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材木商桧木屋お七の訴え
三
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突然の夕立に通りを行き交う人々は足早に過ぎていき、誰もしゃがみ込んでいるお七には目もくれなかった。
もっと手前の容姿が良ければ、助けてくれる人もいただろう。仕方がない、このまま木材町まで帰るかと諦めていたところだった。
すると、そこへ一人の担ぎ売りが近づき、声をかけてくれたそうだ。
――鼻緒が切れたんだね。もしよければ、手前が直しましょうか? 人懐こい笑みを浮かべて、八十吉さんが助けてくれたんです。
あっという間にお七をおんぶして、そばにあった店の軒先に移動した。そして、首にかけていた手拭いを裂いて、慣れた手つきで鼻緒を付け替えてくれたそうだ。
――そして、困った時はお互い様だと名も告げず去って行ったんです。
その清々しい態度にお七はすっかり魅了され、翌日から担ぎ売りの姿を探し始めた。
もちろん、江戸の町には多くの棒手振りや担ぎ売りなどの行商人がいて、その中から見つけるのは簡単ではないとわかっていた。
――だから、用事を作っては日本橋のたもとで、八十吉さんに会えるのを待っていたんです。
そして遂に、ひと月ほど過ぎてから再び会えたという。
――手前みたいな女から声をかけられても嫌な顔せず、鼻緒のお人ですねと覚えてくれていたんですよ。
新しい手拭いとわずかながらの謝礼を渡すと、手拭いだけで銭は要らないと返したそうだ。
「潔いお方ですね」
――ええ。心の綺麗なお人です。手前の話も嫌がらず聞いてくれました。その上、手前のことをこんな俺にも優しくしてくれる、気立ての良い人だって言ってくれたんです。
そういう八十吉も穏やかで心優しい青年だった。父親を早くに亡くし、幼い頃から病弱な母親を世話しながら、真面目に働いてきた親孝行な息子だった。
担ぎ売りの仕事は楽ではないが、稼ぎも良いから貯えもできている。体が動くうちにたくさん稼いで、いつか手前の店を持ちたいと語っていた。
「その八十吉さんとぼや騒ぎとは、何か繋がりがあるのですか?」
もっと手前の容姿が良ければ、助けてくれる人もいただろう。仕方がない、このまま木材町まで帰るかと諦めていたところだった。
すると、そこへ一人の担ぎ売りが近づき、声をかけてくれたそうだ。
――鼻緒が切れたんだね。もしよければ、手前が直しましょうか? 人懐こい笑みを浮かべて、八十吉さんが助けてくれたんです。
あっという間にお七をおんぶして、そばにあった店の軒先に移動した。そして、首にかけていた手拭いを裂いて、慣れた手つきで鼻緒を付け替えてくれたそうだ。
――そして、困った時はお互い様だと名も告げず去って行ったんです。
その清々しい態度にお七はすっかり魅了され、翌日から担ぎ売りの姿を探し始めた。
もちろん、江戸の町には多くの棒手振りや担ぎ売りなどの行商人がいて、その中から見つけるのは簡単ではないとわかっていた。
――だから、用事を作っては日本橋のたもとで、八十吉さんに会えるのを待っていたんです。
そして遂に、ひと月ほど過ぎてから再び会えたという。
――手前みたいな女から声をかけられても嫌な顔せず、鼻緒のお人ですねと覚えてくれていたんですよ。
新しい手拭いとわずかながらの謝礼を渡すと、手拭いだけで銭は要らないと返したそうだ。
「潔いお方ですね」
――ええ。心の綺麗なお人です。手前の話も嫌がらず聞いてくれました。その上、手前のことをこんな俺にも優しくしてくれる、気立ての良い人だって言ってくれたんです。
そういう八十吉も穏やかで心優しい青年だった。父親を早くに亡くし、幼い頃から病弱な母親を世話しながら、真面目に働いてきた親孝行な息子だった。
担ぎ売りの仕事は楽ではないが、稼ぎも良いから貯えもできている。体が動くうちにたくさん稼いで、いつか手前の店を持ちたいと語っていた。
「その八十吉さんとぼや騒ぎとは、何か繋がりがあるのですか?」
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