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ボクの勝手な「金の玉」
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なんとか教室に間に合ったボクは、自分の席へと着席する。学校へ来る途中も、元々華奢な身体だけあって、自分の身体の変化に気付く者はいなかった。多分、自分の貧弱な身体に感謝したのはこの時が初めてだろう。
「おはよっ! 桜田くん」
「もっ、桃井さん!? おはよう……」
教室に入ってきた彼女に、彼女の方から挨拶されてボクの心臓の音は急上昇する。やはり、女体化してしまってもボクの彼女への気持ちは変わってはいない。もっとも、この時は自分の女体化がバレてしまわないかの不安とドキドキも混じっていたが……。
「…………」
ボクの声を聞くなり、桃井さんはふと足を止めてボクの顔をまじまじと見つめる。めちゃくちゃ緊張すると同時に、何かバレてしまったのではないか勘ぐって、冷や汗をかいてしまう。
「……桜田くんさぁ……。なんかちょっと声変わってない?」
その言葉にボクはドキリとする。どうやら女体化は、声の音程をも僅かに高くしていたらしい。母さんは鈍感だから気付かなかったようだが、桃井さんは少し勘が鋭いらしかった。
「そッ、そんな事ナイヨ~ッ? ただの逆声変わりダヨ~?」
「逆声変わり……?」
慌ててボクは低めの声を出して取り繕う。苦しい言い訳ではあったが、彼女はそれ以上の追及はして来なかった。
「まぁいいわ、なんか可愛いし。どうか大人になっても、ずっとそのままのあなたでいてね❤」
「ま、また可愛いとか言わないでぇえーッ!」
女子に可愛いとか言われる気恥ずかしさに、身悶えしてしまうボク。桃井さんはからかうような口調だったが、ボクとしては内心バレたのではないかと気が気でない。
どうしたもんかと思ったが、ちょうどその時、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴った。
※※※
一時間目が終わって休み時間に入ってからも、ボクの頭の中は悶々とした考えでいっぱいだった。朝から多くの事が一度に起こり過ぎて、頭の整理が追い付かない。
どうにかこうにかごまかせたけど……。女子に可愛いとか言われるこの屈辱……。
むぐぐ……。こっちの気も知らないで……、可愛いとか言うなよバカ……。
こんな身体になってしまっても、ボクの彼女への思いは変わっていない。だが、このままでは彼女に告白なんて出来る訳もなかった……。ボクはあくまで、男として彼女に認められたいのだ……。
そもそもこの身体、一体いつ元に戻るんだ……? まさか、一生このまま……。
そこまで考えが至って、ボクの脳裏には戦慄がよぎる。確かに入れ替わりのパターンなら、映画や漫画のラストで元の身体に戻れるのがオチだが、女体化となると話は分からなくなってくる。自分の身体そのものが変化してしまっている為、もしそれが不可逆現象となると元に戻れない可能性が高いのだ。ついでに言うと、入れ替わり展開と比べてキャッキャウフフ展開のドキドキ感やタブーも無い。最悪だ。
机の木の節目をボーっと見ながら、そんなこんなを延々と考えているうちに、頭上から謎の声がかかる。その声は、何やら変声機をかけてある怪しい声だった。
「オーイ、聞いてっか? そこのタマ無し野郎――――」
ビックリして顔を上げるが、そこには誰もいない。周囲を見渡してみるけども、次の時間は理科の移動教室なので、既にほとんどの人は教室にいない状態だった。残っている人も、前の席の方で話し込んでいる桃井さんと女友達たちくらいである。その人達も、さっきの声までは聞こえていないようだ。
「ここだここだ。上だよ」
またもや声がした。急いで上の方を見上げると、そこには何やら金色に鈍く光る球体が浮いていた。金色っていうか、金そのものである。何でかは知らんが、人の声がしたのはその金の玉からだったのだ。また、浮いている原理もさっぱり分からない。金の玉はボクの目の前の高さへと降りてこう告げた。
「『男』を取り戻したきゃ――――、この『金の玉』(ゴールデンボール)を捕まえてみろ――――」
あまりの下らない下ネタを聞いて、唖然とするボク。そのうち、目の前の超常現象はボクの潜在意識が生み出した幻覚かと思って、ボクはゆっくりと金の玉に手を伸ばす。
「ハッ、のろいぜ! そんなんで捕まるかよタマ無しヤロー!」
金の玉はそれをもの凄いスピードで避けたかと思うと、口汚く罵ってくる。煽られたボクはちょっとイラっときて、何としてでも捕えようと手を振り回した。
「ホラホラどーした? ノロマすぎて欠伸が出るぜぇ?」
それでも、金の玉は手の間をビュンビュンと抜けて動き回り、まるで捕まらない。
「その程度か? かかって来いよ童貞ヤロー」
何この喋るキンタ○!? 本当に幻覚!? なんか無駄に素早いし!?
