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20 亮太視点③

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(なんだ、この男は)

 背がかなり高くてイケメン。そいつが咲桜の肩を抱いて、そして彼女に甘い微笑みを向けている。まるで恋人のように。

「南野さん、それ、誰?」

 ポカンとした顔で琴美が訊ねている。琴美のやつ、なんでそんなに顔を赤くしてるんだ?

「咲桜の彼氏ですが何か?」
「嘘っ」

 琴美は即座に否定した。俺も信じられない。あの奥手の咲桜がこんな目立つ男と一緒にいるなんて。

「さ、咲桜、どういうことだよ? もう新しい男ができたのか?」

 お前は俺に振られてショックを受けてたじゃないか。俺に結婚を迫っていたのはついこの間のことじゃないか。まだ俺を好きなはずじゃなかったのか。

「咲桜って呼ぶな」

 男が怒りのこもった声で言った。

「彼女は俺の大切な人だ。軽々しく呼び捨てにされたくない」

 そうしてそいつは咲桜の手を握ると、微笑んで立ち去って行く。そんな二人を俺はただ呆然と見送るしかできなかった。

「嘘。嘘よ、あんな素敵な人があんなおばさんと。絶対レンタル彼氏に決まってる。亮くん、騙されちゃダメよ」

 琴美が口を尖らせて早口で喋っている。いつもの口調と全然違う。どっちが本当の琴美なんだろう。

(レンタル彼氏か……もしかしたら有り得るかもしれない。俺に見せつけたくてひと芝居打ったのだと考えたら納得できる。だって咲桜は、男を簡単に乗り換えるような器用な女じゃないんだから)

「おい、まだ二次会会場に向かわないのか?」

 外の喫煙スペースに行っていた同期が二人、ホールに戻って来た。

「あ、ああ。今行く」

 俺の後ろで全てを見ていた同期たちの視線が痛い。俺と琴美はどんな風に思われているんだろう。

 そんな俺の気持ちを知らずに、彼らは言葉を続ける。

「なあなあ、今そこで南野がすげえイケメンと車に乗って帰って行くの見たぞ。それがなんと、アウディのA7スポーツバックだぜ。俺らくらいの年でそんなの乗るなんてめっちゃ羨ましいな」

(は? そんな車に乗ってる男がレンタル彼氏のわけないよな。じゃあやっぱりあれは彼氏……?)

「もう、亮くんたら! もういいでしょぉ? そんなことより早くお友達に琴美を紹介して?」

 俺の腕に絡みついて拗ねた顔をしている琴美。なぜだろうか、咲桜の美しさを見てからは琴美の仕草が可愛く思えない。ただただ子供みたいだ。

「あ、ああ……えっと、俺が今付き合ってる川上琴美さん。同じ部署だ」

 とりあえず琴美を紹介したが、同期たちが皆ニヤニヤ笑っているように見える。あんないい女を振ってこんな女を選んだのかと言われている気がしてしょうがない。

「よろしく、琴美ちゃん。若い彼女で羨ましいよ」
「やだぁ~、そんなことないですよぉ。若すぎて至らないことばかりですけどぉ、よろしくお願いしますねぇ~」

 琴美の甘ったるい声を聞きながら、俺の選択は本当に正しかったのか、実は間違いだったのではないかと後悔が胸に押し寄せていた。
 
 
 
 
 
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