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第三話

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 するとすぐに物語に没頭して行ったわたくしは、その描写からまだ見ぬ光景に思いを馳せて……ふと呟きました。

「『カフェ』って、どんなところなのかしら……」

「行ってみる?」

 ごく気軽なことのように発せられた提案に、わたくしは慌てて首を振りました。

「何をおっしゃいます、『カフェ』といえば紳士の社交場ではございませんか。女人禁制なのでしょう? それにわたくしが街に出かけるなんて、ありえませんわ」

 最近この国にも初めてできたばかりの『カフェ』は、殿方たちが集まり昼は珈琲を、夜はお酒を嗜みながら、政治や経済について自由に語り合う場所なのだそうです。そんな『カフェ』には、たとえ男性同伴でも女性は入店できないという決まりがありました。もっとも、王女であるわたくしには、市井のお店で飲食をする機会などないのですが。

「そんなもの、男のフリをして行けばいいんだよ。私もこの国のカフェには、一度行ってみたかったんだ。君の安全は必ず守ると約束するから……結婚して自由がなくなってしまう前に、せっかくだから最後に羽を伸ばしておかないか?」

 良いいたずらを思いついた子どものような顔で笑う彼に、わたくしは軽く非難を込めた目を向けて言いました。

「まあ! 殿方はよくそういったことをお考えになるらしいですけれど、あまり良いことのようには思えませんわ」

「だがそれが、王国紳士の社交の一環ってものさ。実際にどんなものなのか、結婚生活を上手くやっていくためにも男心を理解しておくのは悪くないだろう?」

 そう言われてみると、ニクラスは件のカフェにはよくお友だちと行っているそうなのです。詳しくははぐらかされて聞けませんでしたが、とても興味があります。ニクラスがそれほど楽しいと言うお店は、一体どんなところなのでしょう。

 しばらくの葛藤の末、とうとう好奇心に負けてしまったわたくしは……悪魔の誘いに乗りました。

「では、す、少しだけ……」

「よし、では準備をしようか!」
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