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昂輝の恋

片想いの終わりに

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 Wデートは、なぜだか普通のデートだった。
悠一には香菜ちゃんを水樹から引き離して欲しいとお願いしていたけれどーーー。



「あっ、悠一くん。見て見て。これブサかわ~。いい、すっごくいい!」

「悠一くん、これどう?かなりヤバイ。なんてぶさいく~」


 無理に引き離す必要もなく香菜ちゃんは、悠一にブサかわグッズを見せまくり、挙げ句の果てには「わたし達ここいるから、二人でウロウロしてきて~」とペットショップの鼻ペチャコーナーで盛り上がっていた、主に香菜ちゃんが。

四人でちゃんと揃ってたのは映画館とご飯食べた時だけ。じゃあなんで初めっから二人きりじゃ駄目なんだよと疑問しかない。
映画はアーティストのドキュメンタリーを選んだから悠一はあんま興味ないだろうと思ったけれど「意外と楽しかった」そうで、食事しながら音楽について盛り上がった。時折悠一がスマホを気にするから、高校生にもなって母親が厳しくって可哀そうにと勝手に思っていた。だけど後で聞いたら、同級生たちがが急遽オンラインでゲームし始めたらしくて、気になってたそうだ。その中に悠一の好きな女の子がいてかなり焦ってたらしい。「悠一にもそんな可愛いところあんだな」って笑ったら、「お前も可愛いよ」と笑顔で返された。まぶしすぎるよ、悠一。


「しっかし、香菜、今日買いすぎじゃないの?ブサイクだらけじゃん」

「ブサイクっていうな~。みんな可愛いよ。これなんか見て。ベースのネックにぶら下げたらめちゃ可愛くない?」

「それぶら下げたら、うちらのテイストと違うって佳正に怒られるんじゃない?」

「ええ~。だって、可愛いよ?」

「可愛いねえ?」

「そりゃ、イケメン好きの水樹にはわからないだろうけどさ」

「ばっ、別に、イケメン好きじゃないしっ」


「そうお?だって、佳正、」
「香菜、怒るよ」

「もう、怒ってんじゃーん。水樹、可愛い」

「はいはい。香菜の可愛いはブサイクだよね。わたしはブサイクです」

「起こってる水樹は、ね。ね?昂輝くん?」

「起こってても、水樹は可愛いよ」

「ばっ「そっかー。そうだね。可愛いかも、ふふ」……馬鹿じゃないの」


 水樹は綺麗だし、かっこいい。どんな顔してたって、まるごと飲み込みたくなるくらいに可愛い。そんな当たり前の話より、香菜ちゃんの「佳正、」の続きが気になった。


 佳正イケメンじゃん
 佳正イケメンだから好きなんでしょ
 佳正のこと好きなのはどうして?

聞くことのできない質問が頭の中でぐるぐる回る。
水樹の隣に香菜ちゃんと佳正先輩。いつも三人で立って並んでいる、中学の頃から見てきた景色だった。ギターとベースを持って女性のツインボーカル、後ろで佳正先輩のドラムのスリーピースバンド。小さな町だから、水樹たちのバンドを知らない中高生はいないんじゃないかってくらい、有名だった。
初めてライブ演奏を見た時の衝撃、その時一緒に見に行った奴らとソッコーバンドを組んだ。水樹が高一の出来事だった。



 悠一達が鼻ペチャ達に癒されている間、ショッピングモールにある楽器屋に寄った。
デートって意識されたないなと始め思ったけれど、バンドマン同士のデートならこれもアリかと思い直した。一緒にいるんだから全て楽しまなきゃ損だろ?第一、楽器屋にだって一緒に出掛けるのは初めてのことだ、楽しくないわけがない。楽しかった、好きな人と好きな楽器に囲まれて、楽しくないわけがない。
後はその楽しい流れに沿って、モール内をウロウロした。全てバンドにかこつけて。これはバンドの衣装になるんじゃないかとか、これならステージ映えするんじゃないか、とか。楽しかったけれど、もう一歩踏み出せないまま時間だけが過ぎていく。俺は変わらず水樹の隣をキープしたままで香菜ちゃんの隣は安定の悠一だったが、香菜ちゃんと挨拶程度しか接触のなかった悠一なのに互いに楽しそうに一日を過ごしているのがなんだか腹立たしい。こっちは水樹に男として意識してもらおうと精神上はあがいているのにと、勝手に苛立つ。


