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王たる所以
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エマーソンは、龍の上に立つ若者が王子であると確信した。
魔力を持つ者ならば分かる……相手の魔力がどのくらいであるのかを。
この若者の持つ魔力は、エマーソンが今までに見たことの無いものであった。測ることが出来ない程に、強大。まさに、王が王たる所以であった。
エマーソンは膝から力が抜けていくような感覚を必死で堪えていた。
「エマーソン」
レイ王子に名を呼ばれ、あまりの威圧感に頭を垂れてしまいそうな自分を恥じ、ギリリと唇を噛んで耐えた。
「父を殺したのはお前だな」
「おのれ……お前を殺し、龍を奪い取る……!」
そう言って、懐に入れていた短剣にあらん限りの魔力を込め、若者の心臓目掛けて投げつけた。
いつもなら、その魔力のこもった短剣は真っ直ぐに心臓へ向かって行き、決して外すことは無い。だが。
「あ、……ああ………」
エマーソンはついに膝をついて崩れ落ちた。自分の投げた短剣が、空中に突如現れた水のカーテンによってあっけなく防がれ地面に向かって滑り落ちてしまったからである。
(あまりにも……あまりにも違い過ぎる。圧倒的な魔力の差……)
エマーソンは両膝を地面につけたまま、呆然とレイを見つめていた。
「もはや闘う意志は無いようだな……。ファルー」
「は、はいーーっ!」
急に名前を呼ばれ、身体中から汗を噴き出しながらファルーは返事をした。
「エマーソンを捕らえよ」
ファルーはチラッとエマーソンを見た。だがエマーソンはファルーをいつものように睨んだり怒鳴り散らしたりすることはなく、ただただ顔面を蒼白にして震えるのみであった。
ファルーは兵士に命じてエマーソンに手錠を掛けた。それでもなお、エマーソンは何も言う事が出来ずに震えていた。
(あの大総統がこんなに怯えるなんて、いったい王子の魔力はどんなものなんだろう。魔力を持っていない私には、全くわからないのだが)
エマーソンの様子を見てファルーは王子に心底恐れを抱いた。そして、急いで彼を牢獄へと連れて行った。
その時、中庭から上空に向かって大きな声が聞こえてきた。
「レイ!」
レイは下を向いた。黒髪の男が両手を伸ばしてこちらを見ている。
「ダグラス!久しぶりだな!」
笑顔を見せたレイは、降りて行くようアレスに指示した。ダグラス・カートは同い年の幼馴染みであり親友であった。
五年振りに再会した二人は固く抱擁しあった。
「どこ行ってたんだ!心配したんだぞ」
「すまん……。話せば長いんだが。私はずっと犬だったんだ」
ダグラスの片眉がギュッと上がった。
(……あ。完全に、不審がられている。まずい)
「違うんだダグ、冗談言ってるんじゃないんだ。本当のことなんだ」
「本当に本当か? 冗談だったら承知しないぞ」
「本当だって。だから追手にも見つからなかったんだ」
「まあいい。後で聞こう。それにしてもお前が無事で本当に良かった」
「ダグラス……心配してくれて嬉しいぞ」
「それにしても、たった十日ほどでよくアルトゥーラ全土を味方につけたな。しかも一滴の血も流さず」
「皆、私が戻ったことを喜んでくれていたからな。各領主達も誰も抵抗することなく、領内に入れてくれたよ。だから一気に王宮まで行ってしまおうと思ったんだ」
「エマーソンも準備をする間が無かっただろう。それにしても奴め、だいぶショックを受けていたな」
クックッとダグラスは思い出し笑いをした。
「王族の魔力の凄さを知らなかったなんて、可哀想に。私は幼い頃から教えられていたから理解していたが」
(王族と貴族とでは絶望する程の力の差がある、と言い聞かされていたからな。私も今なら実感できる。レイの魔力はとてつもない)
二人が話している間に、周りにはたくさんの人が集まってきた。ダグラスは声を張り上げて言った。
「皆の者! ロスラーン・レイ殿下がご帰還なされた! これからはレイ殿下がここアルトゥーラ王宮の主人である! 」
皆、拍手喝采で喜んでいた。エマーソンの味方は誰もいなかったようだ。
「ダグラス、宰相たち閣僚はどうなった? 無事なのか?」
「皆、エマーソンによって投獄された。貴族たちも爵位を剥奪され財産を取り上げられたよ」
「何だと? じゃあダグラスの父上も……」
「ああ、牢獄の中だ」
「何てことだ。早く、不当に投獄された者の釈放と名誉回復を図るぞ。ところでダグラス、お前は今何をしているんだ」
「私は十八になってすぐ軍に入った。内側からエマーソンを倒そうと思っていたからな。軍内部の規律の乱れは酷いものだったよ。これも立て直し必須だな」
「やることは山積しているな。まずは戴冠式だ。神官を呼べ」
「今からやるつもりか?」
「もちろんだ。善は急げだろう」
「しかし、何の準備もしていないぞ。他国の首脳も呼べないし」
「準備も、他国の祝いもいらんだろう、私とアレスさえいれば。とにかく王位継承するのが先だ。落ち着いたら挨拶状でも出せばいい」
「わかった」
ダグラスは神官を呼ぶため駆け出したが、レイの行動力を頼もしく感じていた。
(これからは若い力が国を動かしていかなければ。そして我々が戴く王は若く、大いなる力がある。一気に国をいい方向に変えていけそうだな)
