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第3章「ゴルゴダの丘」
第55話 死霊術、再び
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町を出るまでの4日間は本当にお客も少なく、魔神様シェーン・シェーン・クー様は「無理に商売をする必要はないな。」と決断を下されて、途中から全員で買い物に出かけたりもしました。もちろん、魔神様のおごりです。
大勢を引き連れて買い物をする魔神様が街に出かけるとたちまち人気者になりました。
「いやぁ、ここいらで娘たちの服を小綺麗にしてやってモデナではその分、稼いでやろうと思いましてな。」
なんて気前のいい親方風情の事を仰って、町でたくさん服やら装飾品を買い、そして食事をするのです。その気前の良さに町の人たちは「なんて娘思いの親方なんでしょう。これならあんなに美人の娘たちを抱え込める理由がわかるわ。」と、口々に話しました。
そんな風に噂になるくらいですから、本当にジュリアたちは良い服を買ってもらって、良い物を食べさせてもらっていました。なにしろお金を出すのは魔神様。ご予算はあってないようなものなのでドンドンこの町で使うご予算の上限を超えていく、いわゆる青天井の予算で服を買ってもらえるのですから当然でしょうね。中には生まれて初めて本物の宝石が付いた装飾品を買ってもらって涙を流す娘までいました。
「わ、わわわ、私、もう魔神シェーン・シェーン・クー様のお仕事だけしたいですっ!!」
などと一番若いジネヴラなどは目を輝かして話します。それは何も若いジネヴラだけの気持ちではありませんでした。決して口には出しませんでしたが、ジュリアもそのように考えていたようです。
私は言います。
「いいですわよ。魔神シェーン・シェーン・クー様のお許しがあるのならば、私はいつでも移籍を認めます。」
そういわれた娘たちはパッと期待に目を輝かせてと魔神様の方を見るのですが、魔神様は
「こらこら。何を勘違いしている。俺は娼婦の魔神ではないぞ。
こんな仕事はもうないんだぞ。」
と言って笑うのでした。
ジュリアたちもそう言われるとハッとなって「そ、そういわれれば、そうでした。」なんて言って笑います。とても不思議な光景でした。
賤民の浮れ女たちが魔神様と軽くお話して笑いが起こっているのです。魔神様と言えば本来ならば、お顔を直視することも憚られるような貴い存在ですから、本当は絶対にありえないことなのです。それが今、起こっているのは全て魔神シェーン・シェーン・クー様の度量の広さを現しているということなのです。
そうやって楽しい4日が過ぎて町を出ることになった日、私たちは町の人たちから歓迎された証のお見送りまでされて出て行くのでした。
そして売春宿の主が説明してくれた通り町を出て西に暫く進んだところにある川沿いに沿って南下して大都市モデナを目指すのでした。
「さてラーマ。
俺は魔神ゆえに世界の形を知っている。当然、ジェノバの都市の位置は把握している。
その俺がなんで最初に小さな町を選んで情報収集を始めたのかわかるか?」
行く道すがら魔神様は私を試すようにお尋ねになりました。私はしばらく考えてから
「何か問題が起きても、小さな町ならば衛兵も少なく対処に困らないからですか?」
とお答えいたしました。その答えは魔神シェーン・シェーン・クー様の納得を得られたようで、魔神様は私の頭をグリグリ撫でながら褒めてくれました。
「そういうことだ。お前は世間知らずのバカ娘のくせに賢いな。
要するにだ。
この町でジェノバ国民の大体の国民性を学び、大都市に入ってから下手を打たないようにするための布石だ。
まぁ、お前の世間知らずっぷりは意外なほど効果的だったので、ラーマ。お前は次の町でもアホ娘のままでいい。」
「他の女たち、そして護衛の騎士達は、次の町に入ったらどう振舞うべきか考えておけよ。」
と、買い物三昧で浮かれ気分のジュリアたちに釘をさすのでした。
ていうか、私はアホ娘ではありませんわっ!! 私は心の中で猛抗議します。
「では、今日一日は馬車でゆっくりと移動し、明日の早朝に俺が魔法で馬を神馬に変えて一瞬で移動するぞ。」
魔神シェーン・シェーン・クー様の宣言を聞いて全員で反対しました。誰の脳裏にもジェノバ入国のさいのあの大突撃の恐怖が走ったからです。
「やかましいっ!! 今度の移動は国をまたぐほどの距離ではない。
一瞬で到着するのだから、ガタガタ抜かすなっ!!!」という魔神様の一喝で却下されたのでした。
私とジュリアたちは泣きそうになりながら、最後のゆったりとした馬車移動を楽しむことになったのでした。異国の地の風景は私たちの国のそれと基本的にはそう変わらないはずなのに、どこか新鮮に見えて皆で風景の違いを語りながら移動するのでした。
