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第24話 赤の英雄(中編)
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マルティス・デ・コスタの城壁外で二人の精霊貴族は睨みあう。
一方は土精霊の貴族 バー・バー・バーン。
一方は水精霊の貴族 スー・スー・シュン。
両者の属性で言えば土精霊であるバー・バー・バーンの方が有利である。それでも高位の精霊同士の戦いは、一瞬の油断も出来ないものだ。バー・バー・バーンは、それをよく熟知していて一切の気の緩みもなくスー・スー・シュンを、その大きくて美しい青い瞳でにらみつける。
スー・スー・シュンも、殺気に満ちた赤い瞳で睨み返している。
戦いとは機先を制したものが勝利する。
敵の動きを予測して、その動きの発動する前に攻撃を仕掛ける先の先。
わずかな動きで敵の攻撃を誘発させて、その攻撃に対して有効な返し技を重ねるカウンターの事を後の先という。
膨大な時間を生きる精霊族は歴戦の勇士であり、美しい女性の姿をしていてもスー・スー・シュンは恐るべき戦士である。静かにバー・バー・バーンに対してほんのわずかなフェイント動作で揺さぶりをかけながら、必殺の機会を伺う。そのプレッシャーは並の迫力ではなく、優性属性の土精霊であるバー・バー・バーンの体力でさえ微妙に削っていく。
戦いにはその人の性格がそのまま出る。好戦的な人や反射的に行動する人は先手を取りたがり、思慮深く合理的な行動をする人はカウンターを好む。気が強い人が必ずしも先手を取りたがるわけではないが、気の短い水精霊のスー・スー・シュンは短期戦を好むのでドンドン圧力をかけて、威圧し続けて敵を疲弊させてから一気に仕留めたがる。
だが、対戦相手は老獪な土精霊のバー・バー・バーン。簡単に誘いには応じない。静かな立ち姿からは的確にスー・スー・シュンの攻撃に対する後の先を準備していそうな不気味な迫力があり、どんな返し技をバー・バー・バーンが隠し持っているかわからないスー・スー・シュンも迂闊には仕掛けられずに精神を削られていく。
キックボクシングなどの試合で強力なカウンターを持ち合う強者同士が戦う場合、両者が必殺の間合(距離の事。)に入る前に、より有利なポジションに自分が立とうと距離の奪い合いをする。
そのやり取りは精神を削りあう戦いであり、両者が精神的に疲弊するだけで攻撃を出せずに時間だけが過ぎてしまうと言うことが実際にあるが、この状態を一般的に「間合い地獄に陥る」という。今、歴戦の勇士同士が間合い地獄に陥っていた。
精神的な疲労から嫌な汗が首筋を伝ってスー・スー・シュンの豊満すぎる胸の谷間に流れ落ちる瞬間、スー・スー・シュンは、攻撃を仕掛けた。
指先一つ動かしただけでスー・スー・シュンの指からは、高圧縮された水の一流れが矢のように飛んでバー・バー・バーンの額を襲う。バー・バー・バーンは反射的に岩の壁を額の前に出現させるが、スー・スー・シュンの放った水はウオーターカッターのように鋭く、いとも簡単にバー・バー・バーンの出した岩の壁を貫通した。
すんでのところで首をひねって水の矢をよけたバー・バー・バーンだったが、一瞬のことだったのでバランスを崩す。それを見逃すスー・スー・シュンではない。
「このエロジジィめが! 戦いの最中にどこ見てんのさっ!!」
スー・スー・シュンの胸の谷間に流れる汗に目を取られたバー・バー・バーン。自業自得である。
スー・スー・シュンはバー・バー・バーンを罵倒しながら素早く飛び入って間合いを詰めながら、上空から魔力が込められた右手でハンマーパンチを振り下ろす。
スー・スー・シュンのウォーターカッターの攻撃をかわすときにバランスを崩したバー・バー・バーンは体制を整えてからの反撃は不可能と本能的に察知して、倒れる我が身をそのまま倒し続けて左方向へ開脚側転の要領で横回転をすると、その右足で強にスー・スー・シュンの側頭部に回し蹴りをくれる。
「きゃああっ!!」
