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マデリンと決別してから、私はとても穏やかな日々を過ごしてきました。
一年くらい経った頃でしょうか。ケリーが作っているワインがついに最優秀賞を取り、王宮での授賞式に参加するために王都にやって来ました。
せっかくですから、ケリー一家とジョイス一家を我が家に招待して楽しい時間を過ごすことにしました。
「おめでとう! ケリー」
「ありがとう、二人とも」
ケリーはとてもニコニコしています。私達の夫もみな同級生なので、いろいろ懐かしい話で盛り上がっているようです。
子供達もそれぞれ歳が近いので、みんなで楽しく遊んでいます。
「ねえ、私授賞式の後、王宮のパーティーに参加したのよ」
「招待されたのね、素敵! どうだった?」
「あのね、最近起きたある出来事の話でもちきりだったわ」
「あら、どんな事?」
「マデリンが、若い男の人と不倫して離婚されたんだって」
「ええっ?! 離婚?」
私もジョイスも驚きました。
「それじゃあマデリンは今はご実家に?」
「それが実家にも受け入れてもらえなくて、修道院に行ったらしいわ」
「まあ……不倫って、いったい誰と?」
何も知らないジョイスが尋ねます。
「若い俳優ですって。前から社交界では噂になっていたんだけど、ついに旦那様にバレたとか。なんでも、その俳優の妻が全て暴露したらしいわ」
どうやらその俳優は公にはしていないけれど結婚していて、妻には内緒でマデリンとデートしていたようです。お金をくれたり物を買ってくれるからと。でも妻にその事がばれ、怒った妻がマデリンの屋敷を訪れ、夫と義母に全て話したそうです。
夫と義母は怒り、即刻離婚された上、マデリンは無一文で追い出されたとか。
「でもマデリンには子供がいたじゃない? 子供達はどうなったの」
「それがね、不倫していた母親を許せなくて全員夫のもとに残ったみたい。面会も拒否しているんですって」
「それで行き場がなくなって修道院へ行ったのね……」
「それとね、私、リリアナに話しかけられたんだけど、」
ケリーが私を見つめて言います。
「リリアナは従兄弟を裏切ったマデリンを許さないってひどく怒っていたわ。でね、ずっとマデリンから『学生時代からセシリアにいじめられている』って聞いていたんだけど本当かしらって聞かれたの」
「ええっ? どういうこと?」
「私もびっくりしたわ。それで、『セシリアはそんな事絶対にしない、むしろ親身に相談に乗ってあげていたわ』って言ったのよ。そしたらリリアナ、『やっぱりそうなのね。あの子の言うことは嘘だらけなんだわ』ってまた怒ってたわ」
どうやらマデリンは、私にはリリアナの悪口を、リリアナには私の悪口を言っていたようです。そして『可哀想なマデリン』という同情を集めて注目されたかったみたい。
こうなってみると、夫や義母から冷たくされているというのも嘘だったのかもしれません。もしくは、ちょっとした事を大袈裟に言っていたのかも。
それなのに十年もマデリンの言うことに振り回されてきた私は本当に馬鹿だったんだなあ、と思います。
常にマデリンに同情し、話を聞き、慰めの言葉をかけ続けた私は、マデリンにとって『悲劇のヒロイン気分』を味わえる格好の依存先だったのでしょう。
私はもうこの際だからと、これまでの事をすべてジョイスとケリーに話しました。
「まあ、セシリア……あなたって何て人がいいの。こんなに長い間マデリンに付き合うなんて」
「私達に相談してくれたら良かったのに。一人で抱えて辛かったでしょう」
二人は、以前からマデリンのことを信頼していなかったそうです。
「セシリアが強く言えないから調子に乗ったんでしょうね。セシリアは他人に秘密を言いふらすこともしないし」
「ありがとう、二人とも……私が人を見る目が無かっただけなのね。去年ブライアンに相談してやっと、マデリンがおかしいと気付くことが出来たの。もっと早く、学生時代に二人に相談していればこんなに長く悩むことなかったのね」
「まあ、こうなる前に縁を切っておいて良かったわね。そうでなかったら、ここに転がり込んで来てたわよ、きっと」
「有り得るわね。『義母に虐められて追い出された!』とか言って」
「……ありそうで怖いわ」
私は震える真似をして、二人と一緒に笑いました。
その後、マデリンから一度だけ手紙が来ましたが、ブライアンが先に中を読んで
「君が見る必要はないよ」
と言って暖炉の火に投げ込みました。また、同情を誘うようなことが書いてあったそうです。
「マデリンが今こうなっているのは誰のせいでもない。自分のせいなんだ。それがわからないうちは関係を修復するべきではないだろう」
「ありがとう、ブライアン。あなたがいてくれて本当に良かった」
これで、私とマデリンの話はおしまいです。
皆さんも、構ってもらいたがる友人とは早めに距離を置いて下さいね。