「そんなんだからいつまでたっても童貞なんだよ……。この《ピー》が《ピー》で《ピー》野郎が!」
しかもなんか、凄い煽ってくるし!? まさか、こんなの口汚いのが本当にボクのキンタ○なの!?
「クッ……、こうなったら……」
作戦を考えたボクは制服のブレザーを脱ぐと、それを両手で広げて構える。
「『点』でダメなら……、『面』攻撃で!」
ボクはブレザーを被せるように、金の玉へと素早く投げつけた。
「フギャッ!?」
流石にこれは避けられなかったのか、机に覆いかぶさったブレザーに金の玉はあっさりと捕まる。それは幻覚なんかではなく、ちゃんと実体のある代物だった。
「よっしゃッ! 捕えたッ……! このまま……」
と思ったのがいけなかった。意外にも金の玉は浮く力も強く。ブレザーで押さえつけてもなお浮こうとし、さらにはブレザーごとボクを引っ張って行こうとした。
「どわあああああっ!?」
引っ張る力に引きずられて、ついには教室を飛び出してしまったボクは為されるがままに廊下を走ってしまう。途中でボクの異様な様子を見かけた桃井さんが、「桜田くん!?」と声をかけたような気がしたが、それに応える余裕も今のボクには無かった。
「おはよっ! 桜田くん」
「もっ、桃井さん!? おはよう……」
教室に入ってきた彼女に、彼女の方から挨拶されてボクの心臓の音は急上昇する。やはり、女体化してしまってもボクの彼女への気持ちは変わってはいない。もっとも、この時は自分の女体化がバレてしまわないかの不安とドキドキも混じっていたが……。
「…………」
ボクの声を聞くなり、桃井さんはふと足を止めてボクの顔をまじまじと見つめる。めちゃくちゃ緊張すると同時に、何かバレてしまったのではないか勘ぐって、冷や汗をかいてしまう。
「……桜田くんさぁ……。なんかちょっと声変わってない?」
その言葉にボクはドキリとする。どうやら女体化は、声の音程をも僅かに高くしていたらしい。母さんは鈍感だから気付かなかったようだが、桃井さんは少し勘が鋭いらしかった。
「そッ、そんな事ナイヨ~ッ? ただの逆声変わりダヨ~?」
「逆声変わり……?」
慌ててボクは低めの声を出して取り繕う。苦しい言い訳ではあったが、彼女はそれ以上の追及はして来なかった。
「まぁいいわ、なんか可愛いし。どうか大人になっても、ずっとそのままのあなたでいてね❤」
「ま、また可愛いとか言わないでぇえーッ!」
女子に可愛いとか言われる気恥ずかしさに、身悶えしてしまうボク。桃井さんはからかうような口調だったが、ボクとしては内心バレたのではないかと気が気でない。
どうしたもんかと思ったが、ちょうどその時、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴った。
※※※
一時間目が終わって休み時間に入ってからも、ボクの頭の中は悶々とした考えでいっぱいだった。朝から多くの事が一度に起こり過ぎて、頭の整理が追い付かない。
どうにかこうにかごまかせたけど……。女子に可愛いとか言われるこの屈辱……。
むぐぐ……。こっちの気も知らないで……、可愛いとか言うなよバカ……。
こんな身体になってしまっても、ボクの彼女への思いは変わっていない。だが、このままでは彼女に告白なんて出来る訳もなかった……。ボクはあくまで、男として彼女に認められたいのだ……。
そもそもこの身体、一体いつ元に戻るんだ……? まさか、一生このまま……。