回し蹴りをまともに食らってスー・スー・シュンの体は、吹き飛ばされてゴロゴロと地を転がる。その体を逃がすまいとバー・バー・バーンが両手をパチンと叩き合わせると地面が盛り上がってスー・スー・シュンの体を包み込もうと襲う。だが、スー・スー・シュンは、大量の水柱を立ち上げ高と思うと、水柱にその体を押し上げられてはるか上空へ飛び逃げてしまった。
「ほうっ! すんでの事であったのに、見事に左腕で俺の蹴りをガードしたかっ!」
確実に仕留めたと思ったのにスー・スー・シュンは、バー・バー・バーンの強力な蹴りを左腕でガードしていたのだ。そのガードが無ければ一撃で失神させていたであろう強烈な回し蹴りを防がれたバー・バー・バーンは、スー・スー・シュンのその見事なディフェンス技術に驚嘆して称賛した。
スー・スー・シュンは、鼻血を腕でふき取りながら、「抜かせっ! エロジジィめがっ!」と、悔しそうに罵った。その時、バー・バー・バーンは、スー・スー・シュンの美しい赤い瞳が一層、殺気をこめて明るくなった気がした。
バー・バー・バーンは、これを好機としてスー・スー・シュンを煽る。
「良い腕だ。それにその美しい乳房。くびれた腰に大きな尻は見事なものだ。その宝石のように美しい赤い瞳に美しい翠の長い髪。お前ほど美しい女は世界広しと言えどもそうはおるまいよ」
「これならば、お前を余の妾の一人として加えてやってもいいぞ。お前を見事捕らえたのちは、その力を奪い去り余の妾として飼いならしてくれようぞ。」
「さぁ、そんな高いところへ逃げ出して怯えずともよい。余がお前の全てを受け止めてお前が狂うほどの快楽を与えてくれようぞ!」
バー・バー・バーンの発言はスー・スー・シュンを戦士としてではなくて、まるで自分の愛玩物として見ているかのような発言だった。水精霊の貴族であるスー・スー・シュンのプライドを深く傷つけられて憤慨する。
「黙れ! 枯れ果てた薄汚いジジィめが!
貴様のような老いぼれの相手をする私だと思うのかっ!!」
「お前のようなジジィの相手をするぐらいならば、この魔力尽きるまで戦って死ぬ方がましだ!」
スー・スー・シュンは、怒りに任せて大量の水柱を起こす。その水柱一つ一つが高圧縮されており、触れるものは全て引き裂かれるように切断されてしまうだろう。それが何本もあるのだから総量何百トンの水だろうか? 凄まじい魔力量である。バー・バー・バーンは、思わず眉をひそめた。しかし、スー・スー・シュンの怒りはこれでは収まらず、懐から瓶を取り出した。
「この手は使いたくなかったけど、お前のようなジジィに戦士の誇りを傷つけられるならば、禁じ手もやむを得ない。」
そう言うと小瓶の中の液体を水の中に流し込んだ。
それを見てバー・バー・バーンは、悲しそうに呟いた。
「哀れな娘だ。スー・スー・シュン。一時の感情に身を任せて戦士の誇りを本当に捨ててしまうのかね?」
バー・バー・バーンには、それが何か察しがついていた。それは猛毒。それも恐らくは毒龍ファッバーが作り出した猛毒の凝縮液。毒属性は火属性以外には有効だ。毒は水も地も風も犯す。火属性は毒を燃やし尽くすことはできても、他の属性には毒を薄めることしかできない。
スー・スー・シュンは己を犠牲にしてでも属性の有利不利を覆す作戦に出たのだ。水と土ならば土の方が有利だ。だからスー・スー・シュンは有利な土属性にも平等にダメージを与えられる毒を用いて攻撃の威力を上げる作戦に出たのだ。しかし、それは同時に自らも毒に犯されることを意味する。
スー・スー・シュンは、自分がまいた猛毒の痛みに耐えながら不敵に笑う。脂汗が噴き出るほどの苦痛に耐えてバー・バー・バーンを仕留めようとした。バー・バー・バーンは、その覚悟と卑怯の全てを肯定して「見事だ。スー・スー・シュン。」と絶賛した。
それが最後の戦いの始まりだった。スー・スー・シュンの決死の突撃が始まった。バー・バー・バーンは、土精霊の誇りにかけてスー・スー・シュンの攻撃を全て受け止める覚悟を決めた。
バー・バー・バーンが右腕を前に差し出すと分厚いダイアモンドのような壁がバー・バー・バーンの前にせり上がる。そして、両者の全てが激突した。