そして日暮れまで馬車で移動をすると陽が落ちる前に私たちは川沿いでキャンプして過ごしました。火を起こし、肉を焼き、スープとパンを食べるのです。
マリオが冗談で「これが最後の晩餐になるかもな・・・。」なんて言います。皆の脳裏にはそのあとの神速の馬車移動が思い起こされて、大顰蹙を買いますが、それもやがて誰からと言わずに笑いに変わり、みんなで大笑いしながら食事をとったのでした。
食事が終わると川の水で湿らせた布で体を洗い清めた後にぐっすりと眠るのでした。ゆっくりと寝て地獄の馬車移動に対する体力を養うのです。
しかし、その安眠の予定は夜盗集団によって邪魔されることになったのですが・・・。
明け方前に不意に魔神シェーン・シェーン・クー様に全員が揺り起こされたのでした。
「しっ。騒ぐな。爽快な目覚めと言うわけにはいかなくなったようだ。
俺たちは夜盗に囲まれている。」
そう言って馬車のホロの中から魔神様は周囲を見渡します。
言われて目覚めたジーノとマリオは素早く起き上がり、剣を手にします。
ジュリアたちも険しい顔に変わり、周囲を警戒しています。
「魔神の俺が目立つよりもお前達だけの力で乗り切ってもらいたいものだが・・・。
ここでまともな戦力として期待できるのはジーノとマリオだけだな。
女どもも訓練を受けているとはいえ、浮れ女が鍛えすぎていては不自然故に女同士の戦いなら負けない程度の強さだろう? 男たちに襲われたら勝てる気がせんだろう。」
そう言われたジュリアは怯える瞳で頷きました。
そうです。彼女たちはあくまで浮れ女であり、密偵でしかありません。戦闘は専門外と言えるでしょう。それは鍛え抜かれた肉体は敵に不信感を抱かせ、密偵かと疑われてしまう材料になってしまうからです。故に彼女たちは女軍人ではありますが、それはサバイバル技術に特化した特殊部隊であり、男と互角に戦える戦闘力など持ち合わせていなかったのです。
「魔神様の仰る通りです。
私たちが男に襲われたら、なすすべもなく組み伏せられて、縛り上げられて売られてしまいかねません。
今回は魔神様同行故に護衛も少ないのですが、通常は、後続部隊が私たちの守りに控えて作戦行動をする者なのです。私たちは男相手には戦力になりません。」
ジュリアは申し訳なさそうに、それでいて確かな情報を伝えようとハッキリと「自分たちは戦力にならない。」といいました。
「よい。気にするな。その戦力のなさが敵に疑われない秘訣であり、お前たちの生命線だ。密偵は疑われた時から死神が近づいてくるものだからな。
それに、そのか弱さがお前たちの美しさを引き立ててくれているしな。」
魔神様はそう言ってジュリアたちのプライドを守るように返事を返されますと、腕組をなさってしばらく考え込んでおられました。
そしてしばらく考え込んでから、
「全員、敵が近づいてくるまで馬車を出るな。弓矢で狙撃される恐れもある。
むしろ近づいてくるのを待て。
そして、近づいてきたらラーマ。お前の死霊術の出番だ。」
と、指示なさいます。
「お前に魔力を貸してやるから、この地のゴーストを顕現させよ。
それで怯んで逃げだすのなら、大した敵ではないし、ゴーストに対処するような輩なら、俺が一瞬で始末してやる。」
魔神様は敵の力量に合わせて処罰をお決めになられるのでした。それは万が一、敵がゴーストに対処できるような輩なれば、それは到底、夜盗の類ではなく訓練を受けた正騎士集団だとお考えになったのです。
敵が夜盗ならば、馬車一つで移動する人間をどこかで見かけただけだろうし、正騎士ならば私たちの存在を怪しんで追ってきていると考えられるからです。魔神様は敵が何者か計っておられたのです。
その作戦を実行すべく私は暗い馬車の床にインクで神蚊を描いて魔法陣とし、集中して敵を待ちます。その私の背中に掌を当てた姿で魔神様が膝立ちに構えておられます。いつでも死霊術を行使できるのです。
静寂の時の中で敵を待ちます。ジュリアたち女軍人たちはお互いの体をしっかりと抱き締めあって恐怖に耐えています。彼女たちは知っているのです。夜盗に掴まった女たちがどのような末路をたどるのか。それを知っている彼女たちは例え魔神様の庇護のもとにあっても恐怖心を押さえることは出来なかったのです。
馬車の中には恐怖に耐える女たちの荒い呼吸とマリオとジーノの殺気で満たされていきました。
そうしてやがて、馬車の近くでパチリ、パチリと枯れ枝を踏む音がし始めました。それを合図に魔神様は私に向かって「いいぞ。始めろ。」と短く命令を下されたのでした。
私は魔力を込めて呪文を唱えます。
「氷の地獄を支配なされる氷と泥の国の王の下へとたどり着けぬ幾千万の怨霊、恨み、つらみの果てのオドよっ!!
