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王太子の婚約

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「オーウェン家の娘が王太子殿下の婚約者に決まったそうだ」

夕食のテーブルにつくやいなやクスバート公爵は口を開いた。

「まあ……クリスティンが? それはようございました」

「いいわけないだろう。同い年の娘がいるというのに我が家はオーウェンの後塵を拝すことになってしまった。いまいましい」

「だってあなた、こればっかりは仕方がありませんわ。殿下のお決めになったことですもの」

「ふん。せめて第二王子殿下にはフロウを輿入れさせたいものだ」

アンジェリカは両親の会話をいたたまれない思いで聞いていた。本来ならば自分が殿下の婚約者に選ばれなければならなかったのだ。父が次期宰相に近づくためにも。

「あんな大した事のない平凡な娘が王太子妃になるとはな。だがそれでもアンジェリカよりはマシなのが辛いところだ」

「あなた!」

公爵夫人は夫をたしなめた。

「アンジェは良い娘ですわ。ピアノもダンスも上手ですし外国語もできます。なぜか学校の成績は振るわないのですけれど、きっと試験では緊張してしまうのでしょう」

一生懸命に自分を持ち上げてくれる母に対して申し訳なく、アンジェリカはますます縮こまった。

「大丈夫よお父様。私が絶対に第二王子様の婚約者になってみせるわ」

大きな目をキラキラさせて妹のフローレンスが口を挟む。

「これフロウ。大人の会話に入ってくるのはマナー違反ですよ。食事の時は喋ってはいけません」

「はあい」

すっかり食事が喉を通らなくなってしまったアンジェリカをよそに、フローレンスはメインディッシュに取り掛かった。可愛らしい口を精一杯に開けて美味しそうに頬張る。

兄のデイビスはもとより喋らない性質で、成人した大人ではあるがいつも話には入ってこない。兄の心の内はわからないが、何も言わないでいてくれることがアンジェリカには嬉しかった。

「明日、早速お祝いの品をオーウェン家に贈っておきますわ。そのうち、夫人の自慢話も聞かされることになるでしょうねえ。あの方、ホントに話が長くて」

その後は社交界の話題に移ったのでアンジェリカはホッとして、なんとか食事を終えることが出来た。

夕食後、早々に部屋に戻ったアンジェリカは机に向かって勉強を始めようとした。だがペンは止まったまま動かない。

(勉強なんてもうする必要はないのよね。見た目がこんなだからせめて教養だけは身に付けなさいとお母様に言われて頑張ってきたけれど、やっぱり王太子殿下からは選ばれなかった。もちろん、最初からわかっていたことだわ)
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