上 下
141 / 146
サタン@異世界編PART2

金髪女騎士を覆う異常な瘴気

しおりを挟む
ドォォォオオオオーーーン!!!




激しい金属音の後には、遅れて重厚な衝撃音が響く。

ロクサス、メイジーを中心に鍔迫り合いの衝撃波で、教会の床が円形に凹んでいる。


「おい!やめろお前ら!!ロクサス!!その金髪女止めろ!!!」


俺は慌てて声を上げつつ、翼で高速移動してクロエを羽交締めにする。

ロクサスも弾かれたように身を動かし、ユカを地面に拘束した。



「ユカ!!君はなにをしている!?」



「クロエ!お前もなにキレてんだよ!」


2人はそれでも振り払って前に進もうと抵抗していたが、やがて諦めて力を抜いたようだった。

メイジーはユカの剣が自分に迫ったものだと気づいたものの、気丈に振る舞うため、腕の震えを抑えようと必死だった。

それを見て騎士団に文句をつけた。


「ふぅ……ったく!一般市民に向かってレイピアで刺突してくるってのはどうなんだ!?団長さんよぉ!」


俺は結構ガチ目にロクサスに怒りを向けた。


「す、すまない!!ユカ!きちんと説明するんだ」


しでかしてしまったことに震えるユカに向き直り、ロクサスは冷静に問いかけた。

「あ、あの……私は……」

「ユカ……。結論次第では、僕は君を処罰しなくてはならない。頼むから、まずはきちんと説明してほしい」

ロクサスは権威ある騎士団の団長だ。

部下や一般市民が見ている中で曖昧なまま終わらせてしまうことは、騎士団、さらには帝国の信用にも関わる。

言い出しにくいとは思うが、他の人間の前でユカの行動の理由をはっきりと問うことは至極当然であった。

「わた、私は……ロクサス様を……たぶらかそうとする者から……守らねばと……」

「たぶらかそうとする者……?」


「(コクリ)そ、そこの……」


そう言ってメイジーを指差した。


「彼女は先代のアルコット騎士団長のご令嬢で、メイジー様だ。たぶらかそうとする者ではないよ」

「で、ですが!!ロクサス様は魅了の魔法をかけられているようでありました!!」

「ユカ。君なら状態異常になっているかどうかくらい気付けるはずだ。……なぜだかはわからないが……感情的になり、突発的な行動だったんじゃないかな?」


「うっ……。私は、ワタシは……ワダジはァ……」


その時、追求を受けていたユカの周りに瘴気がまとわりつき、体を覆っていく。

「ユ、ユカーー!しっかり!救援部隊長!ユカが何か攻撃を受けている可能性がある!魔法障壁を!」

「は、はい!!」

救援部隊長と呼ばれた青髪の騎士が、ユカの周りに魔法障壁を貼った。

だが、予想に反して瘴気はさらに大きさを増していく。

「ぐっ……なんて風だ……」

風圧で全員吹き飛ばされそうになる。


「な、なぜだ!?攻撃ではないのか!?」


ロクサスも初めての経験なのか、目を細めて見守ることしかできない。

「ウ、ヴァアァアァアァア!!!」

ユカの苦しそうな声が瘴気の中から発せられる。


「ぐ……なんだこれっ……」


それまで見ていたジョウチンが膝を落とした。

周りを見ると、騎士団員たちも全員倒れている。

「うっ……サタン!ヤバい……これって……!」

カトリーナも両手を地面につく。


「くっ………」

「うっ……これは……」


クロエに抱えられるようにしながら、メイジーも口を抑える。


ロクサスは相変わらず立っていたが、その目は長年の宿敵を見るような鋭い眼光だった。

「おい!ロクサス!これどうするよ!?」

俺は駆け寄るとロクサスに問いかける。


「これは……"ゼロ"の気配と同じだ……」


「マジ?だって中にいるの……金髪女だろ……?」


「わからない……何が起こっているのか……」

(これ……まさかな…)

俺は目の前の異常な瘴気を目の当たりにして、プニパンでジュース屋の親父が言っていた話を思い出していた。


『ああ。"魔王級モンスター"って呼ばれる最強にヤバい危険極まりないモンスターで、なんでか知らんけど、突然人間からなっちまうらしいんだ。だから普通の魔物と違って知恵もある』

(ウソだろ……)

最悪の可能性に行き当たったが、慌ててその考えを捨てた。

その時、カトリーナの声が後方から聞こえた。



「サタン!なら、あたしがユカさんに解呪の風をーーー」



ーーーーードンッ。



衝撃音とともに突然途切れる声。



振り向くと、そこにはーーー。


懐かしい顔ーーー。


忘れるはずもないーーー。


世界で一番憎いーーー。


キレイな銀髪をした男がーーー。


カトリーナの胸をーーー。





笑顔で貫いていたーーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...