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岸本屋店主彦左衛門の訴え
二
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「うぅむ。それならば手癖が悪い手代の長吉が、売り上げに手を出したのを咎められ、店主の彦左衛門を殺したわけではないと言うのだな? それならば、盗まれた銭はどうなったのだ?」
口書によると店の売上を保管している、泥棒よけの帳場箪笥が荒らされていたそうだ。帳場箪笥はからくりが施され、帳簿や金目のものが隠せるようになっている。それなのにまるでからくりなどないように、売上だけが綺麗に無くなっていた。
盗まれた銭を探したら、当然のように長吉の寝床から見つかったという。
――もちろん、それも忠兵衛の仕業でございます。
「真面目で働き者の番頭忠兵衛が、店主を殺したと言うのか。でも、それならば理由がわからない。銭目当ての犯行でもないようだしなぁ」
声の主はすらすら答えるが、口書を読む限り正太郎には納得できない。
――そりゃあ、単純な話ですよ。店主の女房お栄と恋仲になった忠兵衛が、女房と共謀して殺したんですから。
「はぁ?」
当たり前の話だがそんな裏事情なんぞ、何処にも書いてありゃしない。それが本当ならば真面目で働き者の番頭に、そんな不義理ができるとは誰にも想像できないだろう。
「誰に尋ねてみても、忠兵衛は真面目だと評判が良いそうだ。それに引き換え長吉ときたら、怠け者でいい加減な奴だという話だぞ」
――その上、手癖が悪いときている。
「そうらしいな」
残念ながら長吉の評判は目も当てらないくらい酷いものだった。
――だから、目を付けられたんですよ。
「なんと!」
手癖の悪い手代に罪を擦りつけたところで異論を唱える者はいない。それを見越して番頭の忠兵衛は、長吉に目を付けたという。
しかし、どうして声の主はここまで詳しく説明できるのだろうか。正太郎は知りたくて堪らなくなっていた。
「まるでその場で見たかのような物言いじゃないか。でも、どうしてお主はそこまで言い切れるのだ?」
思わず尋ねてみたところ、声の主はあっさりこう答えるではないか。
――そりぁ、当たり前です。だって殺されたのはこの私なんですから、嘘偽りは一切ございません。
「と、ということは、お主は?」
――はい、殺された岸本屋店主彦左衛門でございます。
殺された本人が証言するのだから間違いない。そう彦左衛門が太鼓判を押したのだった。
口書によると店の売上を保管している、泥棒よけの帳場箪笥が荒らされていたそうだ。帳場箪笥はからくりが施され、帳簿や金目のものが隠せるようになっている。それなのにまるでからくりなどないように、売上だけが綺麗に無くなっていた。
盗まれた銭を探したら、当然のように長吉の寝床から見つかったという。
――もちろん、それも忠兵衛の仕業でございます。
「真面目で働き者の番頭忠兵衛が、店主を殺したと言うのか。でも、それならば理由がわからない。銭目当ての犯行でもないようだしなぁ」
声の主はすらすら答えるが、口書を読む限り正太郎には納得できない。
――そりゃあ、単純な話ですよ。店主の女房お栄と恋仲になった忠兵衛が、女房と共謀して殺したんですから。
「はぁ?」
当たり前の話だがそんな裏事情なんぞ、何処にも書いてありゃしない。それが本当ならば真面目で働き者の番頭に、そんな不義理ができるとは誰にも想像できないだろう。
「誰に尋ねてみても、忠兵衛は真面目だと評判が良いそうだ。それに引き換え長吉ときたら、怠け者でいい加減な奴だという話だぞ」
――その上、手癖が悪いときている。
「そうらしいな」
残念ながら長吉の評判は目も当てらないくらい酷いものだった。
――だから、目を付けられたんですよ。
「なんと!」
手癖の悪い手代に罪を擦りつけたところで異論を唱える者はいない。それを見越して番頭の忠兵衛は、長吉に目を付けたという。
しかし、どうして声の主はここまで詳しく説明できるのだろうか。正太郎は知りたくて堪らなくなっていた。
「まるでその場で見たかのような物言いじゃないか。でも、どうしてお主はそこまで言い切れるのだ?」
思わず尋ねてみたところ、声の主はあっさりこう答えるではないか。
――そりぁ、当たり前です。だって殺されたのはこの私なんですから、嘘偽りは一切ございません。
「と、ということは、お主は?」
――はい、殺された岸本屋店主彦左衛門でございます。
殺された本人が証言するのだから間違いない。そう彦左衛門が太鼓判を押したのだった。
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