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婚約
里帰り
しおりを挟む__あの夕食から早くも二日経ち、姉妹達は公爵達と共に馬車でガルシア領へと向かっていた。
流石に全員乗れるほどの馬車はないので、婚約者同士一乗ずつ用意されており、姉妹達はそれぞれの馬車で公爵達と談笑を楽しんでいた。
と言っても、クロエはゴトリルに抱き締められてそれどころではないし、ルーナも両親と会う前から緊張しているラトーニァを宥めるのに精一杯で、エレノアはバルフレが全く話さないがために馬車の外を眺めて暇を持て余していた。
そして、オリビアはというと……
「今日は天気もよろしいですね」
「ああ。出かけるのにはうってつけの晴天だね」
なんとか話を繋いでいた。
こうして二人きりになるのは初めてではないのだが、馬車の中というのもあってなんとも言えないものがあった。
たとえそれが異形のものであっても、異性と同じ空間にいることだけで、ロズワート以外との関わりを持ったことがなかったオリビアは十分に戸惑える案件でもあった。
ただ、オリビアが戸惑っていたのはこれだけではなかった。
ベルフェナールから馬車を出す際、通り道となる街道には人だかりができていた。
どうやら公爵達が婚約したことは国内中に知れ渡っていたらしく、その婚約者を見たいがために馬車が通る道に集まっていたのだ。
しかも相手は隣国の人間ときたもので、珍しいもの見たさの者が多かった。
馬車が通るたびに民衆は姉妹達の姿を見て驚いていたようであった。
しかし……
「ラゼイヤ様の婚約者様は大層美しいな!」
「ゴトリル様の婚約者様は小柄で可愛らしい!」
「ラトーニァ様の婚約者様も綺麗だなぁ!」
「バルフレ様の婚約者様も話している姿が愛くるしいな!」
皆口々にそう言うので姉妹達は恥ずかしくて仕方がなかった。
挙げ句の果てには「公爵様達が婚約されて本当に良かった!!」と泣き喜びする者達も続出して民衆はある意味混乱状態となっていた。
余所者である自分達を歓迎してお見送りしてくれたのは嬉しいことであったが、馬車の後ろで大泣きしながら肩を抱き合って喜びを分かち合う大の大人たちを見ると、オリビアは苦笑いしか浮かべなかった。
それはオリビアだけに限らずラゼイヤも同じようで、大袈裟に喜ぶ民衆を困った目で眺めていた。
ラゼイヤは以前、国民ですら己達の姿に驚くという話をしたが、それにしては国民からの信頼が厚いように思えた。
ラゼイヤが言うよりも、国民は公爵達のことを愛してやまないのかもしれない。
「オリビア?」
そんなことを考えていると、オリビアはラゼイヤの声かけで我に帰った。
「も、申し訳御座いません。少し考え事を」
「いいよ。それより、ほら」
ラゼイヤが目を向けた方へ、オリビアも見やる。
そこには、見慣れた街並みが広がっていた。
「着いたよ。君達の故郷に」
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