9 / 72
材木商桧木屋お七の訴え
一
しおりを挟む
しばらくして、日本橋材木町にある材木商、桧木屋で不審なぼや騒ぎが起きた。
誰かが湿った布切れや小枝を詰めた鉄鍋に火を点けたため、周囲には大量の煙が立ちこめた。すわ大火事だと騒然となったのは、誰もが想像できるだろう。
その名の通り材木商が多い地域だけに、火事には十分な注意をしている。そのお陰で消火作業も素早く、原因も例の鉄鍋だと直ぐに判明した。
子供の悪戯にしては計画的で質が悪い。桧木屋への嫌がらせだろうかと皆が不審に思った。すると、店主をはじめ手代たちが避難し店が空になった隙に、金品が盗まれるという災難に遭ったと判明する。これは放火というよりも、火付け強盗が目的と思われる事件となった。
一旦、火の手が上がれば、江戸の町は一瞬で火の海となる。しかも、火元が材木商となれば大きな被害も予測されただろう。今回ぼやは騒ぎで済んだものの、陰で強盗事件が起きた。是が非でも犯人を突き止めなければならない。
何を隠そう我らのお頭様、南町奉行大岡忠相は江戸の町を火事から守るため、町火消を創立した人物だ。
享保五年には隅田川以西にいろは四八組、本所・深川に十六組が組織された。また、瓦ぶき屋根や土蔵などの防火建築を奨励し、道幅を広げ延焼を防ぎ、避難路としても活用した広小路や火除地などを設置したのも忠相だった。
すると、直ぐに桧木屋の娘お七が、自ら火を点けたと番屋に駆け込んだそうだ。付け火にお七と聞いて、皆が騒然とした。
五代目徳川将軍綱吉が天下を治めていた天和三年、火付け事件を起こして名をはせた八百屋お七は当時十六歳だった。
天和の大火災で非難した際、寺の小姓に一目ぼれしたお七。小姓会いたさに自宅に火を点けてしまう。しかし、燃え始めた途端に正気に戻ったお七は、近くの火見櫓に登り半鐘を叩き大事にならずに済んだ。
当時、放火犯人は火あぶりの刑と決まっていたのだが、お七は若く被害も小さかった。取り調べをした奉行所では同情する声もあり、「十五歳以下の年少者は罪一等を減じる」という少年法のような規定を使いたかった。ところが、手前は十六歳だときっぱりはねつけ、お七は罪を受け入れたそうだ。
誰かが湿った布切れや小枝を詰めた鉄鍋に火を点けたため、周囲には大量の煙が立ちこめた。すわ大火事だと騒然となったのは、誰もが想像できるだろう。
その名の通り材木商が多い地域だけに、火事には十分な注意をしている。そのお陰で消火作業も素早く、原因も例の鉄鍋だと直ぐに判明した。
子供の悪戯にしては計画的で質が悪い。桧木屋への嫌がらせだろうかと皆が不審に思った。すると、店主をはじめ手代たちが避難し店が空になった隙に、金品が盗まれるという災難に遭ったと判明する。これは放火というよりも、火付け強盗が目的と思われる事件となった。
一旦、火の手が上がれば、江戸の町は一瞬で火の海となる。しかも、火元が材木商となれば大きな被害も予測されただろう。今回ぼやは騒ぎで済んだものの、陰で強盗事件が起きた。是が非でも犯人を突き止めなければならない。
何を隠そう我らのお頭様、南町奉行大岡忠相は江戸の町を火事から守るため、町火消を創立した人物だ。
享保五年には隅田川以西にいろは四八組、本所・深川に十六組が組織された。また、瓦ぶき屋根や土蔵などの防火建築を奨励し、道幅を広げ延焼を防ぎ、避難路としても活用した広小路や火除地などを設置したのも忠相だった。
すると、直ぐに桧木屋の娘お七が、自ら火を点けたと番屋に駆け込んだそうだ。付け火にお七と聞いて、皆が騒然とした。
五代目徳川将軍綱吉が天下を治めていた天和三年、火付け事件を起こして名をはせた八百屋お七は当時十六歳だった。
天和の大火災で非難した際、寺の小姓に一目ぼれしたお七。小姓会いたさに自宅に火を点けてしまう。しかし、燃え始めた途端に正気に戻ったお七は、近くの火見櫓に登り半鐘を叩き大事にならずに済んだ。
当時、放火犯人は火あぶりの刑と決まっていたのだが、お七は若く被害も小さかった。取り調べをした奉行所では同情する声もあり、「十五歳以下の年少者は罪一等を減じる」という少年法のような規定を使いたかった。ところが、手前は十六歳だときっぱりはねつけ、お七は罪を受け入れたそうだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
富嶽を駆けよ
有馬桓次郎
