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サタン@異世界編PART2
吸血鬼の暴走と過去の罪
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【ルシフェル視点】
(うーん。ジョウチンの奴、やっぱメイジーが気になってんのかな??お嬢様フェチか、あいつは)
支配者を失って静寂が訪れた教会内に総勢7名の足音がコツコツと響く。
俺はメイジーを見るたびに速くなったり遅くなったりするジョウチンの鼓動を真紅の瞳で観察しながら、そんなことを考えていた。
(あいつ前世ではオリヴィア一筋だったはずなのにな。……浮気者め)
思えば、カイ・グランデことジョウチン(情緒不安定なチンピラの略)とは1805年のパリからの付き合いになる。
俺は死ねないから2022年まで生きてしまったが、ジョウチンやその嫁のオリヴィアが前世で死んだ時も墓に花を添えてやった。
俺の経営していたネジ工場の所長だったジョージにも、女たらしの従業員のボブにも、それ以外にも俺に関わったあらゆる人間の死に俺は付き合い、そして別れを告げてきた。
慣れっこと言われればそうかもしれないが、それでも、ちょっぴりつらいという気持ちは消えない。
(そういや……ジョージとはよく飲んだよな……)
死んだジョウチンがこの世界に転生しているということは、ジョージも転生しているのだろうか?
もし生きていたら、また一杯やりたいと思ってしまう。
(ま、そんな都合の良い話はねーな)
俺は過去を思い出して少ししんみりしてしまったが、慌ててネガティブな感情を振り払った。
(あんまりバッドに入るとヤバいからな……)
ーーー過去に何度かある、吸血鬼の力の『暴走』。
もはや誰も知る人間はいないが、俺はかつては本当に罪深い生物だった。
無関係の人間をーーー。
何より自分にとって誰よりも大切な人をーーー。
ーーードクン。
ーーードクン。ドクン。
(ヤベ……呼吸を整えろ)
「ふぅ~~~~」
俺は深く息を吐き出すと、落ち着きを取り戻した。
今は減ったが、こんなことは昔は日常茶飯事だった。
人間でいう『自律神経失調症』のような状態で、ネガティブな感情に深く入り過ぎるとパニックを起こしてしまう危険性がある。
そのパニックが自分が苦しむだけならまだ良いのだが、俺の場合は周りにも迷惑をかける類のものだった。
(もう二度とあれは起こすわけにいかない……。気合い入れないと!)
「気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだーーー!!!」
「ちょっ!!うるさっ!!い、いきなりなに!?」
前にいたカトリーナがビクッとしてこちらを振り向く。
「オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイーーー!!」
「いや、だからなんなのか説明しろよ!!」
「ヨッシャーーーー!!!」
「うるさいな!!」
カトリーナにキレられながらも俺が気合いを入れて通常状態に戻ったところで、ローエングリンの父親の元へ着いた。
「白鳥のおじさん、まだ寝てるみたい」
カトリーナが白鳥の形に頭を剃っている親父の顔を覗き込む。
ーーーその瞬間、親父がカッと目を見開き、カトリーナの腕を掴んだ。
「ぺ、ペペン!ペペペペペーーーーーンンン!!!」
「う、うわぁぁああああ!!!」
カトリーナが慌てて手を引き剥がそうと親父の腕を掴むと、突然室内で突風が巻き起こった。
ーーーシュルシュルシュル!!
「こ、これは!!解呪の風ですわ!!」
メイジーが叫んだ通り、親父の体からは紫の瘴気が吹き出し、風が吸い込んでいく。
「ぺぺッ……!ペッ……うっ……んっ!」
段々と親父の顔に血が通っていく。
そしてすべてを吸い込むと、フワッと穏やかな風が吹き、瘴気と風はそのまま消えていった。
ーーードサリ。
「う、うわっ!」
そのままカトリーナに覆いかぶさるように親父は倒れ込んだ。
「カトリーナ!すげーじゃん!なんなのその能力!」
俺は親父を引き剥がしてイスの上に横たわらせつつ、その謎の能力を讃えた。
「び、びっくりしたぁ……。で、でも、やっぱりこれ、洗脳解ける能力みたい」
カトリーナが立ち上がりながらズボンの砂をパンパンしながら言う。
「発動条件は相手に触れること、でしょうか?」
メイジーが首を傾げる。
「いや、それに加えて窮地に立たされたり、特定の条件が必要みてーな感じがしたけどな」
ジョウチンも冷静に観察していた。
「カトリーナ、今その風出せって言われたら出せるか?」
俺はカトリーナに問いかける。
「やってみる」
カトリーナが手をかざすと、室内に小さな竜巻が巻き起こった。
「これは、通常の風魔法ですね」
クロエが巻き上がる竜巻を見つめながら言った。
「やはり解呪の能力を発動させるには特殊な条件が必要のようですわね……」
「ああ。だが、それだとここの信者全員を洗脳から解くのはまず無理だ」
メイジーと俺は考え込む。
「で、でも一個わかったことがあるんだけど……」
「なんだよ?」
俺が聞くと、カトリーナは少し顔を赤らめながら言い出しにくそうな表情でポツリと言葉を漏らした。
(うーん。ジョウチンの奴、やっぱメイジーが気になってんのかな??お嬢様フェチか、あいつは)
支配者を失って静寂が訪れた教会内に総勢7名の足音がコツコツと響く。
俺はメイジーを見るたびに速くなったり遅くなったりするジョウチンの鼓動を真紅の瞳で観察しながら、そんなことを考えていた。
(あいつ前世ではオリヴィア一筋だったはずなのにな。……浮気者め)
思えば、カイ・グランデことジョウチン(情緒不安定なチンピラの略)とは1805年のパリからの付き合いになる。
俺は死ねないから2022年まで生きてしまったが、ジョウチンやその嫁のオリヴィアが前世で死んだ時も墓に花を添えてやった。
俺の経営していたネジ工場の所長だったジョージにも、女たらしの従業員のボブにも、それ以外にも俺に関わったあらゆる人間の死に俺は付き合い、そして別れを告げてきた。
慣れっこと言われればそうかもしれないが、それでも、ちょっぴりつらいという気持ちは消えない。
(そういや……ジョージとはよく飲んだよな……)
死んだジョウチンがこの世界に転生しているということは、ジョージも転生しているのだろうか?