我が身命を持って許可を成す。
我が魔力を依り代に仮初の姿で顕現せよっ!!
黄泉返りて我が命に従えっ!! 」
私の死霊術ではせいぜい、この地の浮幽霊を4体も使役できればいい方なのですが、魔神様の助けを受けた今の私はこの地の浮幽霊を数十体以上をゴーストとして顕現させて戦わせることができるのでした。
そうして、あっという間に馬車の外は男たちの悲鳴が響き渡る地獄となりました。
その凄まじい悲鳴はジュリアたちが失禁してしまうほど恐ろしい声でした。死がすぐ外にあるのだと私たちは実感したのです。
しかし、やがて悲鳴は消え去り再び静寂の夜が訪れました。
「ううっ・・・て、敵は全滅したのですかぁ?」
グスグスと泣きべそをかきながらジュリアが魔神様に尋ねると、魔神様は険しい表情で「いや、何か一体、とんでもない奴がいるな・・・。」と仰いました。
そうしてその危険性の高さを危惧なさった魔神様はとうとう
「俺が出るからお前たちは馬車を出るな。
なに、すぐに片付けてやる。安心しろ。」
と、仰って立ち上がると馬車のホロから飛び出して行かれました。
そうして、私たちは馬車の中で震えて待つしかなかったのでございます。
大勢を引き連れて買い物をする魔神様が街に出かけるとたちまち人気者になりました。
「いやぁ、ここいらで娘たちの服を小綺麗にしてやってモデナではその分、稼いでやろうと思いましてな。」
なんて気前のいい親方風情の事を仰って、町でたくさん服やら装飾品を買い、そして食事をするのです。その気前の良さに町の人たちは「なんて娘思いの親方なんでしょう。これならあんなに美人の娘たちを抱え込める理由がわかるわ。」と、口々に話しました。
そんな風に噂になるくらいですから、本当にジュリアたちは良い服を買ってもらって、良い物を食べさせてもらっていました。なにしろお金を出すのは魔神様。ご予算はあってないようなものなのでドンドンこの町で使うご予算の上限を超えていく、いわゆる青天井の予算で服を買ってもらえるのですから当然でしょうね。中には生まれて初めて本物の宝石が付いた装飾品を買ってもらって涙を流す娘までいました。
「わ、わわわ、私、もう魔神シェーン・シェーン・クー様のお仕事だけしたいですっ!!」
などと一番若いジネヴラなどは目を輝かして話します。それは何も若いジネヴラだけの気持ちではありませんでした。決して口には出しませんでしたが、ジュリアもそのように考えていたようです。
私は言います。
「いいですわよ。魔神シェーン・シェーン・クー様のお許しがあるのならば、私はいつでも移籍を認めます。」
そういわれた娘たちはパッと期待に目を輝かせてと魔神様の方を見るのですが、魔神様は
「こらこら。何を勘違いしている。俺は娼婦の魔神ではないぞ。
こんな仕事はもうないんだぞ。」
と言って笑うのでした。
ジュリアたちもそう言われるとハッとなって「そ、そういわれれば、そうでした。」なんて言って笑います。とても不思議な光景でした。
賤民の浮れ女たちが魔神様と軽くお話して笑いが起こっているのです。魔神様と言えば本来ならば、お顔を直視することも憚られるような貴い存在ですから、本当は絶対にありえないことなのです。それが今、起こっているのは全て魔神シェーン・シェーン・クー様の度量の広さを現しているということなのです。
そうやって楽しい4日が過ぎて町を出ることになった日、私たちは町の人たちから歓迎された証のお見送りまでされて出て行くのでした。
そして売春宿の主が説明してくれた通り町を出て西に暫く進んだところにある川沿いに沿って南下して大都市モデナを目指すのでした。
「さてラーマ。
俺は魔神ゆえに世界の形を知っている。当然、ジェノバの都市の位置は把握している。
その俺がなんで最初に小さな町を選んで情報収集を始めたのかわかるか?」