歴史・時代
★☆★ 第10回歴史・時代小説大賞〈あの時代の名脇役賞〉受賞作 ★☆★
https://www.alphapolis.co.jp/prize/result/853000200
天保三年。
尾張藩江戸屋敷の奥女中を勤めていた辰は、身長五尺七寸の大女。
嫁入りが決まって奉公も明けていたが、女人禁足の山・富士の山頂に立つという夢のため、養父と衝突しつつもなお深川で一人暮らしを続けている。
許婚の万次郎の口利きで富士講の大先達・小谷三志と面会した辰は、小谷翁の手引きで遂に富士山への登拝を決行する。
しかし人目を避けるために選ばれたその日程は、閉山から一ヶ月が経った長月二十六日。人跡の絶えた富士山は、五合目から上が完全に真冬となっていた。
逆巻く暴風、身を切る寒気、そして高山病……数多の試練を乗り越え、無事に富士山頂へ辿りつくことができた辰であったが──。
江戸後期、史上初の富士山女性登頂者「高山たつ」の挑戦を描く冒険記。
KAKIDAMISHI -The Ultimate Karate Battle-
ジェド
歴史・時代
1894年、東洋の島国・琉球王国が沖縄県となった明治時代――
後の世で「空手」や「琉球古武術」と呼ばれることとなる武術は、琉球語で「ティー(手)」と呼ばれていた。
ティーの修業者たちにとって腕試しの場となるのは、自由組手形式の野試合「カキダミシ(掛け試し)」。
誇り高き武人たちは、時代に翻弄されながらも戦い続ける。
拳と思いが交錯する空手アクション歴史小説、ここに誕生!
・検索キーワード
空手道、琉球空手、沖縄空手、琉球古武道、剛柔流、上地流、小林流、少林寺流、少林流、松林流、和道流、松濤館流、糸東流、東恩流、劉衛流、極真会館、大山道場、芦原会館、正道会館、白蓮会館、国際FSA拳真館、大道塾空道
魔斬
夢酔藤山
歴史・時代
深淵なる江戸の闇には、怨霊や妖魔の類が巣食い、昼と対なす穢土があった。
その魔を斬り払う闇の稼業、魔斬。
坊主や神主の手に負えぬ退魔を金銭で請け負う江戸の元締は関東長吏頭・浅草弾左衛門。忌むべき身分を統べる弾左衛門が最後に頼るのが、武家で唯一の魔斬人・山田浅右衛門である。昼は罪人の首を斬り、夜は怨霊を斬る因果の男。
幕末。
深い闇の奥に、今日もあやかしを斬る男がいる。
2023年オール讀物中間発表止まりの作品。その先の連作を含めて、いよいよ御開帳。
独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖
笹目いく子
歴史・時代
旧題:調べ、かき鳴らせ
第8回歴史·時代小説大賞、大賞受賞作品。本所松坂町の三味線師匠である岡安久弥は、三味線名手として名を馳せる一方で、一刀流の使い手でもある謎めいた浪人だった。
文政の己丑火事の最中、とある大名家の内紛の助太刀を頼まれた久弥は、神田で焼け出された少年を拾う。
出自に秘密を抱え、孤独に生きてきた久弥は、青馬と名付けた少年を育てはじめ、やがて彼に天賦の三味線の才能があることに気付く。
青馬に三味線を教え、密かに思いを寄せる柳橋芸者の真澄や、友人の医師橋倉らと青馬の成長を見守りながら、久弥は幸福な日々を過ごすのだが……
ある日その平穏な生活は暗転する。生家に政変が生じ、久弥は青馬や真澄から引き離され、後嗣争いの渦へと巻き込まれていく。彼は愛する人々の元へ戻れるのだろうか?(性描写はありませんが、暴力場面あり)
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
漱石先生たると考
神笠 京樹
歴史・時代
かつての松山藩の藩都、そして今も愛媛県の県庁所在地である城下町・松山に、『たると』と呼ばれる菓子が伝わっている。この『たると』は、洋菓子のタルトにはまったく似ておらず、「カステラのような生地で、小豆餡を巻き込んだもの」なのだが、伝承によれば江戸時代のかなり初期、すなわち1647年頃に当時の松山藩主松平定行によって考案されたものだという。なぜ、松山にたるとという菓子は生まれたのか?定行は実際にはどのような役割を果たしていたのか?本作品は、松山に英語教師として赴任してきた若き日の夏目漱石が、そのような『たると』発祥の謎を追い求める物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる