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願いが叶う時
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「疲れただろう、アイリス」
湯浴みを済ませ薄手の寝衣に着替えた私たちは夫婦の寝室で寛いでいた。
「まだ興奮してるせいかしら、疲れは感じていないのよ。親戚の皆さまにお祝いしていただいて本当に嬉しかったわ。明日お礼状を書かなければいけないわね」
居室には祝いの品がうず高く積まれている。明日はプリシラやショーンと確認しながらリストを作っていかなければ。
「アンドリュー陛下からも花を頂いたね。休みが明けたら二人で陛下にお礼と結婚のご挨拶に行こう」
大広間にひときわ豪華な花のオブジェがあったが、それがアンドリューからの贈り物だった。
「そうね。新婚旅行のお土産も持って行きましょう」
式から二週間、エドガーは休暇を取っている。私たちはラルクール家領地への挨拶回りも兼ねて、明後日から南部を旅行する予定だ。
「明日も早いから、そろそろ休もうか」
エドガーが立ち上がり、私に手を差し伸べてくれた。
「ええ……」
いよいよだ。ついに前世からの願いが叶う時が来た。私はエドガーに手を引かれ大きなベッドに歩み寄った。
「あの、エドガー、恥ずかしいから明かりは消してね……」
わかった、とエドガーは枕元の蝋燭を消す。途端に室内は暗闇に包まれた。闇に目が慣れるまでもう少しかかるだろう。だがエドガーは暗闇でも迷うことなく私を見つけ、抱き締めてきた。
(わぁ……エドガーの身体が熱い……どうしよう、もう本当に今から……?)
「ごめんなさい、待って、エドガー
……」
どうしようもなく恥ずかしくなって、私は身をよじらせてエドガーの腕の中から逃げ出した。でも、その私の腕をエドガーが優しく捕らえ、腕の中へと引き戻す。
「駄目。もう充分待ったよ」
ようやく暗闇に慣れた私の目に、エドガーの顔が映った。いつもの優しいエドガーだけど、なんだかとても大人っぽくて男らしい、初めて見る顔をしていた。
「早くアイリスと一つになりたいんだ」
エドガーの美しい顔が近付いてくる。私は……身体の力を抜いて、エドガーに全てを任せたのだった。
朝日が差し込むベッドで私は目を覚ました。
(朝だわ……)
隣には長い睫毛を伏せて規則正しい寝息を立てているエドガーの美しい寝顔があった。
(ついに、私たち結ばれたのね……!)
ほんの少しの痛みと大きな高揚感。私はエドガーのものになり、聖女ではなくなった。
(とても長い時間を聖女として過ごしてきたけれど、ようやく普通の人になれた気がするわ。これからはエドガーの妻アイリス・ラルクールとして穏やかに暮らしていくのね)
エドガーの額に軽くキスをして私はベッドから抜け出した。脱いでいた寝衣を羽織り、窓から外を眺める。
(いい天気……)
この天気はしばらく続きそうだし、楽しい旅行になりそうだ。これからは普通の人間として気楽に行動出来る。聖女のオーラを出さないように気を張る必要もない。
(だってほら、もう癒しの光なんて出ないもんね)
私は手のひらを上に向け、光を出そうとーー出ないと思ってーーしてみた。
(……あら?)
手のひらには白い癒しの光がまあるく浮かび上がった。
(えっ、えっ? なんで?)
慌てて、魔法も使えるのか試してみた。
「飛べ」
足が床から浮いた。どうやら魔法も健在だ。
(ちょっと待って……昨夜、私たちちゃんと結ばれたわよね? 未遂ってことある?)
いや、そんなはずはない。事前学習の通りにコトは進んでいったのだ。処女でなくなったのは絶対に間違いない。
(どういうことーー!? 私、なんでまだ聖女なのーーーー!!)
湯浴みを済ませ薄手の寝衣に着替えた私たちは夫婦の寝室で寛いでいた。
「まだ興奮してるせいかしら、疲れは感じていないのよ。親戚の皆さまにお祝いしていただいて本当に嬉しかったわ。明日お礼状を書かなければいけないわね」
居室には祝いの品がうず高く積まれている。明日はプリシラやショーンと確認しながらリストを作っていかなければ。
「アンドリュー陛下からも花を頂いたね。休みが明けたら二人で陛下にお礼と結婚のご挨拶に行こう」
大広間にひときわ豪華な花のオブジェがあったが、それがアンドリューからの贈り物だった。
「そうね。新婚旅行のお土産も持って行きましょう」
式から二週間、エドガーは休暇を取っている。私たちはラルクール家領地への挨拶回りも兼ねて、明後日から南部を旅行する予定だ。
「明日も早いから、そろそろ休もうか」
エドガーが立ち上がり、私に手を差し伸べてくれた。
「ええ……」
いよいよだ。ついに前世からの願いが叶う時が来た。私はエドガーに手を引かれ大きなベッドに歩み寄った。
「あの、エドガー、恥ずかしいから明かりは消してね……」
わかった、とエドガーは枕元の蝋燭を消す。途端に室内は暗闇に包まれた。闇に目が慣れるまでもう少しかかるだろう。だがエドガーは暗闇でも迷うことなく私を見つけ、抱き締めてきた。
(わぁ……エドガーの身体が熱い……どうしよう、もう本当に今から……?)
「ごめんなさい、待って、エドガー
……」
どうしようもなく恥ずかしくなって、私は身をよじらせてエドガーの腕の中から逃げ出した。でも、その私の腕をエドガーが優しく捕らえ、腕の中へと引き戻す。
「駄目。もう充分待ったよ」
ようやく暗闇に慣れた私の目に、エドガーの顔が映った。いつもの優しいエドガーだけど、なんだかとても大人っぽくて男らしい、初めて見る顔をしていた。
「早くアイリスと一つになりたいんだ」
エドガーの美しい顔が近付いてくる。私は……身体の力を抜いて、エドガーに全てを任せたのだった。
朝日が差し込むベッドで私は目を覚ました。
(朝だわ……)
隣には長い睫毛を伏せて規則正しい寝息を立てているエドガーの美しい寝顔があった。
(ついに、私たち結ばれたのね……!)
ほんの少しの痛みと大きな高揚感。私はエドガーのものになり、聖女ではなくなった。
(とても長い時間を聖女として過ごしてきたけれど、ようやく普通の人になれた気がするわ。これからはエドガーの妻アイリス・ラルクールとして穏やかに暮らしていくのね)
エドガーの額に軽くキスをして私はベッドから抜け出した。脱いでいた寝衣を羽織り、窓から外を眺める。
(いい天気……)
この天気はしばらく続きそうだし、楽しい旅行になりそうだ。これからは普通の人間として気楽に行動出来る。聖女のオーラを出さないように気を張る必要もない。
(だってほら、もう癒しの光なんて出ないもんね)
私は手のひらを上に向け、光を出そうとーー出ないと思ってーーしてみた。
(……あら?)
手のひらには白い癒しの光がまあるく浮かび上がった。
(えっ、えっ? なんで?)
慌てて、魔法も使えるのか試してみた。
「飛べ」
足が床から浮いた。どうやら魔法も健在だ。
(ちょっと待って……昨夜、私たちちゃんと結ばれたわよね? 未遂ってことある?)
いや、そんなはずはない。事前学習の通りにコトは進んでいったのだ。処女でなくなったのは絶対に間違いない。
(どういうことーー!? 私、なんでまだ聖女なのーーーー!!)
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