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王子の正体

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 部屋のドアがノックされ、外からメラニーが叫んでいる。

「アイリス様!」

 王子を見ると、既に短剣は懐に収められており、涼しい顔で返事をしていた。

「大丈夫だ。構わないから入ってくれたまえ」

 ノックと共にメラニーが入って来た。

「どうかなさいましたか?」

「床に、害虫がいたのでね。アイリス嬢が驚いて声を出したのだよ。私が始末したからもう大丈夫だね?」

「は、はい……大丈夫、です……」

 王子はメラニーにお茶を持ってくるように頼むと、ソファに深々と座った。

「さて、アイリス嬢。今の光を説明してもらおうか」

「あ、あの、殿下……」

(まずい。ここは何としても誤魔化さないと)

「光なんて出ましたかしら? 私、何も見えませんでした」

「ほう、君は私が嘘をついているとでも?」

(ああっ、しまった。不敬罪と言われてしまう)

「いえ、そんなことは決して。ただ、何のことだかよくわからないなあって……」

 可愛らしく首を捻って言ってみたのだが。

「わからないようなら単刀直入に言おうか。君は大聖女アデリンだろう」

 冷や汗が背中を伝う。心臓が止まりそう。ああやっぱりさっさとエドガーとキスをしておけば良かった……。

「仰る意味がわかりませんわ。アデリン様はもう亡くなっているじゃありませんか」

 バクバクと心臓がうるさい。どうしてこの人はこんなに自信たっぷりなんだろう。私がアデリンという証拠は何もないのに。

「なぜなら、私はリカルドだからね」

「……はい?」

 そこへメラニーがワゴンに乗せてお茶を運んで来た。緊迫した空気の流れている客間に、カチャカチャという食器の音が響く。それほどにこの部屋は静かすぎる。

「ありがとう。用が済んだらまた外してくれ」

 メラニーは中に残りたそうだったが、王子に言われたらどうしようもない。ワゴンを押して静かに出て行った。

「リカルドって、誰ですか」

「もう誤魔化そうとするのはやめろ、アディ」

 アディ。久しぶりに聞いた、私の愛称。王宮では、誰にも呼ばれたことのなかった愛称――たった一人を除いては。

「王宮では完璧にオーラを消していたが、今はもうダダ漏れだ。うっかり光を出してしまったから制御が効かないんだろう」

 その通りだ。心が乱れてうまくオーラを消し切ることが出来ない。

「まあ、警戒しているんだろうから先に俺の話をしよう。俺はお前も知っているように四十五でこの世を去った。それからどのくらい経ったのか……気がつくと俺はこの国の王子に生まれ変わっていた」

「生まれ変わって……?」

「そう。俺が死ぬ時にまだ子供だったジョージ王子の『孫』にな。だからお前も、どこかで生まれ変わっているだろうとずっと探していた」

 本当なのだろうか? リカルドが死んだ歳も、ジョージ王子がその時子供だったのも合っている。でも、生まれ変わりなんて認めたら、私がアデリンからアイリスに転生していてもおかしくないことになる。

「生まれ変わりだなんて、そんなの信じられませんわ。今仰ったことは伝記や歴史書を調べればわかることばかりです」

「……じゃあ、観月祭の夜に神殿でキスしそうになったことは?」

「ええええっっ!」

 思わずソファから立ち上がり、声を出してしまった私。
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