そこまで考えが至って、ボクの脳裏には戦慄がよぎる。確かに入れ替わりのパターンなら、映画や漫画のラストで元の身体に戻れるのがオチだが、女体化となると話は分からなくなってくる。自分の身体そのものが変化してしまっている為、もしそれが不可逆現象となると元に戻れない可能性が高いのだ。ついでに言うと、入れ替わり展開と比べてキャッキャウフフ展開のドキドキ感やタブーも無い。最悪だ。
机の木の節目をボーっと見ながら、そんなこんなを延々と考えているうちに、頭上から謎の声がかかる。その声は、何やら変声機をかけてある怪しい声だった。
「オーイ、聞いてっか? そこのタマ無し野郎――――」
ビックリして顔を上げるが、そこには誰もいない。周囲を見渡してみるけども、次の時間は理科の移動教室なので、既にほとんどの人は教室にいない状態だった。残っている人も、前の席の方で話し込んでいる桃井さんと女友達たちくらいである。その人達も、さっきの声までは聞こえていないようだ。
「ここだここだ。上だよ」
またもや声がした。急いで上の方を見上げると、そこには何やら金色に鈍く光る球体が浮いていた。金色っていうか、金そのものである。何でかは知らんが、人の声がしたのはその金の玉からだったのだ。また、浮いている原理もさっぱり分からない。金の玉はボクの目の前の高さへと降りてこう告げた。
「『男』を取り戻したきゃ――――、この『金の玉』(ゴールデンボール)を捕まえてみろ――――」
あまりの下らない下ネタを聞いて、唖然とするボク。そのうち、目の前の超常現象はボクの潜在意識が生み出した幻覚かと思って、ボクはゆっくりと金の玉に手を伸ばす。
「ハッ、のろいぜ! そんなんで捕まるかよタマ無しヤロー!」
金の玉はそれをもの凄いスピードで避けたかと思うと、口汚く罵ってくる。煽られたボクはちょっとイラっときて、何としてでも捕えようと手を振り回した。
「ホラホラどーした? ノロマすぎて欠伸が出るぜぇ?」
それでも、金の玉は手の間をビュンビュンと抜けて動き回り、まるで捕まらない。
「その程度か? かかって来いよ童貞ヤロー」
何この喋るキンタ○!? 本当に幻覚!? なんか無駄に素早いし!?
「そんなんだからいつまでたっても童貞なんだよ……。この《ピー》が《ピー》で《ピー》野郎が!」
しかもなんか、凄い煽ってくるし!? まさか、こんなの口汚いのが本当にボクのキンタ○なの!?
「クッ……、こうなったら……」
作戦を考えたボクは制服のブレザーを脱ぐと、それを両手で広げて構える。
「『点』でダメなら……、『面』攻撃で!」
ボクはブレザーを被せるように、金の玉へと素早く投げつけた。
「フギャッ!?」
流石にこれは避けられなかったのか、机に覆いかぶさったブレザーに金の玉はあっさりと捕まる。それは幻覚なんかではなく、ちゃんと実体のある代物だった。
「よっしゃッ! 捕えたッ……! このまま……」
と思ったのがいけなかった。意外にも金の玉は浮く力も強く。ブレザーで押さえつけてもなお浮こうとし、さらにはブレザーごとボクを引っ張って行こうとした。
「どわあああああっ!?」
引っ張る力に引きずられて、ついには教室を飛び出してしまったボクは為されるがままに廊下を走ってしまう。途中でボクの異様な様子を見かけた桃井さんが、「桜田くん!?」と声をかけたような気がしたが、それに応える余裕も今のボクには無かった。
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