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シナリオ

篭絡

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「大事に至らずによかったが……何か悩んでいたのか、アツミは」
 四郎丸の伯父さんのおかげでお姉ちゃんの入院手続きは手間取ることもなかった。
 日頃から頼もしい伯父さんだけど、両親が不在なだけに余計そう感じる。ただ、当たり前だけどお姉ちゃんが取った行動には困惑しきりだった。
「働き始めて二年目だったか、人間関係に苦しんでいたとか、そのなんだ、アツミも年頃だしな、失恋したとか」
 その通りだよ、伯父さん。
「まあ、デリケートな問題だと後々尾を引きかねないしな。今はそっとしておいてやるのがいいか」
 朝、バスルームから水音が聞こえると思ったら、お姉ちゃんが倒れていた。呆れるくらいすごくありがちなシチュエーション。私はともかく不在の両親の手前、ご近所の好奇に晒されたくなかったし、何より騒ぎにして迷惑をかけたくはなかったから、救急車の要請はせずに四郎丸の伯父さんを呼んだ。
「お前のいうようにふたりには連絡するのはやめておこう」
「ごめんね、わがままいって」
 伯父さんは若い頃はお酒もタバコも嗜んだらしいけれど、妹が結婚し、子供、つまりお姉ちゃんが生まれてからは暴飲暴食をきっぱりとやめてヘルシーライフに身を転じたらしい。おかげで五十目前だというのに中年太りとは無縁の体型を維持している。
 だからオーダーメイドの証、レッドラベルもまぶしいシルエットがきれいなイタリア生地のピンストライプスーツもよく似合ってるし、中に着込んだネックが2ボタン仕様のシャツもノーネクタイなのにすごく決まってる。でも、調子に乗るから口に出すことはしない。
「いや、いい。クシナはやさしいからな」
 昨日のことは何の後悔もしていない。あれは必要なことだったのだから。もし後悔しているとすれば一晩中いっしょにいてあげればよかったなということ。
「ともかくここは任せて、学校へ行け、クシナ」

