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52 悲しいニュース
しおりを挟む翌月曜日。幸せな気分で出社した私を衝撃的なニュースが待ち受けていた。
「咲桜ちゃん! 大変大変!」
「どうしたんですか留里さん、そんなに慌てて」
少しだけお腹が大きくなってきた留里さんが走って来ようとしているのでこちらから走って近寄った。
「昨日小森から電話で聞いたのよ。土曜日、川上琴美の結婚式に出席したんだって。そしたら披露宴会場で事件があったって」
「事件? え、怖い」
なんだろう。でも新聞には何も載ってなかったしニュースでも報道されてなかった……はず。
(あ、でも土日は私も浮かれててニュースチェックはしていなかったかも)
「刃傷沙汰ではないのよ。ただね、琴美の披露宴開始を待っていたらガタン、と音がして。そちらを見ると、箱が倒れていて中から写真がバサっと出てきたんだって。それがなんと、琴美のあられもない姿の写真で」
「ええっ?」
「招待客は騒然となっちゃうし、ホテルの人がやって来てすぐに片付けたんだけどその間に別の所にも写真が撒かれていてね。結局、ほとんどの人の目に触れてしまったみたいで」
「まさか……亮太が?」
「わからないの。誰も彼を見た人はいないんだって。それに、古い写真もあったみたいで」
「怖い……誰なんだろう」
「その後披露宴は予定通り行われたんだけど、当然盛り上がらないわよね。柴田くんの親戚関係は沈黙しちゃってるし。司会を担当した営業一課の子が、『地獄だった』って嘆いていたらしいわ」
金曜日、私の前に現れた亮太はずいぶんとサッパリした顔をしていた。いろいろ吹っ切れたのだと思っていたけれど、もしかしたら復讐を決意していたからこそのあの顔だったのでは。
(もしかしたら、私がターゲットになっていたかもしれない……)
私は亮太に絶対、裸の写真は撮らせなかった。リベンジポルノの可能性を、付き合っている時点で考えることはあまり無いのかもしれない。けれど私はネットに恐怖心もあり、ウイルスが侵入して意図せずにばら撒かれることだってあると心配して警戒していたのだ。
もしもそんな写真を撮られていたら今頃拡散されていたかも。そう思うと手が震えた。
その後、総務部宛ての郵便物の中に亮太の退職届が見つかった。
千葉支店長は寝耳に水だったようで、あちらも大騒ぎになっている。しかし電話もメールも繋がらないし部屋も引っ越した後。実家にも帰っていないという。亮太は完全に姿を消した。
「退職届だけでも出してくれてて良かったわね」
留里さんが言う。確かに、これがなかったら解雇もし辛く、面倒なことになっていた。
「どこに行ったんでしょうね……」
「まだ若いんだしどこでもやり直しはきくでしょう。咲桜ちゃんが気に病むことはないわよ」
「そう、ですね……」
結婚式後は有休を消化して退社する予定だった琴美は、一度も顔を出すことなく会社を辞めた。
その後柴田から届が出されてわかったのだが、既に離婚していたらしい。
私は琴美の顔を思い出して悲しい気持ちになった。ムカつくこともあったけど、彼女はそもそも二股された被害者でもある。
私が婚約指輪を選んだ時の楽しい気持ちを思い出すと、きっと琴美も結婚準備を楽しんでいたに違いないと思えて可哀想になる。
本人は私からの同情なんてお断りだときっと思うだろうけれど。
「柴田くんが器のちっさい男だっていうのもあるわね」
留里さんも琴美に同情していた。
「若いお嫁さんをもらうことだけ考えてたんでしょ。本当に琴美を好きだったのか疑問だって小森も言ってたわ。とにかくメンツを潰されたことに腹を立てていたみたいね。腹を立てるなら、写真をばら撒いた犯人にでしょうに」
亮太が犯人かどうかはわからないけれど、可能性はかなり高い。浮気して二股して、復讐までして。そして自分は綺麗サッパリと消えて清算したつもりになって、どこかでまた誰かと付き合うのだろう。本当に最低な男。
(私は蒼で良かった。蒼に出会えて、ホントに本当に良かった……)
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