改革の理想に燃えた若者は、ここにもいた。
魔力を持つ者ならば分かる……相手の魔力がどのくらいであるのかを。
この若者の持つ魔力は、エマーソンが今までに見たことの無いものであった。測ることが出来ない程に、強大。まさに、王が王たる所以であった。
エマーソンは膝から力が抜けていくような感覚を必死で堪えていた。
「エマーソン」
レイ王子に名を呼ばれ、あまりの威圧感に頭を垂れてしまいそうな自分を恥じ、ギリリと唇を噛んで耐えた。
「父を殺したのはお前だな」
「おのれ……お前を殺し、龍を奪い取る……!」
そう言って、懐に入れていた短剣にあらん限りの魔力を込め、若者の心臓目掛けて投げつけた。
いつもなら、その魔力のこもった短剣は真っ直ぐに心臓へ向かって行き、決して外すことは無い。だが。
「あ、……ああ………」
エマーソンはついに膝をついて崩れ落ちた。自分の投げた短剣が、空中に突如現れた水のカーテンによってあっけなく防がれ地面に向かって滑り落ちてしまったからである。
(あまりにも……あまりにも違い過ぎる。圧倒的な魔力の差……)
エマーソンは両膝を地面につけたまま、呆然とレイを見つめていた。
「もはや闘う意志は無いようだな……。ファルー」
「は、はいーーっ!」
急に名前を呼ばれ、身体中から汗を噴き出しながらファルーは返事をした。
「エマーソンを捕らえよ」
ファルーはチラッとエマーソンを見た。だがエマーソンはファルーをいつものように睨んだり怒鳴り散らしたりすることはなく、ただただ顔面を蒼白にして震えるのみであった。
ファルーは兵士に命じてエマーソンに手錠を掛けた。それでもなお、エマーソンは何も言う事が出来ずに震えていた。
(あの大総統がこんなに怯えるなんて、いったい王子の魔力はどんなものなんだろう。魔力を持っていない私には、全くわからないのだが)
エマーソンの様子を見てファルーは王子に心底恐れを抱いた。そして、急いで彼を牢獄へと連れて行った。
その時、中庭から上空に向かって大きな声が聞こえてきた。
「レイ!」
レイは下を向いた。黒髪の男が両手を伸ばしてこちらを見ている。
「ダグラス!久しぶりだな!」
笑顔を見せたレイは、降りて行くようアレスに指示した。ダグラス・カートは同い年の幼馴染みであり親友であった。
五年振りに再会した二人は固く抱擁しあった。
「どこ行ってたんだ!心配したんだぞ」
「すまん……。話せば長いんだが。私はずっと犬だったんだ」
ダグラスの片眉がギュッと上がった。
(……あ。完全に、不審がられている。まずい)
「違うんだダグ、冗談言ってるんじゃないんだ。本当のことなんだ」
「本当に本当か? 冗談だったら承知しないぞ」
「本当だって。だから追手にも見つからなかったんだ」
「まあいい。後で聞こう。それにしてもお前が無事で本当に良かった」
「ダグラス……心配してくれて嬉しいぞ」
「それにしても、たった十日ほどでよくアルトゥーラ全土を味方につけたな。しかも一滴の血も流さず」
「皆、私が戻ったことを喜んでくれていたからな。各領主達も誰も抵抗することなく、領内に入れてくれたよ。だから一気に王宮まで行ってしまおうと思ったんだ」
「エマーソンも準備をする間が無かっただろう。それにしても奴め、だいぶショックを受けていたな」
クックッとダグラスは思い出し笑いをした。
「王族の魔力の凄さを知らなかったなんて、可哀想に。私は幼い頃から教えられていたから理解していたが」
(王族と貴族とでは絶望する程の力の差がある、と言い聞かされていたからな。私も今なら実感できる。レイの魔力はとてつもない)
二人が話している間に、周りにはたくさんの人が集まってきた。ダグラスは声を張り上げて言った。
「皆の者! ロスラーン・レイ殿下がご帰還なされた! これからはレイ殿下がここアルトゥーラ王宮の主人である! 」
皆、拍手喝采で喜んでいた。エマーソンの味方は誰もいなかったようだ。
「ダグラス、宰相たち閣僚はどうなった? 無事なのか?」
「皆、エマーソンによって投獄された。貴族たちも爵位を剥奪され財産を取り上げられたよ」
「何だと? じゃあダグラスの父上も……」
「ああ、牢獄の中だ」
「何てことだ。早く、不当に投獄された者の釈放と名誉回復を図るぞ。ところでダグラス、お前は今何をしているんだ」
「私は十八になってすぐ軍に入った。内側からエマーソンを倒そうと思っていたからな。軍内部の規律の乱れは酷いものだったよ。これも立て直し必須だな」
「やることは山積しているな。まずは戴冠式だ。神官を呼べ」
「今からやるつもりか?」
「もちろんだ。善は急げだろう」
「しかし、何の準備もしていないぞ。他国の首脳も呼べないし」
「準備も、他国の祝いもいらんだろう、私とアレスさえいれば。とにかく王位継承するのが先だ。落ち着いたら挨拶状でも出せばいい」
「わかった」
ダグラスは神官を呼ぶため駆け出したが、レイの行動力を頼もしく感じていた。
(これからは若い力が国を動かしていかなければ。そして我々が戴く王は若く、大いなる力がある。一気に国をいい方向に変えていけそうだな)
改革の理想に燃えた若者は、ここにもいた。
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