               *

 瓊紅保女子うちの象徴でもある青いジャケットを脱いで半月。あれを目当てで入学を志望する女子もいるそうだけど、ちょっと理解に苦しむ。特徴的な襟を比喩してナポレオンアーマー・・・・とかいわれているような代物の何がいいのか。嫌いなわけじゃないけれど、わざわざ鎧を着るために高校を選ぶとか酔狂にもほどがある。
 夏服は白い半袖ブラウスの袖折り返しと襟元のリボンがチェックのお揃いになっており、一年中着ていたいさわやかさだ。
「お姉さんは大丈夫なの?」
 衣替えをしていちばん最初に目についたのはシャツの上からでも分かる、鎧着用時には隠れていたこの反則的なティナの胸のボリュームだった。中学のときからモテていたけれど、おそらくほとんどの男子はこのたわわな膨らみにやられるんだろうな。
 学校にはお姉ちゃんが緊急入院することになったので付添うとは伝えてあった。ティナはお姉ちゃんとはあまり顔馴染みというほどではないけれど、一人っ子のせいか姉のいる私をことあるごとにうらやましがっている。私と知り合った年数がそのままお姉ちゃんのそれと同じであるシーナはほとんど目を潤ませていた。
「アツミさん、体調はどうなの? 何か話した? お見舞いに行っても大丈夫?」
 ずっとこの調子。きっかけが私にあると知ったら、絶縁されるのかな。
「今は安静にしてる。今は四郎丸の伯父さんがついていてくれるから。お見舞いは落ち着いたら一緒に行こう」
 力なく頷くシーナの横で腕組みしたティナは伯父様がいるなら大丈夫だねと鼻を鳴らした。
 私専用のジム目当てにあの貸しビルによく入り浸っていることもあって、ふたりは四郎丸の伯父さんとは知己だ。あまりにも気に入ってるようだからいつでも好きなときにジムを使えるようにとスペアキーを作って渡そうとしたら、それは駄目だとふたりに断られた。
「親しき仲にも礼儀ありっていうでしょ」
 ティナは仮にその鍵を落として、悪用されるようなことになったらクシナにも伯父様にも迷惑がかかると真顔でいった。それはシーナも同様であった。
 それならと管理人のおじさんにいって彼女たちが来たら、フロア用とジム用の鍵を貸してあげて欲しいとお願いした。ふたりともこの申し出は受け入れてくれ、私がいないときでもジムに行っては汗を流しているようだった。
 ちなみに伯父様といういい方は当人がたいへんお気に入りで、そう呼ばれながらティナに腕を絡められたときの顔のだらしなさといったらなかった。一応、友人に手を出したら伯父さんといえども承知しない、ジムにぶら下がっているサンドバッグの予備になって貰うからねと釘は刺してあるけれど。
 小さい頃から私たち姉妹を両親よりも可愛がってくれる伯父さんは何でもいうことを聞いてくれたし、何でも欲しがるモノをくれた。遠慮がちというか、物欲が同世代の人と比べてあまりない姉の分までいろいろ欲しがる私には本当に何でも与えてくれた。妹である母親が何度も甘やかさないでと苦言を呈しても、見えないところでこっそりと渡してくれる。
 独身ということもあって、他にお金の使い道もないしなあ、が口ぐせの伯父さんは友人や同級生、私の知り合いなら誰彼かまわずきっぷのいいところをみせ、そのたびに私の友人・・は私の与り知らないところで勝手に増え、私の株は私の知らないところで勝手に上がる。
 おかげで街中で突然、見たこともない人に話かけられるなんてことはしょっちゅうだし、端末に入っている途方もない個人情報はもはや一高校生のそれではなくなっている。何しろ友人や同級生以外にも伯父さん周辺から派生した社会人とか女子高生なら普通知り得ない世界ぎょうかいの人々まで幅広く網羅しているのだ。
 当人の許可なくアドレス等のやり取りはすべきではないという必要最低限のマナーというか一般常識は端末ごときに振り回される今のご時世ではあまり意味を成さないのだろう。
「そこにある人脈、使いようによってはいいお金になるよ」
 いつだったかティナはさらっとそんなことをいっていたけれど、私が本当に知っていて、実際に一緒に遊んで、住んでいるところや家族構成まで把握している相手なんて全体の十分の一にも満たないと思う。
 そう、私の端末にたっぷり詰まっている情報なんて量のわりに質が伴っていない、希薄な人間関係の縮図そのものだ。
「そういえば一さんだっけ、最近彼とはどうなの」
 ティナの発言にシーナが反応した。どうやら一ヶ月前に一ナナギが瓊紅保女子うちに現われたあの日以来、気になっているようだった。本人がいくら否定しても、ティナじゃないけど、顔に書いてあるので無駄な抵抗というものだ。
「しばらく彼の家から通学するっていってたけど、意外に戻ってくるの早かったじゃない」
 ティナが乗り出すように動くたび、ぷるるんと組まれた腕の上で弾む胸を堪能しながら、ここが女子高でよかったなと思った。共学なら男子はこれが気になって仕方あるまい。
「あまりナナミさんに迷惑かけるのも悪いから」
 それが理由じゃないけど、嘘というわけでもない。お姉ちゃんが大切にしている友人は私にとっても大切な友人だ。ただ、お姉ちゃんが好きな相手は誰であろうと敵。
「……ああ、お姉さんのいちばんの友達だっけ。美術館で働いてるモデルみたいな人。さすが姉弟だけあって一さんもかっこいいよねえ」
 いいながらティナがにやりとシーナを見た。
「どうしてクシナについていかなかったの? 彼にお近づきになれる最大のチャンスだったかもよ?」
 シーナはうっすら頬を染めながら、それはさすがに図々しいよと苦笑した。
「いくらクシナの友人だからって、名前も知らない私がいきなり押しかけて泊まらせて下さいなんていえないよ」
 ティナのくちびるが意地悪く歪む。ティナのシーナいじりは日課みたいなものだ。褒められた趣味じゃないけど、おどおどしてるシーナはどこか加虐心を満たしてくれるというか、からかい甲斐があるのも事実。
「泊まれなんていってないわよ。普通に遊びに行けばって話。てか、一さんのことはもう否定しないんだね」
「………な、な、な」
 シーナが真っ赤になりながら声を詰まらせる。すでに涙はスタンバイ状態。
 やめなよ、と笑う私に一さんってフリーなんでしょ? とティナがからかった詫びのつもりか訊いてきた。
「うん。ガールフレンドは多いみたいだけど、文字通り女友達みたい」
「好きな人とかは?」
「いないと思うよ」
 即答ぶりにティナがずいぶん自身ありげねと皮肉る。それはそうだ、大好きな相手にノックアウトされたはずだから。ファイティングポーズをふたたび取ることもなくテンカウントをむなしく聴きながら試合終了、ご愁傷様。
「もし、そういう人がいても奪い取るくらいじゃなきゃね」
 他人事のようにいい放つ私の無責任な教唆にティナは口笛を鳴らし、シーナは上目遣いで目を瞬かせた。
「いっそ襲っちゃえば? シーナもけっこう腕っぷしあるんだし、叩きのめしたあとにゆっくりと、ね?」
「あははははは、そのときは私も交じろうかな」
 私とティナの俗で不穏な会話にシーナは尻込みしっぱなしだった。

