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白い魔法使い

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その後、学園の初等部に入学したウォルターは、すっかり顔の変わったアンジェリカに出会う。

(アンジェリカ! こんな顔になってしまって……魔法って、本当だったんだ)

可哀想なアンジェリカは友達もおらず一人ぼっちだった。

(よし、僕がアンジェリカの唯一の友達になろう。アンジェリカが僕だけを頼ってくるようにしよう。アンジェリカの性格に惹かれる奴がいたらいけないから、誰とも話さないように見張っておこう。そうすれば、彼女は僕のものになる)

絶対に男達の目に止まらないよう、目立つことは一切禁じた。次第に、怯えた目をするようになったアンジェリカ。それが楽しくて執拗に虐めてしまった。あの醜い顔で怯えられると、なぜか楽しくなるのだ。

(アンジェリカをバカにしている奴ら、彼女の魔法が解けたら悔しがるだろうなあ。いい気味だ。その時にはもう彼女は僕のものなんだから)

やがて最終学年になり、王太子は予想通りアンジェリカを選ばず、行き遅れはほぼ決まりとなった。

(あと少しだ。金をチラつかせたから、公爵も渋々ながらも婚約を受けるだろう。あと少しで僕のものに)

その頃にはウォルターはかなりのしんどさを感じるようになっていた。ベッドから起き上がれない日も多く、いくら寝ても疲れが取れない。

(だがこんな思いもあとちょっとだ。彼女の誕生日が来れば、僕はまた以前の健康な身体を取り戻し、美しくなった彼女と幸せに暮らすんだ)

そしてある日ーーヴィンセントが現れるのだ。腕を捻り上げられ、何も抵抗出来なかった屈辱。アンジェリカを奪われた絶望。死への恐怖。ウォルターはその日以降ベッドから出ることは出来なかった。




ゼインは、ウォルターの額から手を離した。

(哀れな……)

本に宿った黒い魔法使いに生命力を吸い取られて、もう彼は死の一歩手前だ。

黒い魔法使い達は、遠い昔に力を失って実体化することが出来なくなった。そのため本や鏡、櫛などに宿って共鳴する人間を探す。そしてその人間の生命力を奪い、やがて死に至らしめる。そうして何人もの命を吸い取って溜め込んで、やがて実体化する。そうなると、あちこち移動して悪さをするので厄介だ。

「では今のうちに」


もう夜も更けた。そろそろ日付が変わり、アンジェリカの誕生日を迎える。

ゼインは枕元の本を手に取り、空中に放った。そして両手を翳し、何かを呟いた。すると手のひらから光が溢れ、本を包み込んだ。

「ギャアーー」

本の中から叫び声が聞こえた。

「苦しい……苦しい……おのれ、白の魔法使いか……! あと少しで身体を得ることが出来たのに……! 」

「はい、お疲れ様」

ゼインがパチンと指を鳴らすと、甲高い叫び声と共に本は砕け散った。そして、外から黒い影が部屋に戻って来た。

「アンジェリカに掛けていた魔法だな」

ゼインは人差し指と親指を立ててよく狙い、

「バン!」

と言うとその影も霧散した。

「さて、と……」

ベッドのウォルターの顔を覗くと、先程までの黒い影は消えていた。

「これで命だけは助かるだろう。牢屋に行くことにはなるがな」

魔法と共鳴する人間は、魔に囚われやすい性質を持っている。再び魔法騒ぎを起こさぬように、一生幽閉されるのが決まりだ。

ゼインは外に待機している軍に合図を送り、ウォルターを逮捕するよう指示を出した。

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