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魔術のレッスン 2

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結婚式まであと二週間となり、準備は着々と進んでいた。アイナのドレスも出来上がり、最後のフィッティングに入っていた。

「アイナ様、この辺きつくないですか?」

「大丈夫よマーサ。あと半月、このウエストを維持しないといけないけどね」

「ブルーのドレス、大変お似合いです、アイナ様」

「ありがとうエレン! でも本当はあなたの金髪の方がこのドレスに映える気はするわ」

「私の正装は軍服ですから。このようなドレスを着ることはないでしょうね」

「そうなの? 勿体ないわ。ドレスを着てダグラスと並ぶとすごくお似合いだと思うんだけど」

 エレンは少し顔を赤らめた。が、すぐに咳払いをすると、

「フィッティングが終わりましたら、レッスン致しましょう。今日は、コウ様も一緒に」

「コウも?」

「はい。火を使った魔術をやってみようかと」




 フィッティングが終わり、アイナとエレンとコウ、そしてアレスは王宮の裏にある馬場に来ていた。

「室内で火の魔術は使えませんから」

 この馬場ではアイナも週に一度、乗馬のレッスンを受けている。かなり広い場所であるから、魔術の練習には良さそうだ。

「ただ、申し訳ありませんが、私には火や水の魔術は使えないので教えることが出来ません。これは龍の加護を持つ方しか出来ないことなのです。だからアレス様とコウ様にも来ていただきました」

 アレスが、エレンに尋ねた。

「エレン、アイナ様はもう手のひらに魔力を集めることは出来るようになりましたか?」

「はい、アレス様。まだ少し時間がかかりますが、充分お出来になります」

「そうですか。ならば簡単です」

 アレスはアイナの方に身体を向けた。

「アイナ様、利き手ではない方の手のひらに魔力を集めて下さい」

「わかったわ」

 アイナは皆に見られる中で緊張していたが、何とか言われた通りにした。

「手のひらを上に向け、『火よ、我に力を』と詠唱してみて下さい」

「……火よ。我に力を」

 するとアイナの左手の上に、小さな火が灯った。

「えっ?!  凄い」

「出来ましたね。それでは利き手で自分の飛ばしたい方向へ向けて火を放って下さい」

「こうかしら……?」

 アイナが右手の人差し指を右方向へ弾くと、火がそちらへ飛んで行った。

「あっ! 大変、芝生が燃えちゃう」

「大丈夫です」

 アレスが、ちゃんと水のカーテンを用意しており、火はそこに当たって消えた。

「ああ、良かった」

「ではコウ、後はお前が」

「はーい。アイナっち、手のひらの火をさあ、丸いボールにするイメージを思い浮かべて」

「ええ? うーーんと……はい、思い浮かべました」

「そしたら、ほら、炎がまん丸になったでしょう?それを握ってー、ボールみたいに遠くへ投げる!」

「ちょ、ちょっと待って! これ、熱くないの?」

「大丈夫だよ。アイナっちには熱く感じないはず」

 恐る恐る、アイナは火の球を持ってみた。確かに、熱くは感じない。
 
「これを遠くへ……えいっ!」

 アイナは思い切って投げてみた。すると火の球はあまり飛ばずに、ほぼ足元に落ちた。

「あ――、私、ボール投げるの苦手だったわ……」

「なるほど。これは、ボール投げの練習の方が必要だな!」

 コウが笑いながら言った。

「もっと慣れてきたら自在に操れるようになるよ。大きな炎も出せるかも。まだまだ練習が必要だけどね」

「練習には私が付き添いますから声を掛けてください。火事になったら困りますからね」

「もちろんよ、アレス。絶対に声掛けるわ。王宮を燃やしちゃったら弁償できないもん」

 四人は声を出して笑った。



 その頃、執務室にいるレイとダグラスの元に早馬の使者が来ていた。

「ご報告いたします。セランの領主より、『カストール軍から攻撃されている。至急応援を願いたし』とのことです」

「やはり動いたか」

「はい。ただ、気になるのがその攻撃のことです」

「どういうことだ」

「単なる攻撃ではないのです。アルトゥーラ軍の駐屯地が突然闇に包まれ、兵士が皆倒れて動かなくなってしまいました。そこへカストール軍が侵入し、セランの街を占拠し始めたのです」

「……これは……魔術が関係あるな、ダグラス」

「そうですね。普通ではありません」

「魔術で攻撃されるのは初めてだ」

「アレス様に聞いてみる必要がありますね」

「よし。今来た使者は休ませろ。セラン周辺の軍隊を応援に派遣するよう使者を出せ。カストール軍をセランから外に出すな」

 嫌な予感が当たってしまった、とレイは苦々しい気持ちになりながらアレスを呼んだ。
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