あばずれローニャ

黒神譚

文字の大きさ
上 下
133 / 150
第9話

訣別の時 17

しおりを挟む
メリナの攪乱作戦は成功し、討伐部隊は動揺していた。
その動揺が覚めぬうちに神殿という密室に数で勝るオークたちがスクラムを組んで一斉に飛び掛かって来る。
その突撃を冒険者たちは巨大な楯の擁壁で受け止めて阻止する。

楯と肉。そしてそれを支える骨までもがミシミシと音を立てて激しい肉の押しつぶしあいが始まった。こういった戦いは例外なく押し負けた方が不利となる。肉弾戦で負けるという事は精神的にも敗北を意味するからだ。負けを認めた瞬間、アッサリと後退が始まる。逃げ腰の戦士が生き残る道など戦場にはないのだ。

「だ、ダメよっ!! 皆、気をしっかり持ってっ!! お願いっ!!」

仲間の動揺に狼狽えてしまったレジーナが泣きそうな声を上げて鼓舞しようとするが、それは怯える彼らに対しては逆効果だった。襲い掛かって来るオークの進撃を楯で受け止めている冒険者たちが「も、もうダメだっ! こんな楯じゃもたないっ!! いったん撤退しようぜっ!!」と弱音を吐き始める。
恐怖は仲間に伝達していき、やがて戦う意思が弱まりジリジリ後退が始まりだした。

その時だった・・・・・。

「前進せよっ!!」

気迫のこもったアルバートの一喝が神殿に響く。
そのたった一喝で冒険者たちの様子が変わる。
「行くぞっ!! 押し返せっ!!」「せーのっ!!」
皆で掛け声を掛け合ってオークたちのスクラムを押し返し始めたのだった。

「こ、これはまさか・・・勇気付与ハブコーレッジ
 ・・・・・・神官騎士の固有スキルっ!!」

戦場にいてはある意味魔法よりも絶大な威力を誇るその奇跡を目の当たりにしたメリナが驚愕の声を上げる。つい先ほどまで弱音を吐いていた冒険者たちが一瞬で闘争心をむき出しにしてきたのだ。

「やれっ!! 皆殺しにしてやれっ!!」「殺してやるっ!! 殺してやるぞ、闇の勢力どもっ!!」

前衛の物だけでなく楯の後列に並ぶ者達も攻撃に加わり始めて戦況は一変した。冒険者たちが盛り返し始めたのだ。
それを好機と見たのかアルバートが叫ぶ。

「潮目が変わったぞっ! レジーナ、ナタリア。指揮を頼むっ!!
 私は天使を召喚するっ!!」
「「はいっ!!」」

アルバートの命令に同時に答えたレジーナとナタリアも勇気付与の影響を受け、すでに覇気を取り戻していた。彼女達ならばこの戦況をどうにかできるだろう。
アルバートは二人の様子を確認すると、その場に跪いて両手を合わせた。

「天におわします我らの神よ。地におわします我らの神よ。
 闇の勢力に襲われる我らを御守り下さい。
 その慈悲深き御心とお力により偉大なる神の使途を御遣わし下さいませ。」

その時、私は奇跡を見た。
生まれて初めて本物の奇跡を見たのだ。

アルバートの奇跡の祈りが終わると同時に討伐隊の前に雷光が走り、冒険者たちを押し込んでいたオークたちを焼き焦がす。
オーク特有の甲高い悲鳴と彼らの体を焼く煙の中にこの世の者とは思われぬほど美しい5人の天使が降臨したのだった。

「天使・・・召喚。
 あの神官騎士・・・一人でこんな奇跡をやってのけたのかっ!?」

強敵の実力を目の当たりにしたメリナが恐怖と戦いの高揚を押さえきれなくなり、顔を引きつらせて笑うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

思春期ではすまない変化

こしょ
青春
TS女体化現代青春です。恋愛要素はありません。 自分の身体が一気に別人、モデルかというような美女になってしまった中学生男子が、どうやれば元のような中学男子的生活を送り自分を守ることができるのだろうかっていう話です。 落ちがあっさりすぎるとかお褒めの言葉とかあったら教えて下さい嬉しいのですっごく 初めて挑戦してみます。pixivやカクヨムなどにも投稿しています。

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...