18 / 49
紅い龍 3
しおりを挟む
――それは遠い昔のことです。私は暗闇にただ存在する『意識』の塊でした。
やがて手足が、そして尻尾が認識できるようになり、自分の姿がわかってきました。
近くには私と同じ手足、尻尾を持つものがいました。紅い龍と黒い龍です。
洞窟の中にいた私達は何故だか動くことは出来ず、長い間そこでじっとしていました。
やがて人間が現れ、黒い龍が出て行きました。続いて紅い龍も。それきり、どちらとも会っていません。
そして千年前にガイアス王が洞窟の奥に現れ、私に魔力を与えてくれました。
魔力を得た私は動けるようになり、初めて洞窟の外に出ました。その時、世界はこんなに美しいものだと知ったのです。
それまでの私は、ただ無為に時間を過ごすだけでした。飢えも渇きも感じないし死ぬことも無い。何のために生まれてきたのかもわからない私に、王は名前をつけて下さった。そしてそれから私の世界は広がっていったのです。
私と契約を結んだ王は水の魔法が使えるようになり、あっという間に諸国を統一しました。
アルトゥーラを建国する際に、王は新たに私と血の契約も結んで下さいました。ガイアス王の血筋が続く限り、私に魔力を与えると。そして、アルトゥーラの大地と水を護っていくという大役を与えて下さったのです。
それから私は、たくさんの王たちと時間を過ごし、その間ずっと大地と水を護り続けてきました。これは私にとって誇りであり、生きる目的となりました。
私は、今までもこれからも、アルトゥーラと共にあることが幸せなのです。
―――――――――――――――――
「お分かりいただけましたか?」
「……ああ、よく分かったよ。アレスが、ただ契約に縛られて歴代の王に従ってきたんじゃないってこと」
「本来なら、父王から伝えられる事柄です。しかしレイ陛下は、早くに父王を亡くされたので」
「そうだな。他にも色々、教わっていない事があるのかもしれない」
「もう一つ、言っておかねばなりません。王の子供は必ずお生まれになります」
「そうなのか?!」
アイナも、目を見開いて聞いていた。
「はい。王子になるか王女になるかは分かりませんが、必ずお一人、生まれてきます。ですが、二番目以降は望んでも生まれることはありません。お一人だけに魔力が集中するようにではないでしょうか」
「ガイアス王の力なんだろうか」
「私には分かりませんが……何らかの力が働いているのかと思います。だからアイナ様、ご心配なさらないで下さい」
「……アレス、私が悩んでいた事知っていたの?」
アレスは優しく微笑んだ。
「いいえ、今までにもたくさんの王妃がこの事で悩んでいらしたので、アイナ様もそうかと」
「アレス……ありがとう」
アイナはうっすらと涙ぐんでいた。アイナに取って、かなり重い事だったのだとレイは改めて感じた。
「アレス、私からも礼を言う。大事なことを今この時に言ってくれてありがとう」
レイとアレスは固く握手を交わした。アイナも、二人の手の上に自分の手を重ねた。
「ありがとう。私、覚悟が足りなかった。もっと強くならなくちゃ駄目ね」
三人は目を見合わせて微笑んだ。
アイナは、涙がこぼれそうになったのをごまかそうとして頭を軽く振った。
「わ、私、あっちに咲いているお花を摘んでくるわね。今日の思い出にしたいの」
そう言って森へ向かって歩き始めた。二人はそれを察して、湖の方を眺める振りをした。
アイナが花の咲いている方へ向かっていると、ふと光る物が目に入った。太い木の幹に、綺麗な石の矢じりが刺さっている。矢じりの先にトカゲが磔にされていた。
「子供の悪戯かしら、かわいそうに。せめて、埋めてあげましょう」
アイナは矢じりを持って幹から引き抜いた。トカゲを地面にそっと置くと、驚いたことに手足が微かに動き始めた。
「まだ生きていたの?乾いてるから死んでしまっていると思ってたのに」
その時、アイナの手に持っていた矢じりが白く光り始めた。
「えっ? 何?」
瞬く間に光はアイナと、トカゲを包み込んだ。そして、トカゲはどんどん大きくなり、紅い龍の姿に変化していった。その間、白い光はあふれ続けている。
「あなたは……アレスの仲間ね?」
その時、アレスが大声で叫んだ。
「アイナ様、名前を! その龍に名前を付けて下さい! そして契約を!」
