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一話 豪運冒険者は理不尽な要求を断れない

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 運がいいと昔からよく言われた。
 特に力が強いわけでもなく、頭がいいわけでもない。
 ケンカをすれば負けるし、勉強は平均並み。
 しかし、運が圧倒的に良かった。
 俺の豪運伝説は5歳の時から始まった。
 母と森に遊びに来ていたときだった、なんとなく地面を掘った。
 そしたらなんか金塊がめっちゃ出たのだ。
 母はその金塊を見て聞いた事のない歓喜の悲鳴を上げた。
 その声がうるさかった事だけは覚えている。
 そこから先は、金塊を掘るだけ掘って売り捌きお金に代えてうちが裕福になった。
 そのお金で質の良い学校に行ったが、特に勉学の才能があったわけではないので成績は微妙だった。
 それでもなんとかなく学校に通っていたら、道中に老人が倒れていた事があり、その人を助けたところ有名な魔女だったらしく、お礼になんか強そうな杖を貰ったりもした。
 それ以外にも、王族助けたり、ドラゴンをたまたま倒したりした。
 そのお陰で15歳になった今日、俺は貴族でないが冒険者として国営ギルドに入ることを許された。

「今日から冒険者かぁ……やる気でねぇな」

 別になりたかったわけじゃないものになる。
 職業としては悪くはない固定給プラスモンスター討伐の報酬。
 固定給も高額でぶっちゃけモンスター討伐なんてしなくても生きてはいける。
 それでもそんな良質な職であったとしても、なりたいものではないとしっくりこない。
 これは奢りなのかな……なんとも社会は厳しいな。

「おいオルケン、お前弱いくせに冒険者なんてすぐ死ぬぜ」
「……ジョンか」

 言い忘れていたが俺の名前はオルクス・マッケン。
 あだ名はオルケン。
 そしてこいつはボンボン貴族のジョン。
 ファミリーネームは知らん。

「お前、運だけはいいもんな、ドラゴンだってたまたま落ちた雷で死んだって聞いたぞ」
「……ジョン」

 その通り過ぎてなにも言い返せなかった。
 そう、ドラゴンを倒したのもたまたま剣を空にかざしたら雷が落ちてきて、それで倒せただけでそれを見た多くの人たちが神の加護だの、雷神だの囃し立てたせいで、ドライブスレイヤーオルケンなんて呼ばれている。
 しかし、真実はジョンの言う通りである。
 おそらく本人は俺を馬鹿にするために半ばでっち上げのつもりで話したのだろう。
 なんとそれが正解。
 もしかして世も末なのかもしれない。

「まぁいいさ、オルケン俺はちゃんとダンジョン行って有名冒険者になるぜ、お前とは違ってな」
「……ジョン」

 頑張れ。
 正直、俺は働く気がまったくない。
 おそらく煽っているのだろう。
 ぶっちゃけ僕を煽ったって、ついていかないぞ。
 俺の初期ステータスはレベル1のザコ。
 対してジョンは初期ステータスレベル15の天才だ。
 スタートラインの時点でもう違う。
 レベル10上げるのに約一年かかるらしく、俺はすでにジョンと一年の間がある。
 もうね、煽るとかやめな。
 君は間違いなく逸材なんだからザコの俺は無視しなさい。

「じゃあなザコオルケン、俺は行くからなー」
「……ジョン」

 じゃあな、達者でな。
 俺はジョンの無事を祈り黙って彼を見送った。
 さて、家に帰ろう。
 一応、一人暮らし用に部屋を借りたしそこでほのぼの不労者ライフを送っていこう。
 
「あ、オルケン君、ちょっといいかな?」
「……マスター」

 俺に話しかけきたのはギルドマスターのエルドリアさんだ。
 この人は一応俺の上司にあたる。
 ここで無視するのは今後の不労者ライフに支障が出る。
 ここは話を聞くだけ聞くか。
 まぁ聞くだけ聞いて帰るけど。

「あのねオルケンくん、うちのギルドの決まりでね君にはダンジョンに行ってもらいます」
「……マスター」

 マジか。
 俺、近々死ぬんだぁ。
 ひょんなことから自殺しろと言われてしまった
 この人はおそらく鬼の子なのだろう。
 俺のステータスだって知ってるはずだ。
 だったら俺にそんなこと言うはずがない、最低でもレベル5スタートなのにレベル1、もはや奇跡の数字である。
 拝啓母さん、父さん。
 俺の掘り当てた金塊で世界旅行中に、あなた達の最大の恩人である俺は静かに死にます。
 今までの俺への感謝は毎日欠かさないでくださいね。

「行ってくれるねオルケン君」
「……マスター」

 よし、覚悟は決まった。
 さぁ、死にに行こう。


 



 
 
 
 
 
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