行く道すがら魔神様は私を試すようにお尋ねになりました。私はしばらく考えてから
「何か問題が起きても、小さな町ならば衛兵も少なく対処に困らないからですか?」
とお答えいたしました。その答えは魔神シェーン・シェーン・クー様の納得を得られたようで、魔神様は私の頭をグリグリ撫でながら褒めてくれました。
「そういうことだ。お前は世間知らずのバカ娘のくせに賢いな。
要するにだ。
この町でジェノバ国民の大体の国民性を学び、大都市に入ってから下手を打たないようにするための布石だ。
まぁ、お前の世間知らずっぷりは意外なほど効果的だったので、ラーマ。お前は次の町でもアホ娘のままでいい。」
「他の女たち、そして護衛の騎士達は、次の町に入ったらどう振舞うべきか考えておけよ。」
と、買い物三昧で浮かれ気分のジュリアたちに釘をさすのでした。
ていうか、私はアホ娘ではありませんわっ!! 私は心の中で猛抗議します。
「では、今日一日は馬車でゆっくりと移動し、明日の早朝に俺が魔法で馬を神馬に変えて一瞬で移動するぞ。」
魔神シェーン・シェーン・クー様の宣言を聞いて全員で反対しました。誰の脳裏にもジェノバ入国のさいのあの大突撃の恐怖が走ったからです。
「やかましいっ!! 今度の移動は国をまたぐほどの距離ではない。
一瞬で到着するのだから、ガタガタ抜かすなっ!!!」という魔神様の一喝で却下されたのでした。
私とジュリアたちは泣きそうになりながら、最後のゆったりとした馬車移動を楽しむことになったのでした。異国の地の風景は私たちの国のそれと基本的にはそう変わらないはずなのに、どこか新鮮に見えて皆で風景の違いを語りながら移動するのでした。
そして日暮れまで馬車で移動をすると陽が落ちる前に私たちは川沿いでキャンプして過ごしました。火を起こし、肉を焼き、スープとパンを食べるのです。
マリオが冗談で「これが最後の晩餐になるかもな・・・。」なんて言います。皆の脳裏にはそのあとの神速の馬車移動が思い起こされて、大顰蹙を買いますが、それもやがて誰からと言わずに笑いに変わり、みんなで大笑いしながら食事をとったのでした。
食事が終わると川の水で湿らせた布で体を洗い清めた後にぐっすりと眠るのでした。ゆっくりと寝て地獄の馬車移動に対する体力を養うのです。
しかし、その安眠の予定は夜盗集団によって邪魔されることになったのですが・・・。
明け方前に不意に魔神シェーン・シェーン・クー様に全員が揺り起こされたのでした。
「しっ。騒ぐな。爽快な目覚めと言うわけにはいかなくなったようだ。
俺たちは夜盗に囲まれている。」
そう言って馬車のホロの中から魔神様は周囲を見渡します。
言われて目覚めたジーノとマリオは素早く起き上がり、剣を手にします。
ジュリアたちも険しい顔に変わり、周囲を警戒しています。
「魔神の俺が目立つよりもお前達だけの力で乗り切ってもらいたいものだが・・・。
ここでまともな戦力として期待できるのはジーノとマリオだけだな。
女どもも訓練を受けているとはいえ、浮れ女が鍛えすぎていては不自然故に女同士の戦いなら負けない程度の強さだろう? 男たちに襲われたら勝てる気がせんだろう。」
そう言われたジュリアは怯える瞳で頷きました。
そうです。彼女たちはあくまで浮れ女であり、密偵でしかありません。戦闘は専門外と言えるでしょう。それは鍛え抜かれた肉体は敵に不信感を抱かせ、密偵かと疑われてしまう材料になってしまうからです。故に彼女たちは女軍人ではありますが、それはサバイバル技術に特化した特殊部隊であり、男と互角に戦える戦闘力など持ち合わせていなかったのです。
「魔神様の仰る通りです。
私たちが男に襲われたら、なすすべもなく組み伏せられて、縛り上げられて売られてしまいかねません。
今回は魔神様同行故に護衛も少ないのですが、通常は、後続部隊が私たちの守りに控えて作戦行動をする者なのです。私たちは男相手には戦力になりません。」