アレスの必死の形相に驚いたアイナは、慌てて名前を考えた。
「あなたは……紅いからコウ! コウ、私のために力を使いなさい!」
以前草原でレイとアレスが契約した時を思い返して、それらしき言葉を発してみた。すると紅い龍が叫んだ。
「くっそう、蒼龍! お前、なんてことしやがる!」
だがすぐに金色の円陣がアイナと龍の周りに現れ、龍は頭を垂れて大人しくなった。やがて白い光は消え、紅い龍は人間の女性の姿に変化していた。
「蒼龍、てめぇ、よくもやってくれたな! 契約、完了しちまったじゃないか!」
ふわふわとカールした紅いショートヘア、瞳はアレスと同じく金色でキリリとした眼差しである。背も高く、抜群に良いスタイルで美しいのだが、言葉は乱暴で見た目とのギャップが激しかった。
アレスは、珍しく満面の笑顔で紅い龍を見つめている。
「すぐに逃げて行きそうだったのでね。せっかくのチャンスだし、鎖を付けさせていただきました」
「なんだよ! 俺は自由が好きなのに、アホ蒼龍!」
「アホとは失敬な。それに私は今、アレストロンという名前を賜っています。アレスと呼んでください」
「アレストロン?なんか強そうでカッコいいな。俺は、なんでコウなんだよ……」
「あ、ごめんなさい。それ、私がつけました……」
「アイナのネーミングセンスは独特だからな。色を外国語で言い変えただけという。私も白いからハク、だし」
レイがニヤニヤしながら茶化してきた。
「うっ。ご、ごめん。でも短くて言いやすいよ?」
「そうだよ。ご主人様のこと悪く言うなよ」
コウが割って入った。
「なんだ、急にアイナの味方になったな」
「可愛らしいご主人様だからな! 気に入ったよ。よろしくな」
「こちらこそ、コウさん。アイナです、よろしくお願いします」
「コウでいいよ!アイナっち」
「えっ、アイナっち?」
「もうこうなったからには仲良くやろうぜ。なっ、アレスと、えーと」
「レイだ。アイナに龍がついてくれるとは頼もしいな。よろしく頼むぞ、コウ」
「オッケー、レイね! よろしく」
「待て待て、コウ。この方はアルトゥーラ王国の王、レイ陛下だ。ちゃんと陛下と呼べ、陛下と」
「えー、堅苦しいこと言いっこ無しだぜ」
「まぁいいじゃないか、アレス。コウは今現れたばかりだ。これから色々教えてやるといい」
「……わかりました」
アレスも渋々納得した。
「ねえハク、コウはこの木の幹に矢じりで刺されていたの。それまでは、トカゲくらい小さかったわ」
「コウ、お前封印されていたのか?」
「いや、俺もわかんない。なんで木の幹に磔にされてたのか、何も覚えてないんだ。気がつけば、アイナっちの魔力で元の姿に戻れていた」
「おかしいな。アイナに魔力はなかったはずだ」
「そうですね。でも今は確かに、アイナ様から魔力を感じます」
「魔力があったなら私やアレス、ダグラスだって気がついたはずなんだが。この矢じりに何か関係あるのだろうか」
レイは石で出来た矢じりをまじまじと見つめたが、普通の石となんら変わりはなかった。
「とにかく王宮に帰ろう。調べてみる必要があるし、もう夕方だ。マーサが心配する」
アレスがコウに聞いてみた。
「コウ、空は飛べそうですか?」
「ああ、飛べるだけの魔力は貰ったよ。久しぶりだから嬉しいな」
そう言って龍の姿に変化した。
「アイナっち、乗って!」
「うん、乗ってみる」
「ちょ、ちょっと待て。心配だから私も乗る」
「なんだよ男も乗せなきゃいけないのかよー」
「いいから乗せろって」
「じゃあ私も」
「アレス、お前自分で飛べるじゃねーか」
「いいじゃないですか。一人じゃ寂しいし」
このやり取りにアイナはクスクスと笑って、
「なんだか楽しい」
と笑顔を見せた。アイナの笑顔が見れたことに満足した三人は、王宮に向かって飛び立った。
やがて手足が、そして尻尾が認識できるようになり、自分の姿がわかってきました。
近くには私と同じ手足、尻尾を持つものがいました。紅い龍と黒い龍です。
洞窟の中にいた私達は何故だか動くことは出来ず、長い間そこでじっとしていました。
やがて人間が現れ、黒い龍が出て行きました。続いて紅い龍も。それきり、どちらとも会っていません。
そして千年前にガイアス王が洞窟の奥に現れ、私に魔力を与えてくれました。