もし生きていたら、また一杯やりたいと思ってしまう。
(ま、そんな都合の良い話はねーな)
俺は過去を思い出して少ししんみりしてしまったが、慌ててネガティブな感情を振り払った。
(あんまりバッドに入るとヤバいからな……)
ーーー過去に何度かある、吸血鬼の力の『暴走』。
もはや誰も知る人間はいないが、俺はかつては本当に罪深い生物だった。
無関係の人間をーーー。
何より自分にとって誰よりも大切な人をーーー。
ーーードクン。
ーーードクン。ドクン。
(ヤベ……呼吸を整えろ)
「ふぅ~~~~」
俺は深く息を吐き出すと、落ち着きを取り戻した。
今は減ったが、こんなことは昔は日常茶飯事だった。
人間でいう『自律神経失調症』のような状態で、ネガティブな感情に深く入り過ぎるとパニックを起こしてしまう危険性がある。
そのパニックが自分が苦しむだけならまだ良いのだが、俺の場合は周りにも迷惑をかける類のものだった。
(もう二度とあれは起こすわけにいかない……。気合い入れないと!)
「気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだーーー!!!」
「ちょっ!!うるさっ!!い、いきなりなに!?」
前にいたカトリーナがビクッとしてこちらを振り向く。
「オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイ!オイーーー!!」
「いや、だからなんなのか説明しろよ!!」
「ヨッシャーーーー!!!」
「うるさいな!!」
カトリーナにキレられながらも俺が気合いを入れて通常状態に戻ったところで、ローエングリンの父親の元へ着いた。
「白鳥のおじさん、まだ寝てるみたい」
カトリーナが白鳥の形に頭を剃っている親父の顔を覗き込む。
ーーーその瞬間、親父がカッと目を見開き、カトリーナの腕を掴んだ。
「ぺ、ペペン!ペペペペペーーーーーンンン!!!」
「う、うわぁぁああああ!!!」
カトリーナが慌てて手を引き剥がそうと親父の腕を掴むと、突然室内で突風が巻き起こった。
ーーーシュルシュルシュル!!
「こ、これは!!解呪の風ですわ!!」
メイジーが叫んだ通り、親父の体からは紫の瘴気が吹き出し、風が吸い込んでいく。
「ぺぺッ……!ペッ……うっ……んっ!」
段々と親父の顔に血が通っていく。
そしてすべてを吸い込むと、フワッと穏やかな風が吹き、瘴気と風はそのまま消えていった。
ーーードサリ。
「う、うわっ!」
そのままカトリーナに覆いかぶさるように親父は倒れ込んだ。
「カトリーナ!すげーじゃん!なんなのその能力!」
俺は親父を引き剥がしてイスの上に横たわらせつつ、その謎の能力を讃えた。
「び、びっくりしたぁ……。で、でも、やっぱりこれ、洗脳解ける能力みたい」
カトリーナが立ち上がりながらズボンの砂をパンパンしながら言う。
「発動条件は相手に触れること、でしょうか?」
メイジーが首を傾げる。
「いや、それに加えて窮地に立たされたり、特定の条件が必要みてーな感じがしたけどな」
ジョウチンも冷静に観察していた。
「カトリーナ、今その風出せって言われたら出せるか?」
俺はカトリーナに問いかける。
「やってみる」
カトリーナが手をかざすと、室内に小さな竜巻が巻き起こった。
「これは、通常の風魔法ですね」
クロエが巻き上がる竜巻を見つめながら言った。
「やはり解呪の能力を発動させるには特殊な条件が必要のようですわね……」
「ああ。だが、それだとここの信者全員を洗脳から解くのはまず無理だ」
メイジーと俺は考え込む。
「で、でも一個わかったことがあるんだけど……」
「なんだよ?」
俺が聞くと、カトリーナは少し顔を赤らめながら言い出しにくそうな表情でポツリと言葉を漏らした。
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