四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚礼

ド正論ですが何か?

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 柔かに笑うゴトリルと照れるクロエ。

 そんな二人の姿を見ていたロズワートは、恐怖から再び怒りが湧き上がっていた。


「僕は王太子なんだぞ!?なんで言うことを聞けないんだよ!!」


 そう叫んで、子鹿のような足で立ち上がる。威勢は全くもって感じられないが、彼なりに努力しているつもりだ。


「大体!元は僕の婚約者じゃないか!?だったら僕の元に戻ってくるのが道理だろ!今までの恩も忘れてお前達はそっちにつくって言うのか!?」


 とうとう訳のわからない理論を並べ始めたロズワート。
 しかし、それに反論する者がいた。





「恩なんてありましたかしら?」



 三女のエレノアである。



 唐突に口を開いたエレノアに、公爵と姉妹、来客達も視線を向ける。当の本人はその視線の意図も分かっていないようで、キョトンとしていた。


「だって、あれは国王様とお父様が決めたことでしょう?国王様になら恩はございますけど、ロズワート様は正直何もありませんわ」


 皆は理由を聞きたがっているのかと勘違いし、エレノアは丁寧に説明する。その言葉がロズワートに深々と刺さった。


「な!お、お前!!僕はお前達を受け入れてやったんだぞ!?婚約者として行動を制限された僕にだって恩があるはずじゃないか!!」

「確かに、婚約者同士交流もしなければなりませんし、勉強もしないといけませんよね。私も王妃教育大変でしたからそのお気持ちはすごくわかりますわ!



 でも……





 ロズワート様はそんなことしていませんわよね?」



 エレノアははっきりとそう言った。一瞬動揺するロズワートも無視して、そのまま話を続ける。


「10年も婚約期間がありましたけど、交流した回数なんて数えられるくらいしかありませんし、学園でもロズワート様は授業も抜けて遊んでいたじゃありませんか。学級が一緒でしたから私知ってますよ?」


 同い年であったエレノアは、ロズワートが今まで何をしていたのかよく見れる機会が何度もあった。それが今、ロズワートの首を真綿で締め上げる結果に至っている。案の定、ロズワートは顔が真っ青であった。


「それに、ロズワート様仰っていたじゃありませんか。『お前と話すとこっちが惨めになるからもう会いたくない』と。だから私早めに身を引いていましたのよ?」


 エレノアにそんなことを言っていたのかと、姉妹達と国民は一斉にロズワートを睨む。その視線も可哀想なほどにロズワートに突き刺さった。


「ロズワート様は、私のことお嫌いなのでしょう?だから此処で戻ったとしても、きっと長くは持たないと思いますの。お互い関係がよろしくないと悪循環になるだけですから。それに、側妃を持つのはお金も想像以上にかかりますわ。経済が傾いている時は足枷になるだけですよ」


 エレノアは諭すようにそう言ったが、無駄にプライドの高いロズワートには逆効果である。
 怒りでワナワナと震え出したロズワートに、エレノアはトドメの一撃を付け加えた。


「それに、ロズワート様にはアレッサ嬢がいらっしゃるじゃありませんか!側妃なんて持たずにたった一人の女性を愛してあげた方が最良かと思います!現に、バルフレ様は先ほど私のことだけ愛すると誓ってくれましたわ!ロズワート様もそうしましょうよ!」


 そう言って彼女は花が綻ぶように笑った。

 彼女に、悪気は無い。ただ無い分質が悪い。傲慢なロズワートが彼女を嫌ったのにも理由がつく。

 散々正論を吐かれ、最後に悪意の無い渾身の惚気を付け加えられて、ロズワートの中で何かが切れた。





「この阿婆擦れがぁああああああ!!!!!」


 ロズワートは、血走った目でエレノアの方へと突進する。ゴトリルに弾き飛ばされて距離は空いていたが、それでも彼女のところまで駆け寄るのに時間はかからなかった。

 アレッサを通り過ぎ、ゴトリルとクロエには目もくれず、目を丸くしているエレノアの方へと急接近する。そして、彼女の首にその手が伸びようとした時だった。





 エレノアの首飾り。
 バルフレからもらった真っ赤な宝石が真っ黒に濁ったのは、ロズワートがエレノアの首に触れたのと同時であった。
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