魔力を得た私は動けるようになり、初めて洞窟の外に出ました。その時、世界はこんなに美しいものだと知ったのです。
それまでの私は、ただ無為に時間を過ごすだけでした。飢えも渇きも感じないし死ぬことも無い。何のために生まれてきたのかもわからない私に、王は名前をつけて下さった。そしてそれから私の世界は広がっていったのです。
私と契約を結んだ王は水の魔法が使えるようになり、あっという間に諸国を統一しました。
アルトゥーラを建国する際に、王は新たに私と血の契約も結んで下さいました。ガイアス王の血筋が続く限り、私に魔力を与えると。そして、アルトゥーラの大地と水を護っていくという大役を与えて下さったのです。
それから私は、たくさんの王たちと時間を過ごし、その間ずっと大地と水を護り続けてきました。これは私にとって誇りであり、生きる目的となりました。
私は、今までもこれからも、アルトゥーラと共にあることが幸せなのです。
―――――――――――――――――
「お分かりいただけましたか?」
「……ああ、よく分かったよ。アレスが、ただ契約に縛られて歴代の王に従ってきたんじゃないってこと」
「本来なら、父王から伝えられる事柄です。しかしレイ陛下は、早くに父王を亡くされたので」
「そうだな。他にも色々、教わっていない事があるのかもしれない」
「もう一つ、言っておかねばなりません。王の子供は必ずお生まれになります」
「そうなのか?!」
アイナも、目を見開いて聞いていた。
「はい。王子になるか王女になるかは分かりませんが、必ずお一人、生まれてきます。ですが、二番目以降は望んでも生まれることはありません。お一人だけに魔力が集中するようにではないでしょうか」
「ガイアス王の力なんだろうか」
「私には分かりませんが……何らかの力が働いているのかと思います。だからアイナ様、ご心配なさらないで下さい」
「……アレス、私が悩んでいた事知っていたの?」
アレスは優しく微笑んだ。
「いいえ、今までにもたくさんの王妃がこの事で悩んでいらしたので、アイナ様もそうかと」
「アレス……ありがとう」
アイナはうっすらと涙ぐんでいた。アイナに取って、かなり重い事だったのだとレイは改めて感じた。
「アレス、私からも礼を言う。大事なことを今この時に言ってくれてありがとう」
レイとアレスは固く握手を交わした。アイナも、二人の手の上に自分の手を重ねた。
「ありがとう。私、覚悟が足りなかった。もっと強くならなくちゃ駄目ね」
三人は目を見合わせて微笑んだ。
アイナは、涙がこぼれそうになったのをごまかそうとして頭を軽く振った。
「わ、私、あっちに咲いているお花を摘んでくるわね。今日の思い出にしたいの」
そう言って森へ向かって歩き始めた。二人はそれを察して、湖の方を眺める振りをした。
アイナが花の咲いている方へ向かっていると、ふと光る物が目に入った。太い木の幹に、綺麗な石の矢じりが刺さっている。矢じりの先にトカゲが磔にされていた。
「子供の悪戯かしら、かわいそうに。せめて、埋めてあげましょう」
アイナは矢じりを持って幹から引き抜いた。トカゲを地面にそっと置くと、驚いたことに手足が微かに動き始めた。
「まだ生きていたの?乾いてるから死んでしまっていると思ってたのに」
その時、アイナの手に持っていた矢じりが白く光り始めた。
「えっ? 何?」
瞬く間に光はアイナと、トカゲを包み込んだ。そして、トカゲはどんどん大きくなり、紅い龍の姿に変化していった。その間、白い光はあふれ続けている。
「あなたは……アレスの仲間ね?」
その時、アレスが大声で叫んだ。
「アイナ様、名前を! その龍に名前を付けて下さい! そして契約を!」
アレスの必死の形相に驚いたアイナは、慌てて名前を考えた。
「あなたは……紅いからコウ! コウ、私のために力を使いなさい!」
以前草原でレイとアレスが契約した時を思い返して、それらしき言葉を発してみた。すると紅い龍が叫んだ。
「くっそう、蒼龍! お前、なんてことしやがる!」
だがすぐに金色の円陣がアイナと龍の周りに現れ、龍は頭を垂れて大人しくなった。やがて白い光は消え、紅い龍は人間の女性の姿に変化していた。
「蒼龍、てめぇ、よくもやってくれたな! 契約、完了しちまったじゃないか!」
