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第6話

マリアの縁談・1

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 想像以上の成果を上げてパトリシアはダンジョンの冒険者の同意を得る方法を得た。
 パトリシアに臣従したレオナルドは「俺に任せておけ。アンタは自分の仕事をしろ。」とパトリシアを酒場から送り出してくれた。
 店を出るときにパーティを抜けると言っていたイザベラとパトリシアが和解の抱擁ほうようをした。
 こうしてすべてが円満に収まったところでドミニクとパトリシアは屋敷へと帰っていった。

「あ~、やっぱり我が家が一番ねぇ~。」
「ふふふ。そうだね。今日は本当に大変だったからねぇ。」

 馬車から降りて着替えを済ませた二人はセバスティアンが入れてくれた紅茶を飲みながらケーキを食べていた。
「ワッフルは結局、お預けになってしまいましたが、うちのケーキも捨てたものじゃありませんわね。
 とっても美味しいわ。セバスティアン。」
 パトリシアにそう礼を言われたセバスティアンは「どうも」とだけ返事を返す。

(我が家じゃないだろうにっ!! もうそこまで懐いたというのなら、さっさとドミニクと結婚して本当にここをわが家に変えてくれっ!!)
 笑顔で答えてはいるものの心の中でイライラしているセバスティアンをマリアは見越しており、ため息をついた。
 ドミニクはというと、紅茶を口に含みながら先の事を考えていた。
 冒険者との交渉はレオナルドがやってくれる。となると、今、パトリシアがやるべきことはダンジョンの安全を確保することだ。だが、しかし。それは本当に実現させることが難しい問題点であった。

 古代都市の地下迷宮は防衛都市であったために多くの人口を守れる仕組みになっている。だから必然的にかなりの広さがあった。そこでの工事期間、工員の安全を確保しようと思ったら、相当な人数の戦士を一度に大量に送り込まなければならない。実現はかなり難しかった。

「・・・・問題は、護衛の人数をどこからかき集めてくるか・・・・だな。」
 考えながら紅茶を飲んでいたドミニクは、自分でも気が付かぬうちに声に出してしまっていた。
 そして、口にしてから我に返ってパトリシアの方を見ると、パトリシアもドミニクの言葉を聞いてケーキの甘味にとろかされてしまった心を目覚めさせ、考え込んでしまった。
「そうね・・・。地下3階層までの安全を確保し続けるともなると、相当な数の魔物を退治しないとどうにもならないし、工事期間、ずっと人員を確保するのもとても難しいわね。」
「・・・・うん。」
 ドミニクはパトリシアがきちんと問題の要点を押さえていることに感心しながらうなずいた。
 広範囲を長期間防衛する仕事は、個々で生活費を確保しないといけない冒険者を集めて行うのには向いていない。こんなものはどちらかと言えば軍隊の仕事だ。十分な人員が揃っており、なおかつ給料制なので何もしていてもしていなくても決められた金額が発生している軍人にやらせるにはうってつけなのだ。
 だが、しかし。これは民間の事業である。国を守るために派遣している軍隊にやらせて良い仕事ではない。
 つまり、今のところ二人は完全に行き詰ってしまっているのだった。

「う~ん。ねぇ~、ドミニク。どうしましょう?」
 妙案みょうあん思いつかず、とうとうパトリシアはドミニクに甘ったれた声を上げだした。これはつまり、ドミニクに「何とかして」と丸投げするつもりである証拠であった。
 対するドミニクは
「う~ん。どうしようっか?」と、困ったような声を上げる。これはつまり、丸投げされたドミニクが仕事を引き受けた了承の返答である。幼いころからパトリシアのわがままを叶えて来たドミニク。こんな二人の間に生まれた不思議な空気感であった。
 しかし、実際この問題は既にパトリシア個人ではどうしようもないレベルの話であり、ドミニクも「自分がどうにかしてあげないといけないな。」と理解している問題だった。
 ドミニクは部屋の窓から遠くの景色を眺めつつ考えにふけった。
「・・・・・どうしようっか?」
 しかし、いくら考えてもその日に妙案は浮かんでは来なかった。

 そして、翌日に事件が起こった。
 朝食を済ませたドミニクとパトリシアが食後の散歩をしながら、いつも通り無自覚にイチャイチャと話し合っていた時の事だった。二人のもとへ知らせが届く。
 始めは散歩を見守るセバスティアンの下へ血相を変えた家人が伝言を伝え、次に困り果てたような顔をしたセバスティアンが「ご歓談中に失礼いたします。」と言ってドミニクに重大な事態を耳打ちした。