「どうしたの?」

「なにが?」

「なんか、イライラしてる?」

「俺?イライラしてる?」


「違うならいいけど」

「……わからない。そうかも、でも、そうじゃないかも」

「わかってないなら、いいけど、」

「ごめん。気を遣わせた」

「別に。長い付き合いじゃん、変な気は使わないし、自然体」

「……家族みたいな?」

「家族?……だったら、いい、ね」



 水樹の言葉に脳天をかち割られたような衝撃を受けた。
家族って?家族がいいのか?どこが?
俺はそんなの望んじゃいない。水樹と彼氏彼女になりたいんだ。水樹を好きだって告げて、水樹からも返される、そんな毎日がいい。なのに……。
意気消沈の俺は「付き合って」と言えないまま、その日は別れた。




******





「一昨日の香菜ちゃん、可愛かったな」


 朝、学校の廊下で悠一が言う。人もまばらな早い時間。格子て二人でのんびりするのが日課だ。廊下の窓から俺はいつもの如く、水樹が登校してくるのを眺めている。


「ブサイクが好きで俺のことは眼中にないですよ、っていうアピールが可愛い」


「……お前、屈折してるな」

「そう?変なこと気にしないで楽しめたから、俺的にはすごい良かったけどね」

「モテる奴は、いろいろと大変だな」

「お前もな」

「俺?」

「無自覚、怖い」

「告られたことはないぞ」

「……脈無しだと誰もがわかるからな」

「そうなのか?」

「今までは朧気だったけど、高校デビューで一網打尽だ」

「?言ってる意味がよくわかんないけど。でも一昨日は付き合ってくれて、サンキュな」


「……付き合って、といえば、俺、彼女できた」

「は?え?いつ?」

「昨日」

「マジで?びっくりだ」

「俺もびっくりだからな」

「でも、よかったな」

「ああ、マジで良かった」


 そんなこと話していたら、悠一のできたてほやほやの彼女登場だ。


「悠一くん、昨日は楽しかった~」


 相変わらず遠くで女子たちに睨まれているが、気にせずにコロコロと笑っているそんなすみれちゃんに、悠一は見たことのないような柔らかい眼差しで見つめ、そして頭を軽く撫でた。
悠一の「俺のもの」アピールはクリーンヒットだったようで、男女問わず周りの目が確実に死んでたし、されたすみれちゃんはキョドってた。
それがなんだかとても微笑ましくて、羨ましくて。
じっと悠一を見ていたら「おまえも、高校デビューしたんだろ?」ってにやりと笑われた。
そうだ、俺はデビューしたんだった。羨ましいなら俺もすればいい、それだけのことだろ?午前中の授業の間、謎の呪文のように唱えて自分に言い聞かせた。


 昼休み、三年の教室に向かった。廊下には馴染んだポジションのように三人が並んで立っていた。俺が近づくと佳正先輩はチラリとこっちに視線を向けたがそれだけで、あとは無関心といった風だった。

(無視かよ、まあ、当たり前か)

 水樹は俺を見ると、何でここにきてんの?とばかりに頭にはてなマークが浮かんでいるようだったけれど、構わずに話しかけた。


「水樹。デート、楽しかった。今日の放課後は、なんか予定あんの?」


 一瞬固まったように見えたが気にせず話しかける。俺はデビューしたばっかりの新人だから、作法なんてものは知らないんだと内心息巻いていると、意外な人物が答えた。


「今日は練習はないぞ」


「ちょっと、佳正、」
「ほっとくとお前、違う方向に暴走するからな」

「そうだね。ねえ昂輝くん。今日は水樹、暇だってさっき言ってたよ」

「ちょっと、香菜までっ」

「じゃあ、一緒に帰ろう。授業終わるの待ってる」


 水樹の返事は待たずに教室へと戻った。心臓はバクバクだった。はじめてステージに立ちスポットライト浴びた時よりも緊張したし、ドキドキもした。
日常生活でこんなに心臓に悪いことってあるんだなって知った。