ふわふわとカールした紅いショートヘア、瞳はアレスと同じく金色でキリリとした眼差しである。背も高く、抜群に良いスタイルで美しいのだが、言葉は乱暴で見た目とのギャップが激しかった。
アレスは、珍しく満面の笑顔で紅い龍を見つめている。
「すぐに逃げて行きそうだったのでね。せっかくのチャンスだし、鎖を付けさせていただきました」
「なんだよ! 俺は自由が好きなのに、アホ蒼龍!」
「アホとは失敬な。それに私は今、アレストロンという名前を賜っています。アレスと呼んでください」
「アレストロン?なんか強そうでカッコいいな。俺は、なんでコウなんだよ……」
「あ、ごめんなさい。それ、私がつけました……」
「アイナのネーミングセンスは独特だからな。色を外国語で言い変えただけという。私も白いからハク、だし」
レイがニヤニヤしながら茶化してきた。
「うっ。ご、ごめん。でも短くて言いやすいよ?」
「そうだよ。ご主人様のこと悪く言うなよ」
コウが割って入った。
「なんだ、急にアイナの味方になったな」
「可愛らしいご主人様だからな! 気に入ったよ。よろしくな」
「こちらこそ、コウさん。アイナです、よろしくお願いします」
「コウでいいよ!アイナっち」
「えっ、アイナっち?」
「もうこうなったからには仲良くやろうぜ。なっ、アレスと、えーと」
「レイだ。アイナに龍がついてくれるとは頼もしいな。よろしく頼むぞ、コウ」
「オッケー、レイね! よろしく」
「待て待て、コウ。この方はアルトゥーラ王国の王、レイ陛下だ。ちゃんと陛下と呼べ、陛下と」
「えー、堅苦しいこと言いっこ無しだぜ」
「まぁいいじゃないか、アレス。コウは今現れたばかりだ。これから色々教えてやるといい」
「……わかりました」
アレスも渋々納得した。
「ねえハク、コウはこの木の幹に矢じりで刺されていたの。それまでは、トカゲくらい小さかったわ」
「コウ、お前封印されていたのか?」
「いや、俺もわかんない。なんで木の幹に磔にされてたのか、何も覚えてないんだ。気がつけば、アイナっちの魔力で元の姿に戻れていた」
「おかしいな。アイナに魔力はなかったはずだ」
「そうですね。でも今は確かに、アイナ様から魔力を感じます」
「魔力があったなら私やアレス、ダグラスだって気がついたはずなんだが。この矢じりに何か関係あるのだろうか」
レイは石で出来た矢じりをまじまじと見つめたが、普通の石となんら変わりはなかった。
「とにかく王宮に帰ろう。調べてみる必要があるし、もう夕方だ。マーサが心配する」
アレスがコウに聞いてみた。
「コウ、空は飛べそうですか?」
「ああ、飛べるだけの魔力は貰ったよ。久しぶりだから嬉しいな」
そう言って龍の姿に変化した。
「アイナっち、乗って!」
「うん、乗ってみる」
「ちょ、ちょっと待て。心配だから私も乗る」
「なんだよ男も乗せなきゃいけないのかよー」
「いいから乗せろって」
「じゃあ私も」
「アレス、お前自分で飛べるじゃねーか」
「いいじゃないですか。一人じゃ寂しいし」
このやり取りにアイナはクスクスと笑って、
「なんだか楽しい」
と笑顔を見せた。アイナの笑顔が見れたことに満足した三人は、王宮に向かって飛び立った。
0
お気に入りに追加
273
あなたにおすすめの小説
平凡な女には数奇とか無縁なんです。
谷内 朋
恋愛
この物語の主人公である五条夏絵は来年で三十路を迎える一般職OLで、見た目も脳みそも何もかもが平凡な女である。そんな彼女がどんな恋愛活劇を繰り広げてくれるのか……?とハードルを上げていますが大した事無いかもだしあるかもだし? ってどっちやねん!?
『小説家になろう』で先行連載しています。
こちらでは一部修正してから更新します。
Copyright(C)2019-谷内朋
世話焼き宰相と、わがまま令嬢
たつみ
恋愛
公爵令嬢ルーナティアーナは、幼い頃から世話をしてくれた宰相に恋をしている。
16歳の誕生日、意気揚々と求婚するも、宰相は、まったく相手にしてくれない。
いつも、どんな我儘でもきいてくれる激甘宰相が、恋に関してだけは完全拒否。
どうにか気を引こうと、宰相の制止を振り切って、舞踏会へ行くことにする。
が、会場には、彼女に悪意をいだく貴族子息がいて、襲われるはめに!