「ドミニク様。ブルーノ・ベン・サンチェス伯爵が当家を訪ねて参られました。」
「サンチェス伯が? こんな朝早くにか?
 今日、予定してあったか?」
 サンチェス伯爵の訪問はドミニクにとっても寝耳に水のことで思わず驚いて聞き返す。パトリシアはその様子を見て
(冷静なドミニクらしくない驚きぶりね。そして、これは政務。わたくしは口を挟まない方が良いかしら。)と考えて、ドミニクから1歩離れて様子をうかがった。セバスティアンの様子を見てもどうやら問題事らしい。

「いえ。約束はしておられません。
 ただ、大変、御立腹の様子で家に参られたそうで。今は応接室でお待ちいただいておりますが・・・お早くお願いします。」
「立腹? なぜ?」
 ドミニクが質問を返すとセバスティアンはパトリシアの顔をチラチラと見ながら遠慮がちに言った。
「あ~・・・・申し上げにくいのですが・・・・
 実はパトリシア様とイチャコラ・・・・あ~・・いえ。パトリシア様と新事業について動いておられた時・・・・覚えておいでですか?
 あの時、本来はサンチェス伯爵と王都防衛の合同練兵についての会議をする予定だったことを・・・」

 セバスティアンの言葉を聞いてパトリシアは「ええっ!?」と、驚きの声を上げる。
「ド、ドミニク~~っ!! そ、そんな大切な御用があったのなら、私のことなど後回しにされればよかったではないですかっ!!
 ど、どうしましょう。私のせいで大変なご迷惑を・・・・」
 自分のせいでドミニクに迷惑をかけてしまったと知ったパトリシアは困ってしまった。だが、ドミニクはそんなパトリシアの肩を抱き寄せると
「君の事を後回しになんかできるか。僕には君より大切な用事なんかないさ。
 まぁ、大丈夫。僕に任せておけ。」と力強く言うのだった。

 一方、ドミニクが応接室に向かう途中の応接室は大変な騒ぎになっていた。
「サルヴァドールきょうはまだかっ!?
 いつまで待たせるつもりだっ!?」
 とサンチェス伯爵がいきり立っていた。
 
 ブルーノ・ベン・サンチェス伯爵。この男、ドミニクと共に王都の防衛任務を任されている名門の家の出で大変な武辺者ぶへんもの。武の腕は立つし、教養も高く、普段は非常に紳士であったが、生真面目すぎて何事においても加減なく猪突猛進ばりに一直線に突撃してしまうのが玉にきず
 今日も大切な演習の訓練についての会議をさぼられたと知って、いてもたってもいられなくなり、お付きの者共が止めるのも聞かずに爵位が上のドミニクの下へ電撃抗議にやってきてしまったのだ。

 身長185センチ体重90キロで筋骨隆々という大変な巨漢。おまけに武に秀でているというのだから、その迫力は大変なものでサルヴァドール家のメイドたちはすっかりおびえてしまい、家の奥に引っ込んで震えるばかり。仕方なく男どもが出て来てサンチェス伯爵の相手をしているのだが、その剣幕に皆、委縮してしまっていた。

 そんな時だった。所要を済ませるためにドミニクたちから離れていたマリアが異変に気が付いた。朝からやたらと騒がしいなと思ったマリアが厨房の奥にこもってしまったメイドたちに尋ねた。
「ねぇ、どうしたの? 誰か来ているの?
 どうしてみんな怯えているの?」
 メイドたちは「今、応接室にサンチェス伯爵という恐ろしい武人が居座っています。こんな朝早くから来て大変、御立腹のご様子。どうかマリア様も応接室には近づかぬように。」と口をそろえて答えた。
「ふ~~ん。」
 マリアは話を聞いた後、仲間が酷い目に合わされているのなら執事長の娘である自分が出て対処すべきだろうと考え、皆が引き止めるのも聞かずに一人で応接室に向かうのだった。

 しかし、マリアが丁度応接室にたどり着くほんの少し前にドミニクはパトリシアとセバスティアンをつれて応接室に到着していた。
 ドミニクが部屋に入った時、サンチェス伯爵は椅子にも座らず、いらいらした様子で応接室の中を右往左往に歩いていた。

「やぁ、おはよう。サンチェス伯。こんな朝早くから一体、何の用事かね?」
 扉を開けて応接室に入ってきたドミニクはサンチェス伯爵が怒っている原因を自分が作ったことを知りながら、それでも弱みは一切見せず、むしろアポなしで早朝に乗り込んできたサンチェス伯爵の無礼を責めるような口調で話しかけた。