******


 三年生の授業が終わるのを待って、教室まで迎えに行った。逃げられては元も子もないからな。だけど、水樹は俺が行くのをちゃんと待っててくれたようだった。


「悪い、待たせたか」

「ううん、終わったばっか。帰ろ」


 いつもはバンド仲間や悠一と帰るこの道を水樹と帰るのが不思議な感じだった。小さなころからの馴染んだ町なのに景色さえも違って見えるような不思議な気分。


「今日、二人は?」

「……邪魔すると悪いからって、先に帰った」

「水樹はそれでいいの?」

「それでって?」

「…………佳正先輩のこと」

「佳正?どういうこと?」

「……だって、いつも一緒にいんじゃん」

「バンド仲間だからね?」

「それだけ?」

「それだけ?……?なんか、誤解してるでしょ」

「誤解って?」

「佳正のこと。ただのバンド仲間だからね」

「…それってさ、俺、自惚れてもいいってこと?」

「何をいまさらって感じなんだけど?」

「え?どういうこと?」

「……まじか」

「何が?」

「私言ったじゃん。高校生になったらって」

「?」

「だって言える?中学生の私が好きな人は小学生って。高校生の私が中学生と付き合ってるって。そんなの、言えないじゃんか。だから、昂輝が高校生になるの、待ってたよ」

「ならなんで、Wデートにしたんだよ」

「みんなの前で言うからよ。あんた、知らないの?自分がどんだけモテてるか?小さなころからのモテモテイケメンバンドマンが皆の前でデートに誘うから、ああいうしかなかったんですけど。なのに今日も大勢の人がいるところで言うし」

「俺は水樹に逃げられたくなかったし、佳正先輩を牽制しとかないとって」

「逃げないって。それに佳正も香菜も、私がずっと昂輝のこと好きなの知ってる、いつも揶揄われるくらいに」


 それを聞いて一気に拍子抜けした。


「この間、家族って言ったから、さ。てっきり俺のこと男として見てないんだって思って」
「昂輝のご両親には家族同様の扱いをしてもらってるし、本当の家族になれればいいなって、その、ずっと思ってた、し、」
「そっか……俺、すげー馬鹿」

「……知ってる」

「なんか、力抜けた~。じゃあさ、もっかいデートやり直させて。ちゃんと二人きりで、出かけたい」

「もっかいだけ?」

「……何度も、何度だって」

「ふふ。何度もデートしよ」


 ふにゃりと笑った水樹はいつも以上に可愛くって、二つも年上の大人っぽい水樹はそこにはいなかった。

「じゃあ、今日はとりあえずファストフードでもいく?」


「そうだな。……でも、うちの学年、いま普通の高校生デートの定義が、」
「あ、それ、知ってる。夏樹くんでしょ、三年でも噂になってる、超絶イケメン登場って」

「……夏樹、すっかり有名人だな」

「昂輝ほどじゃないと思うけどね」

「そうなの?」

「無自覚、ほんと怖い」

「じゃあ、今日これからどうする?」

「昂輝んち、いこっか」

「うち?」

「そ。今日、教室お休みでしょ。先生、じゃなかった、昂輝のお母さんに報告に行く。でもって、レッスン室借りちゃう」

「日常じゃねえか」

「昂輝の懐事情知ってるからね」

「は、俺、高校生になったから週末ライブハウスでバイトすんだけど」

「嘘、なに、ずるい。オーナーってば女子高生は駄目っていうから」

「ああ見えて、ジェントルメンだからな」

「ああ見えてって、一言多いよ」


 歩きながら他愛もない話をするのが楽しい。
こんな日が来るのを夢見ていた。ずっと追いかけてばかりの俺だったけど、ようやく隣で並んで歩ける日が来たのだ。
まだ始まったばかりの高校生活、夢や希望に満ち溢れているっていうのは本当なのかもしれない。















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