               *

 放課後。
 お姉ちゃんのところへ行くと意外な人物に出会った。彼女は昨日、駅前で見かけたときと同じく初夏だというのにジャケットを着用していた。
「こんにちは、十鳥さん」
 目が合った瞬間、先手を打つ。
 十鳥オガミは相変わらずこちらの読みを拒絶するかのような慎重さでじっと私の次なる行動を伺っていたけど、思いの外、早くお辞儀を返してみせた。
「ごきげんよう、上四元クシナさん」
 ごきげんよう、ね。こういう挨拶をするタイプだったのかな、彼女。
「ずいぶんと妙なところでお会いするのね」
「あなたにとっては妙でも、私にとっては日常的な空間だし、そうでもないわね」
 何か持病でも抱えているのだろうか。見るから健康体そのものといった風だけど。
「お見舞いよ。祖母の友人の」
 こちらの疑念が表に出ていたのか、心の中に生じた謎は3秒で解決した。まさかとは思いつつも勘がいい彼女だから、もう嗅ぎつけた・・・・・のかと警戒してしまった。
 手にはピンクの小判が握られている。入り口横にあるクロークルームみたいな細長い部屋で外来患者の靴を一括管理しているみたいなので、そのナンバープレートだろう。病院には無縁な身だから詳しくは知らないけれど、基本的にこの手の総合病院は土足が普通だそうだから、そういう意味ではここは貴重かもしれない。
 伯父さんからの入学祝いの中の一つであるタッセルローファーを脱ぐ。キルトタンと厚めのソールのアンバランスさが気に入り喜んでいたら、もう一足買ってこっそり――妹たる母親にばれるとめんどうなので――渡してくれた。エアークッションで有名なドイツのブーツメーカーと英国王室御用達ブランドのダブルネームでお安くないだろうに。
「お帰り?」
 分かっていることをいちいち聞く。最高のお気に入りであり、敵でもあったおもちゃが壊れたばかりだ。彼女はさぞ壊し甲斐があるだろうな。
「ええ」
 こちらに興味も用もないと背中が語っていた。こういう隙のなさが私の嗜虐心をとことん刺激し、満足させるのだ。決めた。今度はこれ・・にしよう。精神的にも肉体的にも女子を甚振る趣味は正直ないけれど、中途半端な男子よりこっちは長く楽しめそうだ。
「私がここに来た理由は訊かないんだ?」
「あなたなら分かってくれていたと思ったのだけれど」
 わざと大きくため息を吐いてみせる。さっきの「ごきげんよう」といい、その場に応じてキャラ作りするんだなとちょっと感心する。
「興味ないもの。もっといえばあなたそのものに」
 そう。それよ。そういう反応に尋常じゃない素質を感じる。
「私はあるわよ、十鳥さん。すっごく興味がある」
 いい終えないうちに十鳥オガミの手を握った。私もらしくないキャラ作り。
「ちょっとつき合わない?」
 エントランスを抜け、だだっ広いホールの先、真正面には総合受付があり、左側には待合所、右側にはコーヒーショップがあった。ただの喫茶コーナーかと思ったら、チェーン展開している老舗の一つだ。
「こういうサービスもお客たる患者を逃がさないための手段なのでしょう」
 不思議そうな顔でもしていたのか、十鳥オガミが解説してくれる。人の心を読むのは得意なようだった。ティナにいわせれば私も知らずに読んでいるらしいけど。
 それと、と彼女は続けた。
「手を離して貰えるかしら」
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