 その態度はサンチェス伯爵を大いに苛立たせた。
「何の用事ですと? 何の用事?
 筆頭伯爵こそ一体、何の用事で私との約束を破られたのかっ!? 
 噂は聞いておりますぞっ! 知っておりますぞっ!
 あなたは、事もあろうか王都防衛の任務を放棄して、貴婦人を連れて王都を出歩いていた。
 挙句の果てに酒場で冒険者たちと大立ち回りされたそうではありませんかっ!!
 一体、一体・・・・・サルヴァドール卿は王都防衛の任を何とお心得かっ!!」

 サンチェス伯爵の怒声どせいはすさまじくサルヴァドール家の窓が振動で響くかというほど力強かった。
 だが、ドミニクはそれに動じることはなく(全く生真面目なことは良い事だが、いささか面倒な男だな。)などと冷ややかな目で見ていた。
 そして、応接室の外まで響き渡るサンチェス伯爵の怒声を廊下で聞いていたマリアは、「これはマズい。ご機嫌を取らなければ・・・・」と考えてそそくさと部屋に戻ってメイドたちに「お紅茶とクッキーを用意しなさい。それと少しのお酒と。」と指示するのだった。

「まぁ、立ち話もなんだ。まずは座って話をしよう。
 かけたまえ。」
 まず、ドミニクは冷静に話を進めるために自ら椅子に座ってそううながした。貴族としての立場が上のドミニクにそう促されればサンチェス伯爵も座らぬわけにもいかぬ。不承不承ふしょうぶしょうにサンチェス伯爵はドミニクの対面に座った。
 同席したパトリシアは席には座らずセバスティアンと同じようにドミニクの後ろに控えるように立った。

 その様子を見たサンチェス伯爵は不思議そうに「・・・・そちらのご婦人は? 身なりからするとそれなりの御立場の御方に見えますが。」と尋ねた。サンチェス伯爵からすれば、政務の話し合いの中に女性が入っていることも不思議であるし、貴婦人が何故、ドミニクと一緒にいるのかも不思議であった。
 ドミニクは答えた。
「彼女はパトリシア・ベン・クルス。クルス男爵家の姫で私の幼馴染だ。」
 その答えを聞いたサンチェス伯爵は、眉をピクリと上げた。

「では、それが噂の男爵家のワガママ姫ですか。
 しかし、いかがなものですかな?
 その娘は既に男爵家を追われて庶民に落ちた身。そのようなものに貴族姓である「ベン」をつけるのは?
 そもそもクルス家はその娘との縁を切ったと聞きましたぞ。という事はその娘は庶民落ちしたという事。庶民の娘がベン・クルスなどと名乗るのも問題ですな。」
(※貴族姓。一目で貴族と分かるために名前の中に入れられた称号。EU圏内には「フォン」「ファン」などの貴族姓が実在する。ちなみに筆者は名作「ベン・ハー」の「ベン」を参考にすることが多い。ベン・ハーの主人公ジュダ・ベン・ハーは直訳するとユダヤ王家ハーのジュダという意味。)

 サンチェス伯爵はパトリシアを睨みつけると厳しい口調で言った。パトリシアも男爵家の娘だが、伯爵と男爵では家格が違う。パトリシアは蛇に睨まれた蛙のように肩を狭めて瞳を伏せた。
 しかし、そんなことになればドミニクが黙っているわけがない。「サンチェス伯」とドスの利いた声を皮切りに威圧し始める。

「この娘と実家の間は私が取り持つことにしている。問題は直ぐに解決する。
 パトリシアがクルス家を名乗るか名乗らぬかは貴公が口を挟む問題ではない。黙っていよ。」
「むっ!! なんという言い草ですかっ!?
 これは貴族の沽券こけんにかかわる問題。そのように軽く扱われては困りますなっ!!」

 サンチェス伯爵の言い分は貴族の常識で考えれば、当然の事であった。ドミニクは貴族の庶子に過ぎないレオナルドが貴族姓である「ベン」を名乗っても大してとがめなかったが、これはかなり寛大な処置である。通常はサンチェス伯爵のように排除しにかかるものであった。
 ドミニクの態度はサンチェス伯爵の怒りに火を注ぎ、さらに追及は続く。

「そもそもサルバトーレ卿が私との会議の約束を反故ほごにしたのはその娘と乳繰り合うためというのは本当ですかなっ!?
 いなっ!! ちまたであなたがその娘とデートしていたことが噂になっていることを今朝聞いて我が耳を疑いましたが、今、その娘がそこにいることが何よりの証拠っ!! 聞くまでもない事でありましたなっ!
 あげくに酒場で庶民と一悶着起こすとは、これは大変な問題ですぞっ!!」

