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石口由香里 編
浮気を知った妻と追いかける夫
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「麻里、ちょっと待って!」
その後孝之は、麻里の早足で歩く背中に向かってひたすら話しかけていた。
麻里は謎の人物からのLINEを開き、そこにアップされた隠し撮りの音声で孝之の浮気の事実を知った。
しかし、そう簡単に現実を受け入れることはできない。
自分でも気が動転してしまい、気づくと早足でベビーカーを押しながら、目的も無く歩き始めていた。
「待って!話を聞いて!」
麻里の瞳からポロポロと大粒の涙が溢れて止まらない。
子供も産まれたばかりで大変な状況ではあったが、忙しく一家の大黒柱として働いてくれる孝之を信じてワンオペしていた。
出張中、毎日仕事の関係者と飲み会だと聞いていた時も、孝之の体のことだけを心配していた。
別の女性と体を重ねていたあの日も、眠る娘の頭を撫でながら、
「パパはお仕事頑張ってるって。早くパパに会いたいね」
と優しく呟いていた麻里。
「ぐっ……。くうぅ……ひくっ……」
自分の惨めさに涙が止まらない。
前から孝之はスマホを見せようとしなかったし、撮ってくれた写真のフォルダを見ていただけなのに「もういいかな?」と奪われたこともある。
それに付き合っている時は毎日求められていたが、ここ最近は夜も全く誘われなくなっていた。
だから、そういう可能性があるのではないか、と考えなかった訳じゃない。
でも、孝之を信じると決めていた麻里は自分が一生懸命彼を支えていれば、何も問題は無いと思っていたのだった。
しかし、そんな想いは麻里だけのものであった。
後ろから大声で孝之が追いかけてくる。
「麻里!待てって!」
もう何も話したくない。
「待ってくれ!聞いてくれ!」
知らない。
「待てって!なぁ!」
ベビーカーで眠る最愛の娘。
浮気やギャンブルが日常茶飯事だったクズの父のせいで、自分の親がしょっちゅうケンカしていたのを見ていた麻里は、この子にケンカする両親の姿は見せたくないなぁ、と思った。
「おい、待てって!頼むよ!」
そんな環境だったため、浮気する人は、改心なんて絶対しないことを麻里は知っていた。
その時は反省しても、また必ず繰り返す。
人は変わらないし、変えられない。
「あの人を自分が変えてあげなきゃ!」というのは自分の自己満足に過ぎない。
(私のお母さんはそれで失敗した)
母が変な優しさでダラダラと関係を続けた結果、また父は同じことを繰り返した。
しかし、麻里はそれを父のせいだけにはしていなかった。
子供ながらに、母こそが父に依存していたのだと気付いていた。
「あの人には自分がいないとダメだから」と言いつつ、それは単なる強がりであり、本当は自分が捨てられたくなかったのだ。
つまりどっちもクズであった。
(私はお母さんとは違う)
そのため、麻里は両親を反面教師に生きてきた。
座右の銘は『ダメな奴は何をやってもダメ』。
ダメな奴にどうアドバイスしても良くはならない。
あっさり浮気バレするようなダメな奴はお金の管理もできないし、空気も読めないから良い友達もいないし、仕事でも成功することは無い。
何をやらせても、何も一丁前に出来ないのだ。
つまり生きる価値無し。
それが麻里の結論であった。
殺人などの犯罪は別にしても、倫理的な罪や軽犯罪を常習的に行ってきたクズが更生するなんてことは、まず無い。
そんな男を選んでしまったのも自分自身。
そんな男と子供を作ってしまったのも自分自身。
(でも、この子に罪はない。大好き)
この子のためにもこの人とは離婚しよう。すぐにそう決めた。
どんな理由があるにしろ、こいつはクズ男だ。
痛みが浅いうちにお別れしよう。
そう考えていると、結論が出たからか、スッと心が軽くなってきた。
(在宅でできるデザインの仕事復活しようかな。あ、絵里の仕事手伝ってって言われてたからそれもスタートしようかしら)