ご自分の心が壊れてしまう前に。
(完)
一年くらい経った頃でしょうか。ケリーが作っているワインがついに最優秀賞を取り、王宮での授賞式に参加するために王都にやって来ました。
せっかくですから、ケリー一家とジョイス一家を我が家に招待して楽しい時間を過ごすことにしました。
「おめでとう! ケリー」
「ありがとう、二人とも」
ケリーはとてもニコニコしています。私達の夫もみな同級生なので、いろいろ懐かしい話で盛り上がっているようです。
子供達もそれぞれ歳が近いので、みんなで楽しく遊んでいます。
「ねえ、私授賞式の後、王宮のパーティーに参加したのよ」
「招待されたのね、素敵! どうだった?」
「あのね、最近起きたある出来事の話でもちきりだったわ」
「あら、どんな事?」
「マデリンが、若い男の人と不倫して離婚されたんだって」
「ええっ?! 離婚?」
私もジョイスも驚きました。
「それじゃあマデリンは今はご実家に?」
「それが実家にも受け入れてもらえなくて、修道院に行ったらしいわ」
「まあ……不倫って、いったい誰と?」
何も知らないジョイスが尋ねます。
「若い俳優ですって。前から社交界では噂になっていたんだけど、ついに旦那様にバレたとか。なんでも、その俳優の妻が全て暴露したらしいわ」
どうやらその俳優は公にはしていないけれど結婚していて、妻には内緒でマデリンとデートしていたようです。お金をくれたり物を買ってくれるからと。でも妻にその事がばれ、怒った妻がマデリンの屋敷を訪れ、夫と義母に全て話したそうです。
夫と義母は怒り、即刻離婚された上、マデリンは無一文で追い出されたとか。
「でもマデリンには子供がいたじゃない? 子供達はどうなったの」
「それがね、不倫していた母親を許せなくて全員夫のもとに残ったみたい。面会も拒否しているんですって」
「それで行き場がなくなって修道院へ行ったのね……」
「それとね、私、リリアナに話しかけられたんだけど、」
ケリーが私を見つめて言います。
「リリアナは従兄弟を裏切ったマデリンを許さないってひどく怒っていたわ。でね、ずっとマデリンから『学生時代からセシリアにいじめられている』って聞いていたんだけど本当かしらって聞かれたの」
「ええっ? どういうこと?」
「私もびっくりしたわ。それで、『セシリアはそんな事絶対にしない、むしろ親身に相談に乗ってあげていたわ』って言ったのよ。そしたらリリアナ、『やっぱりそうなのね。あの子の言うことは嘘だらけなんだわ』ってまた怒ってたわ」
どうやらマデリンは、私にはリリアナの悪口を、リリアナには私の悪口を言っていたようです。そして『可哀想なマデリン』という同情を集めて注目されたかったみたい。
こうなってみると、夫や義母から冷たくされているというのも嘘だったのかもしれません。もしくは、ちょっとした事を大袈裟に言っていたのかも。
それなのに十年もマデリンの言うことに振り回されてきた私は本当に馬鹿だったんだなあ、と思います。
常にマデリンに同情し、話を聞き、慰めの言葉をかけ続けた私は、マデリンにとって『悲劇のヒロイン気分』を味わえる格好の依存先だったのでしょう。
私はもうこの際だからと、これまでの事をすべてジョイスとケリーに話しました。
「まあ、セシリア……あなたって何て人がいいの。こんなに長い間マデリンに付き合うなんて」
「私達に相談してくれたら良かったのに。一人で抱えて辛かったでしょう」
二人は、以前からマデリンのことを信頼していなかったそうです。
「セシリアが強く言えないから調子に乗ったんでしょうね。セシリアは他人に秘密を言いふらすこともしないし」
「ありがとう、二人とも……私が人を見る目が無かっただけなのね。去年ブライアンに相談してやっと、マデリンがおかしいと気付くことが出来たの。もっと早く、学生時代に二人に相談していればこんなに長く悩むことなかったのね」
「まあ、こうなる前に縁を切っておいて良かったわね。そうでなかったら、ここに転がり込んで来てたわよ、きっと」
「有り得るわね。『義母に虐められて追い出された!』とか言って」
「……ありそうで怖いわ」
私は震える真似をして、二人と一緒に笑いました。
その後、マデリンから一度だけ手紙が来ましたが、ブライアンが先に中を読んで
「君が見る必要はないよ」
と言って暖炉の火に投げ込みました。また、同情を誘うようなことが書いてあったそうです。
「マデリンが今こうなっているのは誰のせいでもない。自分のせいなんだ。それがわからないうちは関係を修復するべきではないだろう」
「ありがとう、ブライアン。あなたがいてくれて本当に良かった」
これで、私とマデリンの話はおしまいです。
皆さんも、構ってもらいたがる友人とは早めに距離を置いて下さいね。
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