 サンチェス伯の言葉はドミニクの逆鱗に触れることは間違いなかった。
(このままでは、大変な問題になるっ!?)
 セバスティアンが慌てて間に割って入って釈明しようとした。

 だが、しかしっ!!
 ドミニクもパトリシアも「デートしている」だの「乳繰り合っている」などと恋人扱いされたことが嬉しかったのか、頬を染めながら「べ、べつにそういうのじゃないから・・・・」と、口ごもっているだけだった。
(こ・・・このボケどもがっ!!)
 セバスティアンは苛立ちながらもするべき仕事をする。つまり主人に変わって釈明をするのだ。

「伯爵様。それは誤解に御座います。
 というか、説明が要ります。
 我が当主は決して遊んでいたわけではなく、パトリシア嬢との合同事業を進めていたおりに起きた突然のクルス家の沙汰さた。これを放っておくことは多額の資金を投資する予定の当家にとっては大変な損失になるものですから致し方なく・・・・・・」
 と、釈明を始めたところ、それはサンチェス伯爵の新たな怒りの火種となった。

「黙れっ!!! いかに筆頭伯爵家に仕える者とは言え、執事にすぎぬ貴様が貴族の私に口を利くなど考えられぬ事だっ!! 控えろ、下郎っ!?」
 一喝した。だが、次の瞬間、セバスティアンを侮辱されて怒り狂ったドミニクが立ち上がる。

「貴様っ!! よくも私のセバスティアンを侮辱してくれたなっ!!」
「落ち着きくださいませっ!! 落ち着きくださいませっ!! 落ち着いてくださいませっ!! 」
 立ち上がって殴りかかろう勢いのドミニクをセバスティアンは必死で抱きとめる。そのドミニクのあまりの剣幕に流石のサンチェス伯爵も大いに狼狽えてしまった。

「な・・・・なにを・・・何故、ただの家人にそこまで・・・・」
「家人ではないっ!! 私の家族だっ!!」

 ドミニクは怒り心頭で言い返した。ドミニクは普段は大人しいがその根っこは武人である。自分の大切な人が一日に二人も侮辱されてしまったのだ。もはや、決闘という血を見ねば済ませられないところまで来ていた。

 だが、そこに「お茶とクッキーをお持ちしましたぁ~」と、子猫のように可愛い声をした美少女が王室に入ってきた。マリアだ。
 非力のマリアが危なっかしくも天板にティーセットが乗ったテーブルを押しながら騒然とする応接室に入って来ると、ドミニク達も見ていられなくって冷静さを取り戻す。

「あああ・・・・危ないから。ね、マリア。
 私が手伝うから、落ち着いてっ!! ねっ?」
 小柄で非力で不器用なマリアが押すテーブルはガタガタと左右に揺れ、危なっかしく、パトリシアが思わず助けに入った時は、全員で見守った。
「あ、あの・・・・お茶に致しませんか?」
 マリアが精一杯の引きつり笑いを見せるとドミニクも落ち着きを取り戻し、席に座り直してマリアの給仕を受ける。
 そして僅かに震えながらも健気に給仕する姿に胸がキュンと締め付けられる思いがした。

(なんと健気な。私がこれ以上逆上して問題が大きくならないように、怖い思いを我慢して給仕に来てくれたんだな。
 二人の想いに応えるためにも私はもっと自制できるようにならねば。)
 ドミニクは自分を守ってくれるマリアやセバスティアンに深く感謝し完全に冷静さを取り戻すのだった。

 ところが、対照的にサンチェス伯爵は冷静さを完全に見失っていた。
 顔を真っ赤にしながら硬直し、マリアを一心に見つめていた。
「・・・・か、可憐だ・・・・」
 サンチェス伯爵は震える手でマリアがれてくれた紅茶をすすり、作法も何もなく無造作に手に取ったクッキーを口に運んでバリバリむさぼると、おもむろに立ち上がってマリアに近づき、その顔を上からのぞき込み動かなくなってしまった。

「・・・・どうした? サンチェス伯?」
 マリアの前で仁王立ちになって顔を覗き込んだまま微動だにしない。そんな異様な状態になってしまったサンチェス伯爵をドミニクが別の意味で心配になってしまって思わず声をかけた。するとサンチェス伯爵はその巨体をビクッと振るわせて我に返ると、「これで・・・失礼する。」とだけ告げて熱病にうなされたかのようにフラフラと屋敷から出て行ってしまった。

「な、なんだったんだ? あれは・・・・」
 一同はサンチェス伯爵の急変ぶりに思考が追い付かずに固まってしまうのだった。
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