凄まじい衝撃波が巻き起こると、両者の魔法が火花を散らす。
スー・スー・シュンの魔法の水柱は、バー・バー・バーンの魔法の壁にはじき返されて、破裂していくようにはじけ飛ぶ。その弾け散った水滴は魔法の力によって信じられないほど高圧縮されたものだったので例え一滴でも周りに飛び散った時、あたり一帯を巻き込む様にして引き裂いていく。大地は引き裂かれてバー・バー・バーンとスー・スー・シュンの周りに巨大なクレーターが出来ていく。
たとえ一時、防がれようとも攻撃を続けていると、少しづつスー・スー・シュンの水柱はバー・バー・バーンの魔法の壁を削り取っていく。その勢いの良さは水の中に混ぜた毒龍ファッバーの猛毒による後押しもある。本来、優位な属性にあるはずの土精霊の魔法の壁も水柱によって、キーンという高周波のような音を立てて削り取られていく。
スー・スー・シュンは更に魔力をこめてバー・バー・バーンの魔法の壁を貫かんとした。
「エロジジィ!! 水精霊の誇りの重さを思い知るがいいっ!!」
スー・スー・シュンは叫んだ。その圧にさしものバー・バー・バーンも片膝をついて耐えなければならなかった。
そして両者の魔力がぶつかり合い、その最後の一瞬にこれまで以上に大きな爆発が起こった。
単純に属性の違う魔力が高出力で衝突しあった時に起きる反応だった。
その爆風であたり一帯の物は、削られるようにみるみる吹き飛ばされていく。
「ああああああーっ!!」
命を捨てて己の魔力を全て注ぎ込むスー・スー・シュンの悲鳴にも似た気合いの声が響いた。
だが。全てが終わったとき、そこに立っていたものはバー・バー・バーン一人だけだった。
激闘を制したのは、バー・バー・バーンだった・・・・・・。
スー・スー・シュンは、全てを出し尽くした上に毒に犯されて、仰向けに倒れたまま身動きも取れない。そしてそれを見つめるバー・バー・バーンの右腕も毒に深く犯されていた。毒に犯された部分が右腕だけですんだ理由はバー・バー・バーンがスー・スー・シュンの攻撃を右腕に集中させることで毒を受ける範囲を限定したからだ。ほんの少しでもスー・スー・シュンの魔法がバー・バー・バーンを上回れば全身に毒を浴びかねない決死の作戦だったが、軍配はバー・バー・バーンに上がった。
バー・バー・バーンは魔法の剣を作り出すと右腕を自ら切り落として、全身に毒が広がるのを押さえた。
右腕を切り落とした痛みに苦悶するバー・バー・バーンのうつろな目にスー・スー・シュンを心配して現れたスー・スー・シュンの眷属の精霊の子供たちの小さな姿が映った。
バー・バー・バーンは言った。
「余はこれ以上手は出さぬゆえに、水の国へスー・スー・シュンを連れて帰ってやってくれ。水の国の王陛下ならば、毒龍の毒ごときは事もなく治してくれるだろう。
そして、スー・スー・シュンが目を覚ましたら一言伝えておくれ。
『作戦とはいえ、お前の戦士の誇りを傷つけてしまったことをすまない』と。
『そなたは立派な戦士であった』と伝えるとともに、この右腕を見せてやってくれ。」
そういうとバー・バー・バーンは怯える水精霊の子供たちに己の切り落とされた右腕を渡した。
自分たちの主を倒したバー・バー・バーンにおびえていた精霊族の子供たちもバー・バー・バーンの意図をくみ取ると、涙を流して何度も礼を言いながら水の国へスー・スー・シュンを連れ去っていった。
バー・バー・バーンは、何も言わずにそれを見送った。
そして、水精霊たちが帰った後、マルティス・デ・コスタの城壁を振り返った。あたり一帯はスー・スー・シュンの呼びだした水で満たされていた。スー・スー・シュンの水柱の魔法が解けたのち、形を保っていられなくなった水は、大水となって大地へ流れ込んだのだ。
水は、毒龍ファッバーの猛毒が仕込まれていたので、マルティス・デ・コスタの周囲は猛毒の水に犯された大地となったのだ。
「見事だ。スー・スー・シュン。お前は余との戦いには敗北したが、この戦争はお前の勝利だ。
お前がバラまいた毒龍の毒は何百年も大地を犯すのだろう。ここは、人間が住めぬ大地となってしまった・・・・・・。」
バー・バー・バーンは、毒に犯された大地を見て悲しそうにつぶやくのだった。
一方は土精霊の貴族 バー・バー・バーン。
一方は水精霊の貴族 スー・スー・シュン。
両者の属性で言えば土精霊であるバー・バー・バーンの方が有利である。それでも高位の精霊同士の戦いは、一瞬の油断も出来ないものだ。バー・バー・バーンは、それをよく熟知していて一切の気の緩みもなくスー・スー・シュンを、その大きくて美しい青い瞳でにらみつける。
スー・スー・シュンも、殺気に満ちた赤い瞳で睨み返している。
戦いとは機先を制したものが勝利する。
敵の動きを予測して、その動きの発動する前に攻撃を仕掛ける先の先。
わずかな動きで敵の攻撃を誘発させて、その攻撃に対して有効な返し技を重ねるカウンターの事を後の先という。
膨大な時間を生きる精霊族は歴戦の勇士であり、美しい女性の姿をしていてもスー・スー・シュンは恐るべき戦士である。静かにバー・バー・バーンに対してほんのわずかなフェイント動作で揺さぶりをかけながら、必殺の機会を伺う。そのプレッシャーは並の迫力ではなく、優性属性の土精霊であるバー・バー・バーンの体力でさえ微妙に削っていく。
戦いにはその人の性格がそのまま出る。好戦的な人や反射的に行動する人は先手を取りたがり、思慮深く合理的な行動をする人はカウンターを好む。気が強い人が必ずしも先手を取りたがるわけではないが、気の短い水精霊のスー・スー・シュンは短期戦を好むのでドンドン圧力をかけて、威圧し続けて敵を疲弊させてから一気に仕留めたがる。
だが、対戦相手は老獪な土精霊のバー・バー・バーン。簡単に誘いには応じない。静かな立ち姿からは的確にスー・スー・シュンの攻撃に対する後の先を準備していそうな不気味な迫力があり、どんな返し技をバー・バー・バーンが隠し持っているかわからないスー・スー・シュンも迂闊には仕掛けられずに精神を削られていく。
キックボクシングなどの試合で強力なカウンターを持ち合う強者同士が戦う場合、両者が必殺の間合(距離の事。)に入る前に、より有利なポジションに自分が立とうと距離の奪い合いをする。
そのやり取りは精神を削りあう戦いであり、両者が精神的に疲弊するだけで攻撃を出せずに時間だけが過ぎてしまうと言うことが実際にあるが、この状態を一般的に「間合い地獄に陥る」という。今、歴戦の勇士同士が間合い地獄に陥っていた。
精神的な疲労から嫌な汗が首筋を伝ってスー・スー・シュンの豊満すぎる胸の谷間に流れ落ちる瞬間、スー・スー・シュンは、攻撃を仕掛けた。
指先一つ動かしただけでスー・スー・シュンの指からは、高圧縮された水の一流れが矢のように飛んでバー・バー・バーンの額を襲う。バー・バー・バーンは反射的に岩の壁を額の前に出現させるが、スー・スー・シュンの放った水はウオーターカッターのように鋭く、いとも簡単にバー・バー・バーンの出した岩の壁を貫通した。
すんでのところで首をひねって水の矢をよけたバー・バー・バーンだったが、一瞬のことだったのでバランスを崩す。それを見逃すスー・スー・シュンではない。
「このエロジジィめが! 戦いの最中にどこ見てんのさっ!!」
スー・スー・シュンの胸の谷間に流れる汗に目を取られたバー・バー・バーン。自業自得である。
スー・スー・シュンはバー・バー・バーンを罵倒しながら素早く飛び入って間合いを詰めながら、上空から魔力が込められた右手でハンマーパンチを振り下ろす。
スー・スー・シュンのウォーターカッターの攻撃をかわすときにバランスを崩したバー・バー・バーンは体制を整えてからの反撃は不可能と本能的に察知して、倒れる我が身をそのまま倒し続けて左方向へ開脚側転の要領で横回転をすると、その右足で強にスー・スー・シュンの側頭部に回し蹴りをくれる。
「きゃああっ!!」
回し蹴りをまともに食らってスー・スー・シュンの体は、吹き飛ばされてゴロゴロと地を転がる。その体を逃がすまいとバー・バー・バーンが両手をパチンと叩き合わせると地面が盛り上がってスー・スー・シュンの体を包み込もうと襲う。だが、スー・スー・シュンは、大量の水柱を立ち上げ高と思うと、水柱にその体を押し上げられてはるか上空へ飛び逃げてしまった。
「ほうっ! すんでの事であったのに、見事に左腕で俺の蹴りをガードしたかっ!」
確実に仕留めたと思ったのにスー・スー・シュンは、バー・バー・バーンの強力な蹴りを左腕でガードしていたのだ。そのガードが無ければ一撃で失神させていたであろう強烈な回し蹴りを防がれたバー・バー・バーンは、スー・スー・シュンのその見事なディフェンス技術に驚嘆して称賛した。
スー・スー・シュンは、鼻血を腕でふき取りながら、「抜かせっ! エロジジィめがっ!」と、悔しそうに罵った。その時、バー・バー・バーンは、スー・スー・シュンの美しい赤い瞳が一層、殺気をこめて明るくなった気がした。
バー・バー・バーンは、これを好機としてスー・スー・シュンを煽る。
「良い腕だ。それにその美しい乳房。くびれた腰に大きな尻は見事なものだ。その宝石のように美しい赤い瞳に美しい翠の長い髪。お前ほど美しい女は世界広しと言えどもそうはおるまいよ」
「これならば、お前を余の妾の一人として加えてやってもいいぞ。お前を見事捕らえたのちは、その力を奪い去り余の妾として飼いならしてくれようぞ。」
「さぁ、そんな高いところへ逃げ出して怯えずともよい。余がお前の全てを受け止めてお前が狂うほどの快楽を与えてくれようぞ!」
バー・バー・バーンの発言はスー・スー・シュンを戦士としてではなくて、まるで自分の愛玩物として見ているかのような発言だった。水精霊の貴族であるスー・スー・シュンのプライドを深く傷つけられて憤慨する。
「黙れ! 枯れ果てた薄汚いジジィめが!
貴様のような老いぼれの相手をする私だと思うのかっ!!」
「お前のようなジジィの相手をするぐらいならば、この魔力尽きるまで戦って死ぬ方がましだ!」
スー・スー・シュンは、怒りに任せて大量の水柱を起こす。その水柱一つ一つが高圧縮されており、触れるものは全て引き裂かれるように切断されてしまうだろう。それが何本もあるのだから総量何百トンの水だろうか? 凄まじい魔力量である。バー・バー・バーンは、思わず眉をひそめた。しかし、スー・スー・シュンの怒りはこれでは収まらず、懐から瓶を取り出した。
「この手は使いたくなかったけど、お前のようなジジィに戦士の誇りを傷つけられるならば、禁じ手もやむを得ない。」
そう言うと小瓶の中の液体を水の中に流し込んだ。
それを見てバー・バー・バーンは、悲しそうに呟いた。
「哀れな娘だ。スー・スー・シュン。一時の感情に身を任せて戦士の誇りを本当に捨ててしまうのかね?」
バー・バー・バーンには、それが何か察しがついていた。それは猛毒。それも恐らくは毒龍ファッバーが作り出した猛毒の凝縮液。毒属性は火属性以外には有効だ。毒は水も地も風も犯す。火属性は毒を燃やし尽くすことはできても、他の属性には毒を薄めることしかできない。
スー・スー・シュンは己を犠牲にしてでも属性の有利不利を覆す作戦に出たのだ。水と土ならば土の方が有利だ。だからスー・スー・シュンは有利な土属性にも平等にダメージを与えられる毒を用いて攻撃の威力を上げる作戦に出たのだ。しかし、それは同時に自らも毒に犯されることを意味する。
スー・スー・シュンは、自分がまいた猛毒の痛みに耐えながら不敵に笑う。脂汗が噴き出るほどの苦痛に耐えてバー・バー・バーンを仕留めようとした。バー・バー・バーンは、その覚悟と卑怯の全てを肯定して「見事だ。スー・スー・シュン。」と絶賛した。
それが最後の戦いの始まりだった。スー・スー・シュンの決死の突撃が始まった。バー・バー・バーンは、土精霊の誇りにかけてスー・スー・シュンの攻撃を全て受け止める覚悟を決めた。
バー・バー・バーンが右腕を前に差し出すと分厚いダイアモンドのような壁がバー・バー・バーンの前にせり上がる。そして、両者の全てが激突した。
凄まじい衝撃波が巻き起こると、両者の魔法が火花を散らす。
スー・スー・シュンの魔法の水柱は、バー・バー・バーンの魔法の壁にはじき返されて、破裂していくようにはじけ飛ぶ。その弾け散った水滴は魔法の力によって信じられないほど高圧縮されたものだったので例え一滴でも周りに飛び散った時、あたり一帯を巻き込む様にして引き裂いていく。大地は引き裂かれてバー・バー・バーンとスー・スー・シュンの周りに巨大なクレーターが出来ていく。
たとえ一時、防がれようとも攻撃を続けていると、少しづつスー・スー・シュンの水柱はバー・バー・バーンの魔法の壁を削り取っていく。その勢いの良さは水の中に混ぜた毒龍ファッバーの猛毒による後押しもある。本来、優位な属性にあるはずの土精霊の魔法の壁も水柱によって、キーンという高周波のような音を立てて削り取られていく。
スー・スー・シュンは更に魔力をこめてバー・バー・バーンの魔法の壁を貫かんとした。
「エロジジィ!! 水精霊の誇りの重さを思い知るがいいっ!!」
スー・スー・シュンは叫んだ。その圧にさしものバー・バー・バーンも片膝をついて耐えなければならなかった。
そして両者の魔力がぶつかり合い、その最後の一瞬にこれまで以上に大きな爆発が起こった。
単純に属性の違う魔力が高出力で衝突しあった時に起きる反応だった。
その爆風であたり一帯の物は、削られるようにみるみる吹き飛ばされていく。
「ああああああーっ!!」
命を捨てて己の魔力を全て注ぎ込むスー・スー・シュンの悲鳴にも似た気合いの声が響いた。
だが。全てが終わったとき、そこに立っていたものはバー・バー・バーン一人だけだった。
激闘を制したのは、バー・バー・バーンだった・・・・・・。
スー・スー・シュンは、全てを出し尽くした上に毒に犯されて、仰向けに倒れたまま身動きも取れない。そしてそれを見つめるバー・バー・バーンの右腕も毒に深く犯されていた。毒に犯された部分が右腕だけですんだ理由はバー・バー・バーンがスー・スー・シュンの攻撃を右腕に集中させることで毒を受ける範囲を限定したからだ。ほんの少しでもスー・スー・シュンの魔法がバー・バー・バーンを上回れば全身に毒を浴びかねない決死の作戦だったが、軍配はバー・バー・バーンに上がった。
バー・バー・バーンは魔法の剣を作り出すと右腕を自ら切り落として、全身に毒が広がるのを押さえた。
右腕を切り落とした痛みに苦悶するバー・バー・バーンのうつろな目にスー・スー・シュンを心配して現れたスー・スー・シュンの眷属の精霊の子供たちの小さな姿が映った。
バー・バー・バーンは言った。
「余はこれ以上手は出さぬゆえに、水の国へスー・スー・シュンを連れて帰ってやってくれ。水の国の王陛下ならば、毒龍の毒ごときは事もなく治してくれるだろう。
そして、スー・スー・シュンが目を覚ましたら一言伝えておくれ。
『作戦とはいえ、お前の戦士の誇りを傷つけてしまったことをすまない』と。
『そなたは立派な戦士であった』と伝えるとともに、この右腕を見せてやってくれ。」
そういうとバー・バー・バーンは怯える水精霊の子供たちに己の切り落とされた右腕を渡した。
自分たちの主を倒したバー・バー・バーンにおびえていた精霊族の子供たちもバー・バー・バーンの意図をくみ取ると、涙を流して何度も礼を言いながら水の国へスー・スー・シュンを連れ去っていった。
バー・バー・バーンは、何も言わずにそれを見送った。
そして、水精霊たちが帰った後、マルティス・デ・コスタの城壁を振り返った。あたり一帯はスー・スー・シュンの呼びだした水で満たされていた。スー・スー・シュンの水柱の魔法が解けたのち、形を保っていられなくなった水は、大水となって大地へ流れ込んだのだ。
水は、毒龍ファッバーの猛毒が仕込まれていたので、マルティス・デ・コスタの周囲は猛毒の水に犯された大地となったのだ。
「見事だ。スー・スー・シュン。お前は余との戦いには敗北したが、この戦争はお前の勝利だ。
お前がバラまいた毒龍の毒は何百年も大地を犯すのだろう。ここは、人間が住めぬ大地となってしまった・・・・・・。」
バー・バー・バーンは、毒に犯された大地を見て悲しそうにつぶやくのだった。
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