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サタン@現実世界/カトリーナ・メルクーリ編

始祖の子が放つ最強にヤバい術

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「いえ、そう決めたのは私。でも、あの時はそうせざるを得なかった……」

母は悔しそうにテーブルに置いた両手をギュッと握った。

「ああ。あの日、俺たちは最後にあいつと話そうと幽閉している場所へ向かった。楽に殺してやるためにある人間から貸してもらった『銀のナイフ』を持ってな」

「それは『神具』ですか?」

「ええ。今は『弾丸』に加工されているようだけれど」

「まぁ、その時はそんなことは深く考えてなかった。とりあえず、俺らの子を自分の手で殺さなきゃならねーってことが何よりキツかった」

「……………」

さすがの俺もこの重たい空気には黙るしかない。


「だが、俺らの当ては外れた。……行ってみると、あいつはそこにいなかった」


「なに?」

「当時で最高に硬い錠や鎖が外されていた。力づくじゃなく、鍵を使った形跡があったから、何者かが外したんだろーな」

「私たちはとにかく飛んで探したわ。街、山、海。すると、ある地方の丘の上で、『熱気球』を見た」

「熱気球?」

エドガーも初耳のようで聞き返す。

「ええ。あんなに恐ろしいものは見たことが無かった。一瞬のうちに10万度くらいの超高音の爆発が起きて、その場にあったものを全て蒸発させた」

「ああ。丘の上には旧人類の古い都市があったんだが、建物や人間もろとも跡形も残っていなかった」

「そして悪い予想は当たり……」

「その子供がやったってわけか……」


「そ、その熱気球というのは!もしや……!」

エドガーが興奮気味に鼻を膨らませながら前のめりになる。


「そう。あれが恐らく、吸血鬼を物質的に消し去る唯一の術、『全部消えちゃうやつ』よ」


「技名ダサすぎるだろ。だし、なんでそんなこと知ってんだよ?」


「まだルシフェルは見たことなかったっけ?母さんたちが生まれるさらに前に吸血鬼について書かれた謎の文献が残っているんだよ」

そう言うとエドガーはティーカップのお茶を一口飲んだ。

「は?なんだそりゃ」

「そこには、『不死身の吸血鬼は溶岩に入れても死なない。だが、"子"が使う熱の球はすべてを溶かすであろう。それは言うなれば『全部消えちゃうやつ』だ』って書かれてるんだよ」

「言うなればのとこいらんだろ」

「発動するためには『大いなる意志』が必要、とされているわ」

「その『意志の力』は神か魔王のレベルですね。昔から禁呪や魔術にはそれなりの発動条件があるものです。本当に『全部消えちゃうやつ』であれば、相当の『意志』が無ければ打てないはず」

「その通りよ」

母は遠い目で日差しが差し込む窓を見た。

「とにかく、唯一言えるのは、吸血鬼の子にはそういう恐ろしい力が宿るってことだ。あれを見て、俺らも腹を括った」

母も強い意志で言った。

「ええ。熱気球が収まった隙を付いて、翼でそこへ向かってみると、辺りには生命と呼べるものは何一つ残っていなかった。………あの子を除いて」

「あいつはそん時…………何も無くなった土地にポツンと一人で、膝を抱えて座っていた」

父は寂しげに少し肩を落とす。

「近づいてみると………あの子は、泣いていた」

母は再び涙をこらえた。

「え……。感情は無いんじゃなかったのか?」


「そのはずよ。でも、その時、初めてあの子が自分自身で紡いだ声を聞いたの」


「なんて?」


「『もう、やりたくない。死にたい』って」

涙の雫がテーブルの上で砕けて弾ける。

「俺たちは意味がわからなかった。……その後ろに『奴』が現れるまでは」

「『奴』?」

「ああ。最初は黒い煙の塊のような思念体のようなもんだったが、なんというか……『邪悪な意志』があった」

「あれは確かにエドガーちゃんの言う通り、『異世界』から来たと言われても信じてしまったと思うわ。それほどまでに異常な悪意だった」

「……ああ。そしてそいつが言った」



『また『真の器』ではない……。だが、これで時を凌ぐとしよう』



「そのなぜか安心感のあるような声を聞いた瞬間、あの子は苦しみ始め、そして『奴』が体の中へ入っていった」

「その子供の体の中に?その『奴』って一体なんなんだ?」

俺の問いに、一拍置いて父と母は同時に答えた。




「「魔王『ハーデス』」」




「!!!!!」




その単語にエドガーは口元をにやけさせながら目を見開いた。
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