ルーナティアーナの、宰相に助けを求める声、そして恋心は、とどくのか?
◇◇◇◇◇
設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。
R-Kingdom_2
他サイトでも掲載しています。
アナスタシアお姉様にシンデレラの役を譲って王子様と幸せになっていただくつもりでしたのに、なぜかうまくいきませんわ。どうしてですの?
奏音 美都
恋愛
絵本を開くたびに始まる、女の子が憧れるシンデレラの物語。
ある日、アナスタシアお姉様がおっしゃいました。
「私だって一度はシンデレラになって、王子様と結婚してみたーい!!」
「あら、それでしたらお譲りいたしますわ。どうぞ、王子様とご結婚なさって幸せになられてください、お姉様。
わたくし、いちど『悪役令嬢』というものに、なってみたかったんですの」
取引が成立し、お姉様はシンデレラに。わたくしは、憧れだった悪役令嬢である意地悪なお姉様になったんですけれど……
なぜか、うまくいきませんわ。どうしてですの?
結婚前日に友人と入れ替わってしまった・・・!
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢キャンディスは、愛する婚約者パトリックとの挙式を明日に控えた朝、目覚めると同級生のキムに入れ替わっていた。屋敷に戻っても門すら入れてもらえず、なすすべなく結婚式を迎えてしまう。このままではパトリックも自分の人生も奪われてしまう! そこでキャンディスは藁にも縋る思いである場所へ向かう。
「残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました」に出てくる魔法使いゼインのシリーズですが、この話だけでも読めます。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
水の都で月下美人は
ささゆき細雪
恋愛
舞台は栖暦(せいれき)1428年、中世の都市国家ヴェネツィア。
四旬節を目前に、元首が主催する謝肉祭が連日のように行われていた。
前元首の末孫姫ディアーナに仕える少女エーヴァは、主の一生のお願いを叶えるため、彼女に変装して祭りに参加していた。そんな彼女は異国からやってきた貿易商の息子、デーヴィットと出逢う。だがふたりは互いに仮面で顔を隠し、ダヴィデとディアーナと名を偽ったまま、恋に落ちてしまった。
次の祭りの夜、二人は仮面で素性を隠したまま再会を果たす。デーヴィットはエーヴァに月下美人の鉢植えを手渡し、「ただ一度の恋」という花言葉を告げ、彼女がディアーナではないと暴きつつ、彼女と一夜限りの関係を結んでしまう。
二人は思いがけない形で再会する。
それはディアーナの結婚話。十五歳になった彼女に、両親はデーヴィットを紹介したのだ。
けれどデーヴィットは謝肉祭の夜に出逢った少女の存在が忘れられずにいた。その少女がディアーナのお気に入りの侍女、エーヴァで……
身分違いのふたりは無事に想いを貫き、遂げることができるのか?
*中世ヴェネツィアの世界観をベースにした半分架空のヒストリカルロマンスです。そのため時代考証などあえて無視している描写もあります。ムーンライトノベルズにも掲載中。Rシーンは予告なしに入ります。
君は私のことをよくわかっているね
鈴宮(すずみや)
恋愛
後宮の管理人である桜華は、皇帝・龍晴に叶わぬ恋をしていた。龍晴にあてがう妃を選びながら「自分ではダメなのだろうか?」と思い悩む日々。けれど龍晴は「桜華を愛している」と言いながら、決して彼女を妃にすることはなかった。
「桜華は私のことをよくわかっているね」
龍晴にそう言われるたび、桜華の心はひどく傷ついていく。
(わたくしには龍晴様のことがわからない。龍晴様も、わたくしのことをわかっていない)
妃たちへの嫉妬心にズタズタの自尊心。
思い詰めた彼女はある日、深夜、宮殿を抜け出した先で天龍という美しい男性と出会う。
「ようやく君を迎えに来れた」
天龍は桜華を抱きしめ愛をささやく。なんでも、彼と桜華は前世で夫婦だったというのだ。
戸惑いつつも、龍晴からは決して得られなかった類の愛情に、桜華の心は満たされていく。
そんななか、龍晴の態度がこれまでと変わりはじめ――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる