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氷の微笑と奇跡の紳士

13話 友の待つ宿へ

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 本社ビルでバートン財団の管理を行うルーファスにノイズから連絡がきた。

「ルーファス」
「ノイズ! 無事か!?」
「私は大丈夫。それよりレンブラントが囚われたの! 今度は!」
「何だって?」
「私とミライとブライトはモンテローザの裏口から出ているわ。すぐそばにまだ居るの! ここまで来たらシャロン・レドールと全面対決よ! 援軍が欲しいわ!」
「こちらは重役会議の1日目は主な支店と支社の売り上げの話だったから進めておいた。もうすぐ月曜日だな」
「よし。アルベルトとジョンとレイモンを寄越すよ。モンテローザまで車で3時間程だろう?絶対に間に合わせる」
「頼むわ」
「レンブラントを絶対に連れて帰ってこいよ!」

 ルーファスは携帯電話を切ると、そのままアルベルトとジョンに連絡を入れる。レイモンにもだ。

「よう、おはよう! ジョン」
「ルーファスか。その様子だと援軍要請だな。大体おかれている状況はわかるぞ」
「話が早いな。レンブラントがノイズ達の代わりに囚われた。あいつを助けに向かってくれないか?」
「了解だ!場所はモンテローザだろう。丁度俺が泊まる街の近くだ。すぐに向かう!」
「助かる!」
 
 次はアルベルトだな。電話をかけると律儀に出た。

「おはよう! アルベルト」
「おはようございます。レンブラント社長は?」
「まだモンテローザだ。それでお前にも救援に向かって欲しくてな」
「モンテローザなら僕が泊まる街にも近いですね。行きますよ」
「レイモンにも声をかけるぞ」
「レイモンさんなら外傷の怪我も治療できますからね」
「モンテローザに向かいますね」
「頼む」

 どうやらレイモンは電話の内容を耳にしていたらしい。手早く彼もモンテローザに向かうといい、支度をして一堂で向っていた。
 ノイズ、ブライト、ミライはモンテローザのすぐ側の喫茶店で待っている。何はともあれ脱出はできた。後はレンブラントをシャロンから救い出すだけ。
 レンブラントの性格なら軟禁された部屋でもしかしたら脱出を計画しているかもしれない。とりあえずこれから起こるシャロン・レドールとの対決に覚悟しておこう。
 それが彼らの総意だった。
 確かにお互いにパートナーがいるのに身体の関係に及んでしまった。だがノイズとブライトはあれは生命の危機でもあった。ミライとレンブラントはシャロンの誘惑に負けて行為に及んでしまった。
 だけど。やっぱり謝らないと。
 ミライはブライトに謝った。

「ごめんなさい。ブライト」
「ミライ?」
「その…レンブラント社長と一夜だけとはいえ関係を持ってしまって……本当にごめんなさい」
「俺もミライに謝らないと。ノイズさんと関係をしてしまった。生命の危機に立たされていたとはいえ、君を不愉快にさせて」
「ごめんね、ブライト」
「こっちこそゴメンな、ミライ」

 そんな2人を見つめて、やっぱり彼らはお互いを認めあったパートナーだと思う。
 素直に非を認める。それが出来るならパートナーシップは強力になる。互いに互いを助け合い、非を認める。理想的な2人だと思う。
 こんな2人を見れば自然とやる気が出るというものだ。彼らの為にもレンブラントは助ける。
 喫茶店で休む事約1時間。
 バートン財団の援軍がきた。困った時の大事な助っ人。どんな時でもバートン財団の為に戦う戦士が。

「この辺りかな。ノイズ君! ブライト、ミライ君!」
「ジョンさんだ!」
「こんなに早く来れたの?」
「電光石火みたいな速さですね」
「こういうの不謹慎だけど楽しみなんだ」
「え~と。ノイズさん! ブライトさん! ミライさん!」
「アルベルトも来たわよ」
「アルベルトも電光石火みたいな速さだな」
「こっちに来る前に大体の事は聞きました。後はレイモンさんだけですね」
「今に来るさ」
「居た居た! 待たせたな。みんな」
「レイモンも来たわね。これで全員ね」
 
 ノイズが陣頭指揮を執り、彼らはレンブラント救出作戦の為に、彼らが脱出口として使った道を使いそこから『友を待つ宿』の攻略を始めた。

「行くわよ!」

 レンブラントという文字通り『友を待つ宿』に突入したバートン財団の戦士達だった。

 『友を待つ宿』は入り組んだ迷路のようなホテルだった。そこはホテルというよりも要塞。シャロン・レドールの本拠地みたいなものだ。
 内装は確かにホテルのような景観。部屋もダミー的にとはいえ無駄が無い造りだった。すると彼らが無理矢理突入したのがバレたらしく、シャロンに雇われた暗殺者達が行く手を阻む。
 ジョンやノイズ、ブライトやミライは自衛の為の拳銃を手にする。アルベルトは意外や意外、サバイバルナイフで活路を開く。アルベルトはフェンシングの世界大会での優勝の経歴を持つ、優しい見た目に反する人物。己を邪魔する者は斬り捨てる。
 元きた道が天井から柵が降りて後戻り出来ないように塞いだ。今更後戻りはするつもりなど無い。彼らはレンブラントの名前を呼びながら前に進む。
 更に黒いスーツの男達が銃を乱射してくる。彼らは物陰に隠れながら応戦する。レイモンの片手には救命箱が握られている。何か怪我をしてもレイモンは外科医の免許持ち。最善の処置を施す。
 その頃。いつまでも落ち込む訳にはいかないレンブラントも灰色のシャツを纏い、どこかに鍵は無いものか辺りを調べる。このまま彼らに助けられてはどこぞの姫様ではないか。鞭で打たれた傷が痛むが脱出しようと懸命に探した。
 鍵の代わりになる物でも構わない。
 折檻部屋は暗闇が支配するが、ようやく暗さに慣れたレンブラントは折檻部屋に似つかわしくない置物に注目する。もしかしたら。その置物は壺だった。あからさまだがこんな所に鍵があれば儲け物だ。
 その儲け物が壷から出てきた。
 あっさりし過ぎている。これは罠か?
 いや。罠にしても出ないと始まらない。
 レンブラントはその鍵を刺すと、鍵穴に収まりきちんと開いた。
 武器はズボンのポケットに潜ませたバタフライナイフ。これしか無い。
 レンブラントも脱出を図った。
 有り難い構造だった。折檻部屋は丁度通路の突き当たりだった。廊下を行く方向がわかる。彼は走ってそこから脱出しようと向かった。折りしも彼を助けに向かう仲間の下へ。

 その彼らの様子をシャロンはカメラで観ている。滑稽な見物だ。しかし彼らは知っているかしら?
 最後には必ずどんでん返しが待っているものなのだ。面白い物語にはどんでん返しが。

 『友を待つ宿』は入り組んだ構造だが一本道だった。
 何かが待っているに違いない。
 するとここでミライが見覚えある男が待っている。
 確かスコットランドヤード警察のニックではないか?
 ノイズ達は警戒する。
 
「ニックさん!」
「ニック?」
「モンテローザで一度だけ会いました。スコットランドヤード警察の人です」
「警察官?」

 レイモンはだがおかしいと思う。
 目の焦点が合ってない。
 それに目が据わっている。危険な目だ。
 殺気を帯びているように感じる。
 あれは──!
 ヤクだ。コカイン中毒になっている!

「注意しろ! そいつはヤクをやってるぞ!」
「アハハハハ! 死ね! 死ねえ!」

 いきなり拳銃を乱射してきた!
 コカイン中毒者はほとんど病気。サイコパスみたいなものだ。
 こんなヤク中毒に構う暇は無いのに!
 ジョンが叫ぶ。

「俺に任せてみんなは先へ! ヤク中毒者など俺が片付ける!」
「──怪我しても生命は落とさないで!」
「アハハハハ! アハハハハ! 死ね! 死ね!」
「あんな奴にやられるようなら引退時かもな! 行け!」

 ノイズ達は先を急ぐ。

「待ちやがれ! このアマ!」
「お前の相手は俺だよ! ニックとやら!」
「てめえには用はねえ! 邪魔だ、死ね」
「死ぬのはお前だよ! ヤク中毒が!」

 その様子もカメラで観るシャロン。
 あのニックは自分につきまとうしつこい男だった。一度だけ寝た事もある。そしてセックスで虜にさせた。アイツはそこそこの床上手だったがそれだけだ。麻薬捜査でそいつはコカイン中毒になった。民間人も銃殺しているクズ野郎。
 クズは最後までクズだったわね。
 さして期待もしていないシャロンは、最後の仕上げに取り掛かる。
 小説は書けた。レンブラント・バートンは死ぬ事になっている。
 それを実行に移す。それだけだった。
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