上 下
20 / 63

エドガーからの手紙

しおりを挟む

 その夜、自分の部屋に戻った私はベッドに倒れ込んだ。

(エレンの話が壮大過ぎてピンとこないけど……これから本当に起こることなんだ。覚悟しておかなきゃいかないんだ)

 災厄ディザストロ――何百年かに一度、目覚める魔獣。

 エレンが言っていた。前に目覚めたのは三百年前。地上を焼き尽くし、人間も妖精も半分以上命を失ったそうだ。妖精たちは、暴れ回った後眠りについたディザストロが再び目覚める前に対抗手段をと、人間界に時折現れる奇跡の力を持つ女性――『聖女』に白羽の矢を立てた。彼女たちに妖精の力を授ければきっと大きな力になる、と。

 しかし、妖精の姿を見ることが出来る聖女はなかなか現れなかった。そうして待つこと二百年、ようやく私、アデリンが出て来たのである。

『ディザストロの気配が少しずつ強くなっているの』

 エレンは言った。

『どこで眠っているのかはわからないけれど、少しずつ目を覚ましかけているのよ。奴が現れたらすぐに、選り抜きの騎士と共に討伐に向かわなくてはならないわ。あなたの力があればきっと大丈夫。この世界を救って欲しいの』

 うつ伏せでベッドの上に転がっていた私は、今度は仰向けになって両腕を上げ、華奢な手指を見つめる。

(前世では、大結界を張れるようになるまでは前線に出て戦っていた。頑丈な身体を生かして弓も引いたし剣も取っていたわ。だけど今世では何も訓練していない。貴族令嬢らしいこの細い腕で戦えるのかしら……)

 明日から体力作りを始めよう。筋力アップもしなければ。この身体でどこまで鍛えられるかわからないけれど。

「アイリス様、エドガー様からお手紙が届きましたよ!」

 ノックの後、メラニーがはしゃいだ声で入ってきた。私は急いで飛び起き、メラニーに飛び付いた。

「早く! 早く見せてちょうだい!」

 私の必死な顔を見たメラニーは、からかうこともせずすぐに渡してくれた。エドガーが出立してすぐに手紙を送っていたので、その返事が返ってきたのだ。ドキドキしながらペーパーナイフで手紙を開封し、便箋を開いた。


『親愛なるアイリス、手紙をありがとう。今日でここに来てから四日が経ったよ。
 同じロラン王国なのに、北部は随分と寒く、土地も痩せているようだ。住民達に聞くと、今年が特別おかしな気候だということらしいがね。例年は夏は涼しくて過ごしやすく、冬は適度に雪が降り雪景色を楽しめるので、観光にもいい場所らしい。
 ぼく達が結婚する頃は初夏だから、きっといい気候だろう。僕はこれから休日の度に君との新居を構える場所を探して歩くとするよ。
 三ヶ月後には連休が取れるようだから、その時には一度帰るつもりだ。
 それではアイリス、君も身体には気をつけて。キャスリン王女様の家庭教師として忙しいだろうけれど無理し過ぎないようにね。

          愛をこめて、エドガーより』

(エドガー……)

 私は手紙を抱き締めて思わず涙ぐんだ。

「アイリス様? どうしたんですか。そんなに手紙が待ち遠しかったんですか?」

「うん……」

(違うの。エドガーがこんなに私との結婚を楽しみにしてくれているのに、私は聖女としてディザストロと戦うため、操を立てなければならなくなりそうで……それが辛いの)

 私はすぐにエドガーと結ばれたかったのに。ディザストロを倒すまでは無理になるだろう。

(こうなったら秒で奴を倒す! そしてエドガーと絶対に結婚するんだから!)
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。 しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。 アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。 これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。 ツイッターで先行して呟いています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
ワガママ三昧な生活を送っていた悪役令嬢のミシェルは、自分の婚約者と、長年に渡っていじめていた聖女によって冤罪をでっちあげられ、処刑されてしまう。 その後、ミシェルは不思議な夢を見た。不思議な既視感を感じる夢の中で、とある女性の死を見せられたミシェルは、目を覚ますと自分が処刑される半年前の時間に戻っていた。 それと同時に、先程見た夢が自分の前世の記憶で、自分が異世界に転生したことを知る。 記憶が戻ったことで、前世のような優しい性格を取り戻したミシェルは、前世の世界に残してきてしまった、幼い家族の元に帰る術を探すため、ミシェルは婚約者からの婚約破棄と、父から宣告された追放も素直に受け入れ、貴族という肩書きを隠し、一人外の世界に飛び出した。 初めての外の世界で、仕事と住む場所を見つけて懸命に生きるミシェルはある日、仕事先の常連の美しい男性――とある伯爵家の令息であるアランに屋敷に招待され、自分の正体を見破られてしまったミシェルは、思わぬ提案を受ける。 それは、魔法の研究をしている自分の専属の使用人兼、研究の助手をしてほしいというものだった。 だが、その提案の真の目的は、社交界でも有名だった悪役令嬢の性格が豹変し、一人で外の世界で生きていることを不審に思い、自分の監視下におくためだった。 変に断って怪しまれ、未来で起こる処刑に繋がらないようにするために、そして優しいアランなら信用できると思ったミシェルは、その提案を受け入れた。 最初はミシェルのことを疑っていたアランだったが、徐々にミシェルの優しさや純粋さに惹かれていく。同時に、ミシェルもアランの魅力に惹かれていくことに……。 これは死に戻った元悪役令嬢が、元の世界に帰るために、伯爵子息と共に奮闘し、互いに惹かれて幸せになる物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿しています。全話予約投稿済です⭐︎

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

処理中です...