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本日はお日柄も良く

(八)

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「辛い経験だったと思うが、それは決してお父さんのせいじゃない。桃子を守ってくれなかった教師や学校のせいだし、そもそも君をいじめたクラスメイトが悪いんだ。俺を見捨てた両親や親戚たちと同じで、そいつらは桃子にとって必要のない人間だったんだよ。だから、そんな奴らなんかきっぱり縁を切って、忘れてしまうんだ」
 新郎が披露宴に招待した友人たちは、彼の過去をあまり詳しく知らないそうだ。今現在のありのままの彼とつき合っているので、過去のことまで詮索しようとは思わないらしい。
 それに、実の両親のことは話しても楽しくないし、今では近藤夫妻が親のような存在だからだという。実際に両親が博己に連絡してくることはなく、桃子との結婚を知らせたくても居場所すらわからないそうだ。
「嘘だと指摘ささればそうだけれど、これは誰にも迷惑をかけない嘘だから。それに血は繋がらなくとも俺の両親はあの二人だと思っているし、俺の結婚を誰よりも喜んでくれているんだよ」
 新郎は家族が代理で、新婦も友人が代理だった。だが、そのことで傷つく者は誰もいない。むしろ、今は誰よりも二人の幸せを祝福している。
「頑固親父だって聞いていたけれど、娘思いの良いお父さんじゃないか。さっきも俺が捨て子だから結婚に反対したわけでなく、桃子に嘘をついていたから怒ったんだろう?」
「そ、そう言われればそうだけど……」
 これで父と娘の間にある距離を縮めることはできるだろうか?
「それに桃子が引きこもりにならなかったら、俺たちは出会うことはなかっただろう? 後ろを振り返って嘆くより、前を向いて進め。これは親父とお袋の口癖なんだ。あの二人に育てられたから、今の俺がいるんだよ」
 実子のいない近藤夫妻は博己のことも他の里子たちにも、分け隔てなく愛情を注いでくれたそうだ。周囲からの風当たりが強くとも、ひねくれることなく勉強やスポーツに打ち込めたのは彼らのお陰だったという。
 博己が児童養護施設や里親家庭で育った学生を対象にした奨学金で大学に通えたのも、近藤夫妻の後押しがあってのことだったと語った。
「お父さん、嘘をついたことは心からお詫びします。ですから、どうか桃子さんとの結婚をお許しください」
すると、突然博己がその場で土下座した。その姿に驚きながらも桃子も一緒になって頭を下げた。
「お父さん、お願いします。私たちの結婚を認めてください」
「も、桃子……」
 二人はじっと正の顔を見つめ、次の言葉を待っていた。
「博己君、君は親御さんの育て方が良かったから、そんなに素直に育ったんだな」
 それは里親である近藤夫妻を彼が受け入れたという証だった。
「それじゃあ、お父さん。私たちの結婚は?」
「反対する理由なんか何もないだろう。問題は解決したんだから」
「あ、ありがとうございます」
 新郎新婦の告白で真実が明るみになった今、結婚を阻む壁はなくなった。

「お二人とも、もう隠し事はないですよね?」
 だが、二人の将来が気になった也耶子は、思わずそう口走ってしまった。
「え? は、はい」
 桃子が力強く頷いた。
「はい、もう全て打ち明けました」
 晴れ晴れとした表情で博己も断言した。
「結婚生活に嘘や隠し事はもっての外、バレない嘘なんか絶対にないですからね。嘘や隠し事がバレた時、結婚生活だけでなく全てが終わってしまいます。くれぐれも気を付けてくださいね。これは私の経験からのアドバイスです。さっきのスピーチよりも現実味があるでしょう?」
「け、経験? あの、香南江さん。いいえ、あなたの本当のお名前は……」
「私は佐々木香南江。桃子さんの高校時代の友人で、子なしの既婚者です。最後までこの役目を演じますので、皆さんもそれを忘れないでください。それから、私は今の話を何も聞かなった、見なかったということで、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。このことは是非とも他の招待客たちには内密で……」
 佐和が慌てて口を挟んだ。
「もちろんです。我々つかさ総合代理出席人事務所は秘密厳守がモットーですから、絶対にそれは保証いたします」
 にこやかな笑顔を浮かべ、也耶子は請け負った。
「新郎様、新婦様。いらっしゃいましたら、至急お色直しをお願いいたします」
 ウエディング・プランナーの叫び声がドアの向こう側から聞こえてきた。ここでタイムスケジュールが狂ってしまうと後が大変だ。
「さぁ、桃子のお父さん、お母さん。会場では料理が用意されていますから、一緒に席に戻りましょう」
 也耶子は新婦の両親をうながして、披露宴会場へと戻っていった。
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