ジュリアは申し訳なさそうに、それでいて確かな情報を伝えようとハッキリと「自分たちは戦力にならない。」といいました。
「よい。気にするな。その戦力のなさが敵に疑われない秘訣であり、お前たちの生命線だ。密偵は疑われた時から死神が近づいてくるものだからな。
それに、そのか弱さがお前たちの美しさを引き立ててくれているしな。」
魔神様はそう言ってジュリアたちのプライドを守るように返事を返されますと、腕組をなさってしばらく考え込んでおられました。
そしてしばらく考え込んでから、
「全員、敵が近づいてくるまで馬車を出るな。弓矢で狙撃される恐れもある。
むしろ近づいてくるのを待て。
そして、近づいてきたらラーマ。お前の死霊術の出番だ。」
と、指示なさいます。
「お前に魔力を貸してやるから、この地のゴーストを顕現させよ。
それで怯んで逃げだすのなら、大した敵ではないし、ゴーストに対処するような輩なら、俺が一瞬で始末してやる。」
魔神様は敵の力量に合わせて処罰をお決めになられるのでした。それは万が一、敵がゴーストに対処できるような輩なれば、それは到底、夜盗の類ではなく訓練を受けた正騎士集団だとお考えになったのです。
敵が夜盗ならば、馬車一つで移動する人間をどこかで見かけただけだろうし、正騎士ならば私たちの存在を怪しんで追ってきていると考えられるからです。魔神様は敵が何者か計っておられたのです。
その作戦を実行すべく私は暗い馬車の床にインクで神蚊を描いて魔法陣とし、集中して敵を待ちます。その私の背中に掌を当てた姿で魔神様が膝立ちに構えておられます。いつでも死霊術を行使できるのです。
静寂の時の中で敵を待ちます。ジュリアたち女軍人たちはお互いの体をしっかりと抱き締めあって恐怖に耐えています。彼女たちは知っているのです。夜盗に掴まった女たちがどのような末路をたどるのか。それを知っている彼女たちは例え魔神様の庇護のもとにあっても恐怖心を押さえることは出来なかったのです。
馬車の中には恐怖に耐える女たちの荒い呼吸とマリオとジーノの殺気で満たされていきました。
そうしてやがて、馬車の近くでパチリ、パチリと枯れ枝を踏む音がし始めました。それを合図に魔神様は私に向かって「いいぞ。始めろ。」と短く命令を下されたのでした。
私は魔力を込めて呪文を唱えます。
「氷の地獄を支配なされる氷と泥の国の王の下へとたどり着けぬ幾千万の怨霊、恨み、つらみの果てのオドよっ!!
我が身命を持って許可を成す。
我が魔力を依り代に仮初の姿で顕現せよっ!!
黄泉返りて我が命に従えっ!! 」
私の死霊術ではせいぜい、この地の浮幽霊を4体も使役できればいい方なのですが、魔神様の助けを受けた今の私はこの地の浮幽霊を数十体以上をゴーストとして顕現させて戦わせることができるのでした。
そうして、あっという間に馬車の外は男たちの悲鳴が響き渡る地獄となりました。
その凄まじい悲鳴はジュリアたちが失禁してしまうほど恐ろしい声でした。死がすぐ外にあるのだと私たちは実感したのです。
しかし、やがて悲鳴は消え去り再び静寂の夜が訪れました。
「ううっ・・・て、敵は全滅したのですかぁ?」
グスグスと泣きべそをかきながらジュリアが魔神様に尋ねると、魔神様は険しい表情で「いや、何か一体、とんでもない奴がいるな・・・。」と仰いました。
そうしてその危険性の高さを危惧なさった魔神様はとうとう
「俺が出るからお前たちは馬車を出るな。
なに、すぐに片付けてやる。安心しろ。」
と、仰って立ち上がると馬車のホロから飛び出して行かれました。
そうして、私たちは馬車の中で震えて待つしかなかったのでございます。
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