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プロローグーようやく死ねた吸血鬼ー

ついに、死ぬことができました!!!

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ーーーーその日、俺はついに死んだ。


(やった……!やった……!)


長い長い月日を退屈に過ごしてきた身としては、『死』を与えてくれたニコル君には感謝しかない。

昔はよくも悪くも色々活動していたが、最近ではそんな気力もなく、落ち着いた山奥でひっそりと隠居暮らし。

長年運動もせず、飲んで食ってを繰り返した結果、かなりの肥満体になってしまった。

以前は手のひらで優しく押し込むように美容液を顔に当てたり、徹底していたお肌のメンテナンスすらサボるようになり、髭もボーボー状態。

そんな容姿の男が複数のサブスクやYouTubeでひたすら動画を見る毎日。

ドラマで感動したりもするし、最近では若者に流行っているというYouTuberの動画を見て、メントスコーラなる遊び動画で爆笑してみたり。

そして、見終わった後は、いつも決まって涙が出た。


「くっ……!何、メントスコーラって……!もう動画なんか見たくない……!人生つまんないよぉ……!」


生まれながらに"永遠に死ねない"という強制的な十字架を背負わされている"吸血鬼"という生き物。

最近ではそれを考えると、あまりの虚無感に俺の精神は限界まで来ていた。


ーーーだから、自分の肉体を消し去る光の中で、俺はニコルくんに強く感謝した。

(マジでありがとう……!)

思えば、彼の祖父の祖父の祖父の祖父くらい(?)のカイ・グランデから続く因縁にも終止符が打たれたことになる。

(思えば最後まで一方的な一族だったな……)

この一族は、カイが死の間際に『バンパネラとの戦争』という恨み節満載の手記を残したことにより、その子孫はことごとく俺に恨みを持ち、襲いかかってきた。

ーーーそうなってしまった原因は200年以上遡る。

昔、パリでチンピラだったカイに肩がぶつかったとかでケンカをふっかけられたことがあった。

めんどくさいのでデコピンで軽く吹っ飛ばしてやったら、仲間とともに俺を調査し始め、常に見張られることとなった。

そして、ある寒い夜、陸橋に倒れている猫に気を取られていた隙に、不覚にも後ろからカイに散弾銃で撃たれてしまう。

しかし、俺は吸血鬼の始祖でヴァンパイア。

当然、すぐに傷は再生し、銃弾を体から弾き出す。

そのままロングコートを翻して黒い翼で空へ飛び上がり、逃げ出す彼の前に着地して言った。

「ちょっと!いい加減しつこいよ!こんな真夜中にうるさい散弾銃なんか撃って、近所迷惑でしょ!!」

「とっ、飛ん……!?」

「そんな暇なことしてないでちゃんと汗水垂らして働きなさい。お前、名前は?」

「ひっ……。カ、カイ……ル……。カイル……ブランド」

「嘘じゃないだろうね?」

「う、嘘じゃねぇ……」

俺は相手の体の変化がわかるヴァンパイアの"真紅の瞳"を発動し、男を観察する。

(名前を言う時、心筋が跳ねたな……)

「お前、嘘を付いているなッ!?」

そのまま赤く光る瞳で睨みつける。

「ひっ!す、すまん!カ、カイ……。カイ・グランデだ……です」

「カイ・グランデくんね。微妙に名前変えてんじゃないよ。あのね……」

俺は尻餅をついてビビるカイに仕事の大切さを語っていった。

そしてひとしきり説教した後に、俺はしゃがんでカイに聞く。

「お前、何歳?」

「さ、31……」

「31!?」

「お、おう」

「無職?」

「無職…。ケンカ三昧……」

「こじらせとるやん」

「えっ?」

「だからこじらせとるやん、って」

「い、いや、そんなことはねぇ。まだ俺は本気出してないだけで……」

そんな彼に向かって俺はニコッと笑いかけると、力を込めてデコピンした。

「ぶっげぇええっっ!!!」

吹っ飛んで陸橋の端から端まで後転していくカイ。

再び俺は翼で飛び上がり、吹っ飛んだ彼の前に着地する。

そして、優しい俺は仕事を斡旋してあげることにした。

「じゃあまずは仕事してみようか」

「え、え……?」

吹っ飛ばされたカイが半身起き上がって疑問符を投げかける。

「お前はしつこい性格だから正確な作業ができそうだ。だから明日からネジ工場で働きなさい。わかったね?」

「な、何勝手に決めてんだこの野郎!」

「よし、決まりだ。言うこと聞かない奴には問答無用で全力グーパンすることで有名な"ネジ工場の魔王"、ジョージ所長に連絡しとくからね」

「よせ!やめろ!」

こうしてカイをネジ工場に送り込んだ俺だったが、その後も度々カイにちょっかいを出されながら過ごしていた。

そのうちカイの子供ができて、そいつらにもちょっかい出されるようになった。

そして、その子供、その子供、その孫、その孫………。

もう誰が誰だかわからないが、俺の素性を知っている一族として、長くお付き合いしてきたのだった。



ーーーそして、現在。

グランデ一族の末裔であるニコル君。

彼は武闘派が多い一族の中で勉強家のようだった。

すぐに銃を構えてくるようなことはせず、どうすれば俺を葬れるか、伝承や魔法などを研究しながらエクソシストとして名を上げていた。

その彼が、俺の前に現れたのは、カイから撃たれたあの日のような、寒い夜だった。

彼は陸橋を歩く俺に後ろから声をかけると、紳士的に言った。

「ニコル・グランデと申します。私の一族が今までお世話になりました。カイから続く恩を返したく。あなたのお望み通り、殺して差し上げる準備が整いました」

「そっか」と俺は答えると、振り向かずに目を閉じた。

ニコルは何やら呪文を唱えている。

その呪文の言霊を聞いて、俺は確信した。

(ああ……これ、多分ガチで死ぬやつだ…)

地面に魔法陣が現れる。

(……ようやく。バンパネラの人生に幕を閉じる時が来た。エドガーはまだ生きているだろうか……。まぁもういいか……)

そして、白い光に包まれると、俺の体はボロボロと崩れていった。

不思議と痛みは無い。

(人間がよく言う"あの世"ってどんなところだろう……。楽しみ!)

人の世界でやるべきことは十分やった俺は、まだ見ぬ"あの世"に期待感を持ちながら光の中へ霧散していった。
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