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エルシアン王国訪問
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婚姻の儀から二か月後、レイとアイナはエルシアン王国を訪問していた。マルシアの要望もあったが、一番の目的は調印式だ。アルトゥーラとエルシアンは正式に同盟を結び、友好を誓い合うことになったのである。
「今日、我々は永遠の友情を誓い合った。なんとめでたいことだ。これからは両国共に発展していこうではないか」
調印式後の祝賀の席でエルシアン王はご機嫌だった。どの国よりも早く、アルトゥーラと同盟を結ぶことが出来たからだ。
「お父様、ご覧くださいな。レイ陛下とアイナお姉さまの美しいことったら」
第三王女マルシアは自分は踊りの輪に加わらず、フロアの中心で優雅に舞うレイとアイナを見るのに夢中だった。
「マルシア、龍の二人も見事ではないか」
「ええ、そうね。背が高くて金色の瞳の、人ならざる者たち……なんて素敵。目の保養ですわ」
マルシアは今日のために雇った絵師に、この美しい二組のスケッチをどんどん描かせていた。後で部屋に飾るつもりなのである。
「コウ、二か月でよくダンスを覚えましたね」
アレスがニコニコして言った。
「あっ、コラ、話しかけるな! ステップが頭から飛んでいくじゃねーか」
婚姻の儀以来、コウは社交の場でのアイナの警護のためドレスを着て参加することになった。そのため、この二か月はマナーとダンスの特訓に明け暮れていたのだ。
『ダンスの途中で怪しい輩に襲われないとも限りませんからね』
ダグラスが言っていた。
『私とエレンは遠くから不審者チェックをしていますので、アレス様達はフロアでの警護をお願いします』
「んなこと言われたって、俺、周りを見る余裕ねーよ」
ガチガチの顔で踊りながらコウが嘆いた。
「大丈夫ですよ、コウ。私がちゃんと見てますから」
「……うん。頼むな、アレス」
アレスの上手なリードの甲斐あって、傍から見るととても優雅に踊っているようだった。
他国の招待客たちは、アルトゥーラの双龍と、その龍を従える若く美しい二人を羨望の眼差しで見つめていた。次は自分の国と同盟を結んでもらおうと、皆、水面下で順番争いをしていたのだった。
この日はアイナにとって王妃として初めての外国訪問だった。パーティーが終わり、用意された部屋に戻るとさすがに大きなため息が出た。
「大丈夫か? アイナ。疲れただろう」
「身体というより、気疲れね。ずっと緊張していたの。舞台よりも何倍も緊張したわ。こんなことをいつも一人でこなしていたなんて、レイはすごいのね」
「慣れもあるからな。アイナも、数をこなせばどうってことなくなるさ。それに、私だけじゃない、アレスもコウも、ダグラスもエレンもいるから心強いだろう?」
「本当にそうね。みんなのおかげでなんとか無事乗り越えることが出来たわ。コウは、私以上に緊張しちゃってちょっとかわいそうだったけど」
「ははっ、そうだな。ダンスの時は顔面蒼白になってたもんなあ」
「アルトゥーラに戻ったらゆっくり休ませてあげなくちゃ」
「アイナもだぞ。疲れを溜めないようにな」
「ええ、ありがとう。でもレイ、私のことより気になることがあるの――」
その頃コウは、隣の部屋でぐったりしていた。
「筋肉痛なんてないはずなのに、脚が痛い気がするよ」
「よっぽどダンスが嫌なんですねえ。ちょっと力が入り過ぎですよ。もう少し力を抜かないと」
「お前はダンス上手だよなあ」
「まあ、千年もここで生活していますからね」
「……なあ、アレス」
「はい?」
「近頃アッシュ、しんどそうだよな」
「……そうですね。ロビンも心配しています」
「アイナも気にしてるんだ。エルシアンで、アッシュの好きそうなお土産をいっぱい買って帰るって言ってた」
「アッシュがもし逝ってしまったら……ロビンはどうするのでしょうね」
「うん。俺としては、ロビンともまだ一緒にいたい。だけどそのためには、誰か人間が契約しないとダメなんだよな」
「ええ。でもそうすると、その人間は五百年以上生きることになる。難しい問題です」
「アレスはさ、ずっとアルトゥーラの王に仕えてきたんだろ? その中で、特別な存在っていた?」
「そうですね。ガイアス王はもちろん特別です。それ以外だと……やはりレイ陛下ですね。陛下だけでなくアイナ様やコウ、アッシュやロビン。それにダグラスやエレン、マーサのことも大好きです。大きな家族の様な、そんな気がしているのです」
