上 下
74 / 146
サタン@現実世界/カイ・グランデ編

ネジ工場の魔王誕生

しおりを挟む
ーーーそんなこんなで、あっという間にそこから20年が経ち、1805年。

ジョージを所長に据えた工場はメキメキと成長し、20年で本当にパリ一番のネジ生産量を誇る工場となった。

ジョージ自身も、38歳という若さでパリの工場関係者で知らぬ者はいないというレベルで有名になり、あの時俺に喰らわせた剛腕は、仕事でもしっかりと発揮してくれていた。

だが、もちろん慈愛に満ちた優しい所長というわけではない。


『あのネジ工場には魔王がいる』


そんな噂が立つくらいケガ人(従業員)は後を絶たなかったが、元々荒くればかりで跳ねっ返りの多い工場。

ケンカは日常茶飯事なので放っておいた。

そんな暴力の化身のような所長でも、従業員の誰もがジョージのことは慕っていたし、この工場の噂を聞きつけて、どうしようもないガキを更生させるために親がぶち込む、といった現象も起きるほど、ジョージの人材育成は名物になっていた。

そして、ジョージが35歳を超えた頃から、俺たちはよく一緒に飲む仲になった。

オーナーと雇われ所長という間柄ではあるが、俺は心を許した友として、特に上下関係無く接している。

「それでよォ、その別工場の若造が俺に絡んできやがって、うちのネジをぶん投げてきやがったんだ。俺はそれでプツンしちゃってよォ。だから、俺のこの丸太みたいな腕でヘッドロックして赤ちゃんみたいに撫で撫でしたらおねんねしちまったよ」

ジョージがデカジョッキのビールをゴクゴクと喉を鳴らして飲む。

「プツンして赤ちゃんヘッドロックで撫で撫でする奴いねーだろ」

俺はブランデーを飲みながらツッコむ。

「ガハハハハ!!」

25年前のあの事件があった頃は、ジョージのような人間とこんな仲になるなんて思ってもみなかった。

もちろん、今でもカトリーナを忘れたことはない。

だけど、ジョージのような人間との繋がりが、俺の心を少しずつ癒してくれているのは間違いなかった。


また、ジョージ以外にも人間との繋りが最近できた。

「そういや、こないだ言ってた野郎はどうなった?あんたを後ろから散弾銃で撃ったっていう」

そう、それがもう1人の人間との繋がり。

ーーーカイ・グランデとの話だ。

「ああ、そいつの件なんだけどさ。悪いんだけど、今度お前の工場で預かってほしいんだ」

「ガハハハ!別に構わねぇぜ。舐めた野郎なら容赦はしねーがな!」

ジョージは5杯目のビールを流し込んだ。

「スペックは、31歳男。無職。ケンカ三昧。「自分はまだ本気出してない」が口グセの奴だ」


「●ろす……」


ジョージは早くもカイに対しての扱いを決めたようだった。

「まぁ適度にお尻ペンペンしてやってくれ」

俺は残りのブランデーをグイッと飲んだ。

「ああ。でも、そりゃ良いんだけどよ。あんたはなんでそんな奴を構うんだ?仮にも散弾銃で背中から撃ってくるような奴だろ?」

「うーん。そうなんだけどね。なんか孤独で切ない感じがあるんだよな」

「銃で撃たれてそんなこと気にしてる奴いねーよ……」

実はカイに構う理由は別にあったが、俺のパーソナルな部分に繋がっているため、ジョージには言えなかった。

だから俺は濁して伝えた。

「なんとなく俺と同じような匂いを感じたというか……。あ、俺の方がもちろんイケメンなんだけど」

「…………」

「いや、なんか言えよ!」

そんなことを語りながら、俺はパリのクソチンピラ野郎、カイとの出会いを思い返していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

処理中です...