麻里の瞳からはもう涙は出ていなかった。
「おい、ちょ待てよ!」
後ろでまだ何か言っていた。
その後孝之は、麻里の早足で歩く背中に向かってひたすら話しかけていた。
麻里は謎の人物からのLINEを開き、そこにアップされた隠し撮りの音声で孝之の浮気の事実を知った。
しかし、そう簡単に現実を受け入れることはできない。
自分でも気が動転してしまい、気づくと早足でベビーカーを押しながら、目的も無く歩き始めていた。
「待って!話を聞いて!」
麻里の瞳からポロポロと大粒の涙が溢れて止まらない。
子供も産まれたばかりで大変な状況ではあったが、忙しく一家の大黒柱として働いてくれる孝之を信じてワンオペしていた。
出張中、毎日仕事の関係者と飲み会だと聞いていた時も、孝之の体のことだけを心配していた。
別の女性と体を重ねていたあの日も、眠る娘の頭を撫でながら、
「パパはお仕事頑張ってるって。早くパパに会いたいね」
と優しく呟いていた麻里。
「ぐっ……。くうぅ……ひくっ……」
自分の惨めさに涙が止まらない。
前から孝之はスマホを見せようとしなかったし、撮ってくれた写真のフォルダを見ていただけなのに「もういいかな?」と奪われたこともある。
それに付き合っている時は毎日求められていたが、ここ最近は夜も全く誘われなくなっていた。
だから、そういう可能性があるのではないか、と考えなかった訳じゃない。
でも、孝之を信じると決めていた麻里は自分が一生懸命彼を支えていれば、何も問題は無いと思っていたのだった。
しかし、そんな想いは麻里だけのものであった。
後ろから大声で孝之が追いかけてくる。
「麻里!待てって!」
もう何も話したくない。
「待ってくれ!聞いてくれ!」
知らない。
「待てって!なぁ!」
ベビーカーで眠る最愛の娘。
浮気やギャンブルが日常茶飯事だったクズの父のせいで、自分の親がしょっちゅうケンカしていたのを見ていた麻里は、この子にケンカする両親の姿は見せたくないなぁ、と思った。
「おい、待てって!頼むよ!」
そんな環境だったため、浮気する人は、改心なんて絶対しないことを麻里は知っていた。
その時は反省しても、また必ず繰り返す。
人は変わらないし、変えられない。
「あの人を自分が変えてあげなきゃ!」というのは自分の自己満足に過ぎない。
(私のお母さんはそれで失敗した)
母が変な優しさでダラダラと関係を続けた結果、また父は同じことを繰り返した。
しかし、麻里はそれを父のせいだけにはしていなかった。
子供ながらに、母こそが父に依存していたのだと気付いていた。
「あの人には自分がいないとダメだから」と言いつつ、それは単なる強がりであり、本当は自分が捨てられたくなかったのだ。
つまりどっちもクズであった。
(私はお母さんとは違う)
そのため、麻里は両親を反面教師に生きてきた。
座右の銘は『ダメな奴は何をやってもダメ』。
ダメな奴にどうアドバイスしても良くはならない。
あっさり浮気バレするようなダメな奴はお金の管理もできないし、空気も読めないから良い友達もいないし、仕事でも成功することは無い。
何をやらせても、何も一丁前に出来ないのだ。
つまり生きる価値無し。
それが麻里の結論であった。
殺人などの犯罪は別にしても、倫理的な罪や軽犯罪を常習的に行ってきたクズが更生するなんてことは、まず無い。
そんな男を選んでしまったのも自分自身。
そんな男と子供を作ってしまったのも自分自身。
(でも、この子に罪はない。大好き)
この子のためにもこの人とは離婚しよう。すぐにそう決めた。
どんな理由があるにしろ、こいつはクズ男だ。
痛みが浅いうちにお別れしよう。
そう考えていると、結論が出たからか、スッと心が軽くなってきた。
(在宅でできるデザインの仕事復活しようかな。あ、絵里の仕事手伝ってって言われてたからそれもスタートしようかしら)
麻里の瞳からはもう涙は出ていなかった。
「おい、ちょ待てよ!」
後ろでまだ何か言っていた。
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