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大聖女のオーラ
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「さて、エドガー。君は今回が初の討伐とか。それなのに、魔獣が怖くなかったのかい?」
「はい、殿下。もちろん恐怖を感じておりました。ですがアイリスが励ましてくれた言葉を思い出し、きっと傷一つ負わずに帰ることが出来ると信じて戦ったのです」
エドガーは誇らしげに、そして自信を持って答えた。
「殿下、エドガーは本当に勇敢でした。元々、腕の立つ男ではありましたが魔獣に対する恐怖心がどうしても拭えず訓練も倍の期間を費やしていたのです。それなのに、実戦になるとこれほどの働きを見せるとは」
テオドアがエドガーをベタ褒めしてくれている。ありがとう、テオドア。あなたは昔からそうだった。他人の悪口など決して言わない、誠実で優しい人。
「魔獣への攻撃も、一撃で仕留めていました。このような戦い方は伝説の騎士リカルド以来ではないでしょうか」
「ほう……?」
王子の目が妖しく光る。
「氷の騎士と同じ実力と言うのか。それは楽しみだ。いずれ君の戦い振りを見てみたいものだ」
「有り難きお言葉でございます、殿下。まだまだ、氷の騎士には程遠い若輩者ですが、殿下とテオドア団長の期待に添えるよう、精進いたします」
頬を染めながらも引き締まった表情のエドガー。王族に直接褒められるのは滅多にない光栄なことなのだ。
「ところで、アイリス嬢」
突然、王子が私の方に顔を向ける。
「はい、殿下」
「君の励ましがとても力になったということだが、もしかして君は聖女の力があるのではないかな?」
ドクン、と心臓が跳ねた。王子の顔は笑っているが目が厳しい気がする。
「いいえ、私には聖女の力などございませんわ。ただただ、エドガーの無事を祈っていただけですの」
「そうかな。実はテオドアから面白い事を聞いたので、君に興味を持ったのだよ」
(面白い事……?)
私はエドガーと顔を見合わせた。エドガーも何も聞いていなかったのか、どこか不安げな表情だ。
「いやいや、そんなに怖がらないでくれ、二人とも。年寄りの感傷だと思ってくれていいんだ。実はな、エドガーから私は懐かしいオーラを感じたのだよ」
「私から、ですか? 団長、それはいったいどのようなものなのですか」
エドガーは首を捻っている。オーラだなんて、そんなあやふやな事を言われても……というところだろう。一方の私はかなりの冷や汗をかいていた。
(やばいやばい! まさか私のオーラを覚えていたなんて……あれから三十年よ?!)
焦る私の気も知らないでテオドアは目を細め、懐かしむように窓の外の神殿を眺めた。
「ワシがひよっ子の新人騎士だった頃、大聖女アデリン様の護衛を一年間勤めさせて頂いた。アデリン様が亡くなるまでお仕えしていたのだが、その時のアデリン様の温かなオーラ……全てを包み護って下さる、白い光の気配を今も覚えているよ。あれから三十年の時が流れたが、その間一度もそれを感じたことはなかった。その気配が、エドガー、お前から漂っていたのだよ」
「本当ですか? 私には全くわかりませんでしたが。今も感じますか?」
「いや、今日は何も。だがあの戦いの場では確かに感じていた。だからお前やお前の隊が傷一つ負わなかったのもそのオーラのおかげではないかと、殿下に申し上げたのだ」
軽く頷いた王子は再び私の顔をじっと見る。
「エドガーが白いオーラに包まれていたとするならば、その加護を与えたのは君だと考えるのが道理だと思ったのだがね……今のところ、君からはそれを感じない。どうやら、私の思い違いだったようだ」
私はホッと胸を撫で下ろした。前世を思い出してからというもの、聖女のオーラを消すことだけはいつ何時も忘れないようにしてきたのだ。まさかエドガーに与えた加護をテオドアに気付かれるとは思っていなかったけれど。
「はい、殿下。もちろん恐怖を感じておりました。ですがアイリスが励ましてくれた言葉を思い出し、きっと傷一つ負わずに帰ることが出来ると信じて戦ったのです」
エドガーは誇らしげに、そして自信を持って答えた。
「殿下、エドガーは本当に勇敢でした。元々、腕の立つ男ではありましたが魔獣に対する恐怖心がどうしても拭えず訓練も倍の期間を費やしていたのです。それなのに、実戦になるとこれほどの働きを見せるとは」
テオドアがエドガーをベタ褒めしてくれている。ありがとう、テオドア。あなたは昔からそうだった。他人の悪口など決して言わない、誠実で優しい人。
「魔獣への攻撃も、一撃で仕留めていました。このような戦い方は伝説の騎士リカルド以来ではないでしょうか」
「ほう……?」
王子の目が妖しく光る。
「氷の騎士と同じ実力と言うのか。それは楽しみだ。いずれ君の戦い振りを見てみたいものだ」
「有り難きお言葉でございます、殿下。まだまだ、氷の騎士には程遠い若輩者ですが、殿下とテオドア団長の期待に添えるよう、精進いたします」
頬を染めながらも引き締まった表情のエドガー。王族に直接褒められるのは滅多にない光栄なことなのだ。
「ところで、アイリス嬢」
突然、王子が私の方に顔を向ける。
「はい、殿下」
「君の励ましがとても力になったということだが、もしかして君は聖女の力があるのではないかな?」
ドクン、と心臓が跳ねた。王子の顔は笑っているが目が厳しい気がする。
「いいえ、私には聖女の力などございませんわ。ただただ、エドガーの無事を祈っていただけですの」
「そうかな。実はテオドアから面白い事を聞いたので、君に興味を持ったのだよ」
(面白い事……?)
私はエドガーと顔を見合わせた。エドガーも何も聞いていなかったのか、どこか不安げな表情だ。
「いやいや、そんなに怖がらないでくれ、二人とも。年寄りの感傷だと思ってくれていいんだ。実はな、エドガーから私は懐かしいオーラを感じたのだよ」
「私から、ですか? 団長、それはいったいどのようなものなのですか」
エドガーは首を捻っている。オーラだなんて、そんなあやふやな事を言われても……というところだろう。一方の私はかなりの冷や汗をかいていた。
(やばいやばい! まさか私のオーラを覚えていたなんて……あれから三十年よ?!)
焦る私の気も知らないでテオドアは目を細め、懐かしむように窓の外の神殿を眺めた。
「ワシがひよっ子の新人騎士だった頃、大聖女アデリン様の護衛を一年間勤めさせて頂いた。アデリン様が亡くなるまでお仕えしていたのだが、その時のアデリン様の温かなオーラ……全てを包み護って下さる、白い光の気配を今も覚えているよ。あれから三十年の時が流れたが、その間一度もそれを感じたことはなかった。その気配が、エドガー、お前から漂っていたのだよ」
「本当ですか? 私には全くわかりませんでしたが。今も感じますか?」
「いや、今日は何も。だがあの戦いの場では確かに感じていた。だからお前やお前の隊が傷一つ負わなかったのもそのオーラのおかげではないかと、殿下に申し上げたのだ」
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「エドガーが白いオーラに包まれていたとするならば、その加護を与えたのは君だと考えるのが道理だと思ったのだがね……今のところ、君からはそれを感じない。どうやら、私の思い違いだったようだ」
私はホッと胸を撫で下ろした。前世を思い出してからというもの、聖女のオーラを消すことだけはいつ何時も忘れないようにしてきたのだ。まさかエドガーに与えた加護をテオドアに気付かれるとは思っていなかったけれど。
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