって大切なことなんだから、謝らないで。一緒に眠れる日を待っているから」

 そう言って優しくキスをしてくれた。段々と、キスの時間も長くなってきた気がしている。

「ありがとう。お休みなさい……」

 私はキスの余韻に浸りながら、ヘルガの隣のベッドで横になったのである。



 その頃、主寝室のユリウスとミルカ。

「ああー、まさかお前とダブルベッドに寝る日が来るとは」
「それは俺のセリフだっての。何がかなしゅうて大男二人でベッドに入らなきゃいけないんだ」
「しょうがないだろう、リューディアの体調が最優先なんだから。……ああー、でもやっぱり一緒に寝たかった……」
「今日だけ我慢しろよ。明日からは俺はエイネの家に行くから。うん、最初からそうすりゃよかった」
「いいなあ……」
「ふふん、いいだろう、うらやましいだろう。けど俺はいつもは我慢してるんだからなっ。たまには大目にみろ」
「うん……わかった……いつもありがとう、ミルカ……お休み……」
「お休み、ユリウス」

 ミルカは微笑んで明かりを落とし、二人でベッドの陣地を取り合いしながら、やがて眠りの国へ入っていった。









 
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