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眠れぬ夜の向こうに
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「母上、支度は出来たのですか?」
「ああシン、ちょうど出来上がったところよ。入ってらっしゃい」
シンは控え室の母の元に走って来た。十歳になったシンは、母が舞台で着る衣装を身に付けているのが大好きだ。ジャラジャラといろんな飾りを付けて、きらびやかな衣装をまとった母はとても綺麗だ。
「母上、今日もお芝居頑張ってくださいね! 私は、客席で応援しています」
「ありがとう、シン。アレス達も一緒なの?」
「はい! クラウディアも」
「そう。じゃあ、みんなと一緒にいてね。舞台が終わったらお父様とそちらに行くわ」
「はい! では、母上」
シンはアイナの頬にキスをして、客席に戻って行った。
アルトゥーラは双龍の加護を受け強大な力を持った国としてだけでなく、平和を愛する芸術の国としても知られる存在になった。王都に立派な劇場を作り、楽団や劇団が一年中、いつでも公演が出来るようにしたのだ。
収穫感謝祭のような舞台イベントも年に何回か開き、その度に各国から観光客が押し寄せるようになった。
なかでも人気はやはりアイナの芝居と歌で、年に一度だけ『星の芸術祭』で披露する王妃の舞台を、たくさんの人が楽しみにやってくるのだ。
ドアがノックされ、レイが入ってきた。
「アイナ、そろそろだな」
「レイ、来てくれたの。シンがさっきまでここにいたわ。クラウディア達と客席にいるって」
「そうか。ダグラス達も合流すると思うぞ。今日はダグラスも家族サービスで休みを取ったらしいからな。クラウディアもパパが一緒で喜んでいるだろう」
「ダグラスは相変わらず忙しいものね。将軍ともなると、休みはなかなか取れないし」
「私だって休み無しだぞ? まあ、いつもアイナやシンと一緒にいるけれども」
「ふふ、そうね。結局、私達執務室でずっと過ごしているから」
「そうだ、今日はシオンが来てくれているぞ。さっき、マルシアと一緒に挨拶しに来た」
「あら、そうなの? 嬉しいわ。双子の王子も?」
「ああ、元気な子供達だ。今日はマルシアがアイナの芝居を観る間シオンが二人とも面倒みるらしい」
マルシアは、何度もアルトゥーラに通っている時に偶然シオンと出会い、一目惚れしたらしい。歳の差はかなりあるのだが、それがマルシアにはかえって良かったそうだ。
「同じ年代の男性には無い魅力がシオン様にはあるのですわ、アイナお姉様! カストールも、今では緑の多い土地に変わって、暮らしぶりもだいぶ良くなりました。いつか、カストールにも劇場を作って、私好みの舞台を毎日上演させてみせますわ!」
結婚報告の時にそう言っていた。元気な年若い王妃を、シオンも可愛くてしょうがないみたいだ。
「ねぇレイ。私、今とっても幸せよ」
「アイナ。私だって」
「毎日毎日、今が一番幸せだって思えるの。こんなに素晴らしいことってあるかしら」
「そうだな。そして明日は今日よりももっと幸せに違いない」
二人はそっとキスをした。
アイナは昔のことを思い出していた。ハクと毎日一緒に眠っていたこと。離れ離れになって、上手く眠れなくなった四年間のこと。そして再会、プロポーズ。たくさんの人に出会ったこと。全てが今日に繋がっている。
――眠れない夜もあったわ。だけど、それを乗り越えた後に素晴らしい日々が待っていた――
アイナは、観客の拍手に導かれ、舞台へ出て行った。愛する人々に見守られながら。
「ああシン、ちょうど出来上がったところよ。入ってらっしゃい」
シンは控え室の母の元に走って来た。十歳になったシンは、母が舞台で着る衣装を身に付けているのが大好きだ。ジャラジャラといろんな飾りを付けて、きらびやかな衣装をまとった母はとても綺麗だ。
「母上、今日もお芝居頑張ってくださいね! 私は、客席で応援しています」
「ありがとう、シン。アレス達も一緒なの?」
「はい! クラウディアも」
「そう。じゃあ、みんなと一緒にいてね。舞台が終わったらお父様とそちらに行くわ」
「はい! では、母上」
シンはアイナの頬にキスをして、客席に戻って行った。
アルトゥーラは双龍の加護を受け強大な力を持った国としてだけでなく、平和を愛する芸術の国としても知られる存在になった。王都に立派な劇場を作り、楽団や劇団が一年中、いつでも公演が出来るようにしたのだ。
収穫感謝祭のような舞台イベントも年に何回か開き、その度に各国から観光客が押し寄せるようになった。
なかでも人気はやはりアイナの芝居と歌で、年に一度だけ『星の芸術祭』で披露する王妃の舞台を、たくさんの人が楽しみにやってくるのだ。
ドアがノックされ、レイが入ってきた。
「アイナ、そろそろだな」
「レイ、来てくれたの。シンがさっきまでここにいたわ。クラウディア達と客席にいるって」
「そうか。ダグラス達も合流すると思うぞ。今日はダグラスも家族サービスで休みを取ったらしいからな。クラウディアもパパが一緒で喜んでいるだろう」
「ダグラスは相変わらず忙しいものね。将軍ともなると、休みはなかなか取れないし」
「私だって休み無しだぞ? まあ、いつもアイナやシンと一緒にいるけれども」
「ふふ、そうね。結局、私達執務室でずっと過ごしているから」
「そうだ、今日はシオンが来てくれているぞ。さっき、マルシアと一緒に挨拶しに来た」
「あら、そうなの? 嬉しいわ。双子の王子も?」
「ああ、元気な子供達だ。今日はマルシアがアイナの芝居を観る間シオンが二人とも面倒みるらしい」
マルシアは、何度もアルトゥーラに通っている時に偶然シオンと出会い、一目惚れしたらしい。歳の差はかなりあるのだが、それがマルシアにはかえって良かったそうだ。
「同じ年代の男性には無い魅力がシオン様にはあるのですわ、アイナお姉様! カストールも、今では緑の多い土地に変わって、暮らしぶりもだいぶ良くなりました。いつか、カストールにも劇場を作って、私好みの舞台を毎日上演させてみせますわ!」
結婚報告の時にそう言っていた。元気な年若い王妃を、シオンも可愛くてしょうがないみたいだ。
「ねぇレイ。私、今とっても幸せよ」
「アイナ。私だって」
「毎日毎日、今が一番幸せだって思えるの。こんなに素晴らしいことってあるかしら」
「そうだな。そして明日は今日よりももっと幸せに違いない」
二人はそっとキスをした。
アイナは昔のことを思い出していた。ハクと毎日一緒に眠っていたこと。離れ離れになって、上手く眠れなくなった四年間のこと。そして再会、プロポーズ。たくさんの人に出会ったこと。全てが今日に繋がっている。
――眠れない夜もあったわ。だけど、それを乗り越えた後に素晴らしい日々が待っていた――
アイナは、観客の拍手に導かれ、舞台へ出て行った。愛する人々に見守られながら。
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