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34 蒼の回想②

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 それは突然のことだった。両親が離婚するって。しかも、金曜日に東京へ向かい、そのままアメリカに渡るって。

 俺にとっては突然だったが、おそらく両親は長いこと話し合っていたんだろう。
 母は英語が堪能な人だったから、心機一転という意味合いもあったのかもしれない。ずいぶんと思い切ったものだ。
 俺には父のもとに残る選択肢は残されていなかった。父は不倫相手と再婚するのが決まっていたからだ。

 南野のことは気になっていたが自分のことでいっぱいいっぱいになってしまい、結局何もしないまま学校を去ってアメリカに渡った。

 けれどどうしても忘れられず、一度だけ母に我儘を言って地元に戻ったが、彼女は既にそこにはいなかった。

 それからも心の片隅には南野がいた。けれど時間が経つうちに、その想いは甘酸っぱい初恋として時々思い出す宝物へと変わっていった。

 アメリカで友人ができ、何人か彼女もでき、進学して就職して。このままアメリカで生きていく覚悟はすっかりできていた。

 だが日本で働くチャンスが回ってきたのだ。これが最後だと思い、俺は日本へ向かった。もしかしたら咲桜に偶然会えるかもしれない。

 仕事に忙殺されながらも俺は友人の伝手を頼って行方を追った。しかし咲桜にはどうしても辿り着けなかった。

 三年が経ち仕事も軌道に乗っている。そろそろ支社長も交代する頃合いだ。俺が日本にいるのも長くてあと一年だろう。

(結局、咲桜には会えなかったな……)

 ほぼ諦めていたあの日、雨が降った。そして――咲桜に再会したのだ。


 まさかの再会。あまりに突然で、俺は一気に思春期に戻ってしまい上手く喋れなくなった。
 ずっと会いたかった咲桜が目の前にいるのだ。あの頃より大人びた顔で、でも焦ると早口で喋るところは昔と変わってなくて。
 とにかく、このままでは彼女が風邪を引いてしまうから『無限』に誘おうと決めた。
 
 髪を拭いている俺を咲桜は物珍しそうに見ている。

「何だよ、その珍獣でも見たような反応は」

 ついそんな言葉を返してしまった。

(ああ、また。俺は中二か、まったく)

「だって十五年振りだよ? 十五年って人生の半分だもの。長かったよ……」

 確かにそうだ。二十九歳の俺たちにとって、十五年は長い。

「そうだな。長かった」

 咲桜の言葉に同意しかなかった。

 その後、ママの美味しい定食で場が和み、美味しそうに食べている咲桜を見ていると、もっとこの笑顔が見たいと思い始めていた。
 それなのに食後のコーヒーを飲みながら、俺は少し恨み言を言ってしまった。里帰りしたけどいなかったこと、誰も連絡先を知らなかったこと、SNSにも痕跡がなかったこと。咲桜に言ったって仕方のないことなのに。心の中に眠っていたあの頃の幼い俺がそうさせたのだろうか。

 すると咲桜はジャージをまだ持っていると言ってくれた。そして今度持ってきてくれると。
 拗ねていた自分が恥ずかしい。何やってるんだ、俺。

 連絡先を交換した帰り道、俺はかなり浮かれていた。もう一度会う口実ができたことが嬉しかったのだ。
 家に帰ってすぐ、『明日会おう』とLIMEを送った。来週なんて遠すぎる。早く十五年の空白を埋めたかった。





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