「そうだよな。俺もなんだ。ずっと、このままみんなといたい。でも……みんな、俺より先に逝ってしまうんだ」
二人は黙り込んだ。今が楽しいほど、喪失感は大きなものになるだろう。その時を想像するだけでも辛く感じていた。
「今日、我々は永遠の友情を誓い合った。なんとめでたいことだ。これからは両国共に発展していこうではないか」
調印式後の祝賀の席でエルシアン王はご機嫌だった。どの国よりも早く、アルトゥーラと同盟を結ぶことが出来たからだ。
「お父様、ご覧くださいな。レイ陛下とアイナお姉さまの美しいことったら」
第三王女マルシアは自分は踊りの輪に加わらず、フロアの中心で優雅に舞うレイとアイナを見るのに夢中だった。
「マルシア、龍の二人も見事ではないか」
「ええ、そうね。背が高くて金色の瞳の、人ならざる者たち……なんて素敵。目の保養ですわ」
マルシアは今日のために雇った絵師に、この美しい二組のスケッチをどんどん描かせていた。後で部屋に飾るつもりなのである。
「コウ、二か月でよくダンスを覚えましたね」
アレスがニコニコして言った。
「あっ、コラ、話しかけるな! ステップが頭から飛んでいくじゃねーか」
婚姻の儀以来、コウは社交の場でのアイナの警護のためドレスを着て参加することになった。そのため、この二か月はマナーとダンスの特訓に明け暮れていたのだ。
『ダンスの途中で怪しい輩に襲われないとも限りませんからね』
ダグラスが言っていた。
『私とエレンは遠くから不審者チェックをしていますので、アレス様達はフロアでの警護をお願いします』
「んなこと言われたって、俺、周りを見る余裕ねーよ」
ガチガチの顔で踊りながらコウが嘆いた。
「大丈夫ですよ、コウ。私がちゃんと見てますから」
「……うん。頼むな、アレス」
アレスの上手なリードの甲斐あって、傍から見るととても優雅に踊っているようだった。
他国の招待客たちは、アルトゥーラの双龍と、その龍を従える若く美しい二人を羨望の眼差しで見つめていた。次は自分の国と同盟を結んでもらおうと、皆、水面下で順番争いをしていたのだった。
この日はアイナにとって王妃として初めての外国訪問だった。パーティーが終わり、用意された部屋に戻るとさすがに大きなため息が出た。
「大丈夫か? アイナ。疲れただろう」
「身体というより、気疲れね。ずっと緊張していたの。舞台よりも何倍も緊張したわ。こんなことをいつも一人でこなしていたなんて、レイはすごいのね」
「慣れもあるからな。アイナも、数をこなせばどうってことなくなるさ。それに、私だけじゃない、アレスもコウも、ダグラスもエレンもいるから心強いだろう?」
「本当にそうね。みんなのおかげでなんとか無事乗り越えることが出来たわ。コウは、私以上に緊張しちゃってちょっとかわいそうだったけど」
「ははっ、そうだな。ダンスの時は顔面蒼白になってたもんなあ」
「アルトゥーラに戻ったらゆっくり休ませてあげなくちゃ」
「アイナもだぞ。疲れを溜めないようにな」
「ええ、ありがとう。でもレイ、私のことより気になることがあるの――」
その頃コウは、隣の部屋でぐったりしていた。
「筋肉痛なんてないはずなのに、脚が痛い気がするよ」
「よっぽどダンスが嫌なんですねえ。ちょっと力が入り過ぎですよ。もう少し力を抜かないと」
「お前はダンス上手だよなあ」
「まあ、千年もここで生活していますからね」
「……なあ、アレス」
「はい?」
「近頃アッシュ、しんどそうだよな」
「……そうですね。ロビンも心配しています」
「アイナも気にしてるんだ。エルシアンで、アッシュの好きそうなお土産をいっぱい買って帰るって言ってた」
「アッシュがもし逝ってしまったら……ロビンはどうするのでしょうね」
「うん。俺としては、ロビンともまだ一緒にいたい。だけどそのためには、誰か人間が契約しないとダメなんだよな」
「ええ。でもそうすると、その人間は五百年以上生きることになる。難しい問題です」
「アレスはさ、ずっとアルトゥーラの王に仕えてきたんだろ? その中で、特別な存在っていた?」
「そうですね。ガイアス王はもちろん特別です。それ以外だと……やはりレイ陛下ですね。陛下だけでなくアイナ様やコウ、アッシュやロビン。それにダグラスやエレン、マーサのことも大好きです。大きな家族の様な、そんな気がしているのです」
「そうだよな。俺もなんだ。ずっと、このままみんなといたい。でも……みんな、俺より先に逝ってしまうんだ」
二人は黙り込んだ。今が楽しいほど、喪失感は大きなものになるだろう。その時を想像するだけでも辛く感じていた。
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